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しなやかな弓、貫く3本の矢【名古屋グランパス】

今季のJ1リーグ序盤戦、好スタートを切ったチームの一つが名古屋グランパスだ。堅守からの縦に速いカウンターという明確な武器でしぶとく勝ち点を積み上げている。

しかし、この3年は安定した戦いぶりで一定の順位を守ることに成功している一方、本格的に優勝争いに絡むことは出来ていない。
今シーズンは8試合を終えて現在2位。今季こそは2010年シーズン以来のリーグ優勝をその手に出来るか。


「堅守」という看板

名古屋グランパスの転機は2019年だった。

このシーズンの開幕時の監督は風間八宏氏。J2から1年での昇格を達成し、ボールを保持する攻撃重視のスタイルを名古屋に植え付けようとしていた。
しかし、J1ではそのスタイルの成果が出ず、特に失点数の多さが問題に。結果的に2019年途中で解任となってしまった。

後任についたのはマッシモ・フィッカデンティ氏。
チェゼーナの監督時代には長友佑都を見出したイタリア人監督で、JリーグではFC東京・サガン鳥栖での”堅守速攻”スタイルを評価されての就任となった。

まず2019年は残留を決め、フィッカデンティが開幕から指揮を執った2020年には早くも最終順位3位という結果を出す。躍進を支えたのはその守備力。
「歴代最多タイ17試合のクリーンシート」「2020年の年間最少失点28」と記録的な堅守を誇るチームを作り上げた。

翌年の2021年も、首位川崎に次ぐ失点数2位の30失点でリーグ5位・ルヴァンカップ優勝を果たし、イタリア人監督のもとで「堅守の名古屋」という大看板を掲げ、威風堂々とJ1の舞台で再び歩みを進め始めた。


引き継がれた堅守速攻

2021年限りでフィッカデンティ監督の契約が満了し、後任に付いたのは長谷川健太監督。2014年にはガンバ大阪で国内3冠、その後就任したFC東京でもリーグ2位・ルヴァンカップ優勝を果たした名将だ。
長谷川監督の得意とする戦術もまた、バスケットボールを参考にした「ファストブレイク」とよばれる堅守速攻スタイルで、前任の流れを継続する好人事だったといえる。

しかし、大きく期待された長谷川監督だったが、主力の新型コロナウイルス感染や、クラスター発生、得点源として期待されていたヤクブ・シュヴィルツォクの出場禁止などでチーム作りは難航。
チームの失点数はリーグ1位タイの35点と堅守の看板は守ったものの、得点数はリーグワースト2位の30点と得点力の低さが原因となり、最終順位は8位となった。

3人のストライカー

そんな得点力不足にあえぐ名古屋に2人の救世主が現れた。
2022年夏に3度目の復帰を果たした永井謙佑。そして、2023年に浦和から加入したキャスパー・ユンカーだ。

永井謙佑は日本代表でも武器となったその爆発的なスピードで長短のカウンターの先鋒を務め、ユンカーは柔らかいポストプレーからゴール前に飛び出し精度の高い左足で確実にゴールを奪う。
ここに、2021年8ゴール5アシストを挙げ攻撃において孤軍奮闘した名古屋の10番マテウス・カストロを併せて、Jリーグ屈指の3トップが完成。スピードに優れた縦へのアタックという、2つ目の看板を掲げた。

現にここまでチーム総得点10の内、ユンカー4点・永井3点・マテウス1点とチームの得点のほとんどをこの3人が奪っている。”どこからでも点が取れる”といった美学も存在するが、逆にこの明確さこそが今年の名古屋の強みだ。


堅守だけではない自慢の3バック

もちろん今年の名古屋は堅守の看板も下ろさない。
ここまで8試合で失点3、複数失点無しという見事な数字だ。GKランゲラックの存在は勿論だが、中谷進之介・野上結貴・藤井陽也の3バックが非常に安定している。クロス対応や対人守備のレベルの高さに加え、ボールを扱う技術が高い為ディフェンシブサードでのミスからの失点が非常に少ない。

そしてこの3バックの売りは守備だけではない。
ハイプレスに対してアバウトに蹴り出すのではなく、ポジションを取り直しながら平面でボールを前進させ、前のスペースが空けば自らスイスイと持ち上がる。
ベタ引きからのカウンターだけではなく、この3人だからこそ状況に応じてビルドアップの選択を取れるのが今季の名古屋の進化といえる。



堅守にも攻撃的にも姿を変える最終ラインと、決定力の高いアタッカー陣が面白いほど嚙み合っているのが今年の名古屋グランパスだ。

後ろに枚数をかけたビルドアップからの、3トップによる電光石火のゴールゲット。その様はさながら、堅くしなやかな弓から放たれ貫く3本の矢。

その矢の先端の照準は、12年振りの優勝へピタリと定まっている。

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