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タオルミーナの風呂オケとギリシャ劇場跡

長靴の形に例えられるイタリア半島、その爪先にあって今にも蹴飛ばされそうな島がシチリア島である。タオルミーナはイタリア本土に最も近いメッシーナから鉄道で約1時間、イオニア海に面した世界的に人気の保養地である。

画像1タオルミーナの地図(ブログに関連部のみ)

2011年10月、このタオルミーナが私の現役最後のヨーロッパ出張先となった。

ホテルはイル・ピッコロ・ジャルディーノという3つ星ホテルを予約していた。ホテルにチェックインすると、フロントの女性には「本日、お客様方には特別なお部屋をご用意しました。」と告げられた。朝食時間とWi-Fiのパスワードを確認した後、早速エレベーターで割り当てられた部屋に向かった。部屋は最上階で、この階の客室はこの1室だけであった。部屋の反対側には屋外プールが配置されていた。

特別な部屋とはプールに隣接した見晴らしのいい部屋のことかと思いながらドアを開けた。スーツケースを床に置いて部屋を見回して一瞬ギョッとした。「こんなところにバスタブが!」

画像2手前にカーテンもないオープンなバスタブ

普通、お風呂、トイレ、洗面台などの水廻りは部屋の入り口に近い一箇所にまとまっていることが多い。ここは、部屋に入ってすぐ右に洗面台、左にトイレ、そして大きなお風呂が奥の右手、デッドスペースとなった区画に”でーん”と据えられていた。

しかもカーテンもない。妻は、おったまげていたが、「部屋の中央じゃなくてよかった!」と楽しそうだった。

タオルミーナはタロウ山の中腹に拡がった街で、イオニア海に至る南東方向に下り勾配となっている。加えて我々の部屋は最上階だったので、窓からは街の素晴らしい景観が広がっていた。とりわけ、東の方向にはギリシャ劇場跡がハッキリと見えた。翌朝、早速ここを訪れた。

画像3ホテル最上階の部屋から見えるギリシャ劇場跡

ギリシャ劇場は紀元前に建造され、ローマ時代に闘技場に改造されたという。観客席の後方に立ち南西の舞台方面を眺めやると、イオニア海の向こうに活火山エトナの雄大な姿を望むことができる。

画像4ギリシャ劇場跡:この日は霞んでエトナ山はハッキリとは見えなかった。

画像5ホテル・イル・ピッコロ・ジャルディーノのウェッブサイトから:向こうに活火山エトナが見える。

ギリシャ遺跡、澄んだ海、雄大な火山の眺望がいにしえのロマンを彷彿とさせるため、この光景は多くの芸術家によって賞賛されてきた。また、一部の画家たちの格好の絵画題材ともなった。

以下には、ギリシャ劇場跡+エトナ山をモデルとしたいくつかの絵画を示します。

画像6おそらく無名の画家:イル・ピッコロ・ジャルディーノの我々の特別室の壁に架けられていた絵画

画像7トーマス・コール:ワズワース・アセニアム美術館(ハートフォード)

画像8ルイーズ・ジョゼフィーヌ・サラザン・ド・ベルモン:ナショナル•ギャラリー(ワシントンDC)

画像9Tivadar Csontváry Kosztka(ハンガリー語の読みがわかりません):ハンガリー国立美術館(ブダペスト)


ところで、劇場の階段を下り、円柱のある正面舞台裏に廻るとタオルミーナの街並みが眼下に広がる。ここからは、先とは反対に、宿泊したホテルの最上階に掘っ建て小屋のような我々の「特別な部屋」が見える。

画像10ギリシャ劇場跡から見たタオルミーナの街並み:右端が我々が泊まった特別室


ホームビデオカメラを操作しながら、私は妻に言った。
「一つお願いがある!今からホテルに走って戻って、屋上の我々の部屋の前からこちらに向かって手を振ってくれないかな?」

妻が答えるには、「いや、絶対に嫌です!あなたが行ってきて。私が撮ってあげるから!」。


このホテル、この十年の間に大改装したと思われ、我々が当時泊まった「特別な部屋」はもはや存在しないようです。



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