ストライカーという生物【5月3日(水・祝) 京都サンガFC×川崎フロンターレ観戦記】
5月3日(水・祝)14:00~、サンガスタジアムby京セラで行われた、京都サンガFC×川崎フロンターレを現地観戦した。
個人的には今季初のJ1観戦であり、初のサンガスタジアム参戦。昨年も好ゲームを繰り広げたカードという事もあり、非常に楽しみな一戦となった。
大阪駅からJR京都線新快速に乗り込むと、約30分で京都駅に到着。そこから京都駅のホームの端へ移動し嵯峨野線に乗換える。
二条、太秦、嵐山を通り、川下りで有名な保津川を眺めながら山道を越えると、亀岡駅に到着。遮蔽物の少ない広大な土地にそびえ建つ街のシンボル、それがサンガスタジアムだ。
サンガスタジアムはJリーグのスタジアムで最も駅から近いスタジアムの1つ。駅すらもスタジアム設備の一部の様な雰囲気で、キッチンカーが立ち並ぶ駅前の広場、スタジアム脇のスターバックス含め、エリア全体が1つのエンタメ施設の機能を果たしている。
地域密着・レジャー化を目指すJリーグにおいて、サッカー観戦だけでは無い体験を提供出来る素晴らしいスタジアムだ。
スタジアムゲートを通りスタジアムに足を踏み入れると、直ぐに紫色に染まったスタンドが目に飛び込む。失礼な表現になるが、イメージよりもサポーターの数が多く熱も強い、”ホーム”の雰囲気を強烈に感じられる空間がそこにあった。
そして選手入場。
紫のスタンドに後押しされるホームの京都サンガの布陣は4-3-3。前節から変更されたのはアンカーに川崎颯太、インサイドに松田天馬を置いた2ポジション。3トップには好調の木下康介、山崎凌吾、豊川雄太を並べた。
対する川崎フロンターレもお馴染みの4-3-3。前節からの変更は無しで、中盤アンカーにジョアン・シミッチ、インサイドハーフに瀬古樹と脇坂泰斗を並べる形。センターバックには車屋紳太郎と18歳の高井幸大が名を連ねた。
圧倒的だったシミッチ、京都らしさを体現するルーキー佐藤響
前半輝いたのはジョアン・シミッチ。京都は両センターバックから中長距離のパスを入れ、前線でボールを収めようと試みるが長身のアンカーであるシミッチがことごとく競り勝ちボールを落ち着かせない。平面での前進を狙った場面でもシミッチの読みが上回り、中央では主導権を握られる展開が続く。
一方、京都で存在感を放ったのは左SB佐藤響。川崎Fの核である家長昭博とのマッチアップとなったが、基本に忠実に家長の利き足の左足をケアし、縦のスピード勝負に持ち込んで粘り強いディフェンスを披露。特に前半は家長を無力化させていた。
もちろん守備だけではなく、持ち味でもある積極的な攻撃参加も見せた。11分には右サイドを白井康介が自慢のスピードで突破し、上がったクロスを逆サイドの佐藤響がボレーシュート。サイドバックからサイドバックへ、京都らしいアグレッシブな攻撃で決定機を作り出す。この試合フル出場し3本のシュートを記録した。
そこからは京都のハイプレスを川崎Fが如何にいなせるかというスタイルウォーズの様相を呈する。序盤こそ両軍の狙いが嵌らず落ち着かないゲームが続いたが、川崎Fのビルドアップが機能し始め、徐々にライン間に位置する脇坂泰斗にボールを差し込む回数を増していく。
前半34分にはボールを受けて持ち上がった脇坂から宮代へ。その宮代のシュートを脇坂が押し込みネットを揺らす。ここはVARの結果オフサイドとなったが、3センターの好調さで中盤を制圧した川崎Fの攻勢ムードのまま、0-0で前半終了。
ゲームの内容以外で興味深かったのは、川崎のGK上福元直人がボールに触る度に起こる京都サポーターのブーイング。上福元は昨季の京都サンガの残留の立役者ともいえる存在で、移籍後初のサンガスタジアムのピッチとなる。
つまりこれは「裏切り者へのブーイング」ではなく「”おかえり”のブーイング」。ブーイングが鳴る度に、ピッチ上の熱とは裏腹にスタジアムの雰囲気がほころんでいた。
後半は立ち上がりからサイド裏のスペースを狙い合うオープンな展開に。
52分には川崎CB高井幸大からの高精度のロングボールを受けた遠野大弥がエリア内の宮代大聖にクロスボールを上げる。ヘディングシュートは枠を外したものの、CBから一気にサイドの裏という川崎Fの狙いが見えたシーンだった。
その1分後には、京都MF川崎颯太がカウンターから中央やや左の広大なスペースにスルーパスを供給。走り込んだ山崎凌吾にビッグチャンスが生まれるが、逆サイドから張り付いていった登里享平が間一髪でピンチを防ぐ。
双方に得点の匂いが漂い始めた所で京都はパトリック、パウリーニョ、川崎Fは大島僚太、マルシーニョと両指揮官共に攻撃的なカードを切り合い得点を狙うが、ここからはなかなか決定的なシーンが生まれない。
72分には京都がCKから一度はネットを揺らすも、VARでオフサイドの判定。
そうして迎えた80分。この日のヒーロー、川崎フロンターレのナンバー11・小林悠が投入された。
ストライカーという生物
終盤、京都は繋いでくる相手に対しミドルエリアでのプレッシングから、パトリックのポストプレー、パウリーニョの突破で主導権を握りに行くが、局面局面の精度が足らずフィニッシュまで持ち込めない。
川崎Fは左SBにポジションを移した車谷紳太郎とWGマルシーニョの連携で左サイドからポゼッションを高めるが、京都の中央の守備が堅くゴールを抉じ開けられない。
両者、決め手に欠きスコアレスで終わるかと思われた94分。中央の混戦からマルシーニョが大島僚太にボールを落とす。大島僚太の柔らかいクロスに合わせた小林悠のヘディングが逆サイドネットに吸い込まれ、劇的な決勝弾。1-0で川崎フロンターレの勝利となった。
小林悠を表現できる言葉は”ストライカー”しかない。
今季は宮代大聖、山田新の加入もあり出場機会が減少していた。リーグ戦の出場はこの試合で未だ3試合目、出場時間はたったの47分。でも決める。だからこそストライカー。
この試合でもラスト10分で最終ラインとの駆け引きを繰り返し、全力でエリアに侵入し、ゴールを奪うためのタスクをひたすら実行した。
ゴールを奪う事だけを考え、ゴールに必要な動きを絶え間なく繰り返す、そうすることで短い出場時間でもゴールを奪える事を彼は肌感覚で知っている。そして彼のような生き物は、点を奪う事以外で評価されようという気が無いのかもしれない。
川崎フロンターレの”未来”を考えた際には、新たなストライカーの出現を願うべきなのかもしれないが、ファンとしてはシンプルに彼のゴールを見続けたい。
一方の京都はゲームモデルもはっきりしていたし、前にボールを運ぶイメージを持ちアグレッシブに戦ったが、細部のクオリティと前への圧力、そしてそれこそ最後にゴールを抉じ開けられる選手が現れなかった印象だ。好調の豊川や木下に1発が出れば全く違ったゲームになっていた可能性も十分にあった。
たらればと指摘されればもっともであるし、前線のプレイヤーのパフォーマンスに依存しすぎな気がするが、フットボールとは得てしてそういうものでもある。
上位進出への分水嶺となったこの一戦、勝敗を分けたのは、”ストライカーの差”だった。
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