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食品工場経理担当の備忘録        エピソード3 省エネコントローラー

あるコトバを具現化する為の装置に、コントロールする側が、いつのまにかコントロールされてしまい、混乱の挙句、疲れ果ててしまったと言うエピソードです。

円安、電力不足で頻繁に聞く状況になりましたが、皆さんは「省エネ」と聞くと、どの様なイメージをお持ちになるのでしょうか。

近年、企業の環境問題に取り組みむ姿勢に関する話題を、耳にする機会が増えましたが、その走りがともいえる言葉「省エネ」であり、尚且つ、コスト削減も含めた、これからの企業が目指し、取り組むべき姿勢として、多くの場所で語られていた「ありがたいコトバ」でありました。

しかし、その取り組みを形として表し、実際の数字として反映させている事を証明するのは難しかったのも事実でした、そんな試行錯誤を繰り返していた時、登場したのが「デマンドコントローラー」だった訳です。

ご存じの方もいらっしゃるかと思いますが、工場の電力供給は30分単位の平均消費電力(デマンド電力)の最大値を基準に供給量を設定して年間基本電力費を決定しており、電力不足が起きないよう設定されています。

機械の常時稼働が必須の工場では、大量に電気を消費するのでありがたいサービスなのですが、この最大値の基本料金を支払うという仕組みは、実は、たとえ一瞬でも30分ごとの測定時刻に平均消費電力の最大値が上がってしまうと、基本料金は最大値料金で支払わなくてはなりません。

その為、「工場の平均最大値を下げる事が出来れば、大きなコスト削減になるだろう」という認識が当時の経営陣にはありました。

そんな折に提供が開始された「デマンドコントローラー」は、「最大値を限りなく実際値に近付ける」「最大値を下げる事が出来る」更には「下がった電力費二年分で導入費用の元が取れる」という触れ込みで「省エネとコスト削減を同時にかなえられる」と、経営陣も大喜び、すぐに導入が決定しました。

確かに稼働して直ぐに効果が表れ、毎月コントローラー設定の予測値は前年の値を下回って電力費も下がり、「二年で元が取れる」はナルホドと納得したのですが、徐々に設定値を下げる取り組みを始めると、程なくして、デマンドコントローラーに設定した予測電力量を守ろうとするあまり、業務に支障が出始めるようになりました。

どの様な状況かというと、工場が動き出し、作業が集中する時間帯になって稼働機械が多くなると直ぐに、工場内に突破警報が鳴り響き、現場や事務所にライトが点灯を始めます、それを合図に皆、明かりを消し、空調を止め、必要以外の機械や装置の電源を切り、予測平均値を下げるべく、奔走を繰り返す日々が始まり、特に現場では、設定した予測電力量を守る工夫を繰り返す事を強いられ、気が付けば、デマンドコントローラーの警報に添って業務まで停止する事態が発生し出しました。

そんな騒動の最中、前々から計画していた設備交換を行い、老朽化した冷却水装置を最新式に交換したところ、ナント!その効果は抜群で、予測値はデマンドコントローラーの設定値内に収まるようになり、空調や明かりを消さずとも、滅多な事では警報が鳴らなくなりました。

この件で当然、現場は気付きました、「省エネ」「経費削減」には「設備の限界」という視点も必要である事を。

これ以降、現場からは設備に対する「省エネ並びに経費節減のための交換」の要望が次々と集まるようになりました、それ程、警報と対処の「工夫」に辟易としていたのだと思います。

「省エネ」「コスト削減」に取り組む意欲は大事ですが、「人が出来る工夫」と同時に「設備投資」を行わないことには、本来のパフォーマンスが引き出せないのも事実です。

ただ、工場の設備投資には、削減費用の何倍もの導入コストが必要なのも事実で、実際、要望の中には今後の更新計画対象設備もありましたが、すぐさま一度に交換できる程、会社の資金は潤沢ではありません、その為、購入の際の形態を含む資金調達計画を策定し、複数年に分けて順次入れ替えを実施する事で、極端な現場の老朽化を防ぎ、活性化できると取締役会に報告し、決定を得る事で一件落着となり、経理担当としても一安心した次第でした。

今になって、当時のデマンドコントローラーの警報が鳴った時の対処法を冷静に考えると、事務所の明かりや空調を消したとしても、全体的には大きな影響が出るとは思えないのですが、「とにかく何かをしなくては!」という考えしか浮かばなくなり、毎日あくせくと走り回っていました、きっと現場も同じ気持ちだったのでしょう、情けない話ですが・・・。

このコントローラーは、「デマンド」と同時に「心」もコントロールできるのかもしれませんね。









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