南箱根ダイヤランドの秋・冬、そして別れ
2023年の秋・冬
毎年最初に秋を感じるのは金木犀の香りだ。夏が終わり、季節が衰弱してゆくような寂寞感を癒してくれるのが、この香りだ。落ち込みがちな気分を、幾分、晴れやかにしてくれる。そして、この香りがなくなる頃、季節の移り変わりを受け入れる心の準備ができる。
昨年も、9月に金木犀が咲き、これから少しの間はこの香りを胸いっぱいに吸い込みながらウオーキングを楽しめると思った矢先に、長雨が始まり、ウオーキングを再開した時には花は雨により落ちて道路一杯に散らばり、もはや香りはしなかった。
昨年はこの様に私にとって特別な季節の変わり目を実感できなかっただけでなく、残暑がいつまでも続き、秋の訪れを実感できぬまま、いつしか寒さがやって来た。
日照時間の減少も季節を感じさせる現象だ。しかし、昨年は日照時間がどんどん短くなる感覚と夏の気温の残りが調和せず、違和感が広がるのみであった。ようやく、12月になり、紅葉が秋を押し付けてきた。夏の終わりの寂寥感を味わう事なく、冬を迎える覚悟も無いまま、何時の間にか暖房を入れるようになっていた。
南箱根の自然豊かな土地に住みながら、季節感を失ったまま、年末を迎えた。例年の様に、年末の挨拶をすることも無く、年賀状の作成もギリギリのタイミングまで気が付かず、大慌てで準備することになった。
富士山と雪
しかし、そんな状況でも唯一季節を感じさせてくれたのは富士山の光景だ。富士山の初冠雪は10月の初めである。その後はしばらく、雪は溶けたり、また、積もったりしながら、11月後半以降は徐々に雪に覆われる部分が増え、春まで完全に地肌を見せることはない。昨年は12月の中旬になってもまだ、山頂付近でも部分的に地肌を見せることはあったも、富士山は十分に季節の移り目を見せてくれた。雪に覆われた富士山も神々しく美しいが、地肌を見せる富士山も自然が感じられる美しい秋の光景だ。
そして令和6年の正月を迎えた時、富士山は本来の冬の感動的な光景を見せてくれた。透明感のある空気の奥に神々しく輝く富士。日本人が霊峰と崇める気持ちが良く理解できる。しかし、この富士山をあと何日眺める事ができるのだろうかと思うと寂しさも感じる。1月25日に引越しが決まった。家を売却し、都内の新居に引越しするまでの短期の移住地としてこの地を選んだ。夏の涼しさ、思ったより寒くない冬、そして毎日その表情を変える富士山を堪能した1年と8ヶ月が間も無く終わる。その寂しさを噛み締め、後何日この光景を見ることが出来るか数えながらウオーキングをしている。
都会に戻り、夏の茹だる様な暑さに疲れた時、南箱根の夏を懐かしく思うだろう。都会の喧騒にうんざりする時この富士山の神秘的な美しさを思い出すだろう。マンションのテラスで駿河湾を眺めながら飲んだビールの旨さは忘れられない。
犬友達
お世話になった皆さんとの別れも寂しいが、懐いてくれた犬友達との別れはもっと辛い。これまで、見知らぬ土地での生活の寂しさを癒してくれた大切な友達だ。
記念に写真を撮ったが、残念ながら写真を撮る事ができなかった友達も多い。道で会う人は皆挨拶を交わす。都会では見られぬ光景だ。しかし、犬友はそれ以上に出会いの嬉しさを体一杯に表現してくれた。彼らの事も忘れまい。
都会の生活に疲れたら、またこの地に戻ってくる事がるだろうか?
さようなら!南箱根ダイヤランド。
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