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豊かさの補助線

まるでそれは、
雪の原に顔を出すフキノトウのように、
川面に映る桜の芽の膨らみのように、
雲雀が起こした田んぼの土の香のように、
通り過ぎれば見逃してしまう"兆し"の中にある。

まるでそれは、
真っ青な空に帰っていくシャボン玉のように、
谷川の水面に浮かぶ渦のように、
虫とり網の先で揺らめく陽炎のように、
手を伸ばすとそこにはもうない"幻し"の中にある。

まるでそれは、
アキアカネが染める夕暮れのように、
集めて焚いた枯葉の薫りのように、
暗闇の中で灯るろうそくの炎のように、
吹けばかき消される"呼吸"の中にある。

まるでそれは、
髪を撫でる母のひび割れた手のように、
触れようとする指と指との間の微熱のように、
丸まって聴く深夜ラジオの声のように、
刹那と永遠(とわ)が交わる"時間"の中にある。

そしてそれは、
私の目を視て微笑むあなたの瞳の中に、
私に頬を当て流すあなたの涙の中に、
私の横で微睡むあなたの寝息の中に、
私の「ただいま」に「おかえり」と返すあなたの言葉の中に、

それから、
それらをみんな抱きしめて、
愛おしいと思う私の心の中に全てある。

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