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『大奥』と『和宮様御留』

  少し前のことになりますが、よしながふみさんの漫画『大奥』が完結しましたね。
 読み終えて、もう、なんという物語だろうか、と胸が熱くなりました。
 ジェンダー云々で語られるけど、わたしにはそういうのを超えてすごい漫画でした。
 全編をとおして個性的な人物がたくさん登場しますが、『大奥』のクライマックスで存在感が光っていた人物は、わたし的には「和宮」だったと思います。和宮親子内親王ですね。

 和宮には、漫画『大奥』を読む前から少なからぬ思い入れがありました。
 いまからウン十年前、わたしがまだ小学生だったとき、祖母から有吉佐和子の小説『和宮様御留』をすすめられたのです。
 この『和宮様御留』は、漫画『大奥』とはまた違う、和宮の「替え玉説」をふまえた長編歴史小説です。歴史的事実としては、和宮の「替え玉説」はひとつの噂・伝説とされているのでしょうが、有吉佐和子はそれをひじょうに信憑性が高いものとしてとらえ、それに小説家の想像力を加えてリアリティのある話に仕上げています。
 (ネタバレになってしまうのでここでは物語の筋には踏み込みませんが、検索していただければあらすじはわかります。)

 この本(単行本)を祖母から渡されたとき、なにせ子どもだったので、ちゃんと読むことはできませんでした。でもなぜか和宮という人に惹かれて、藤田素子さんが描いた伝記漫画も読んだりしました。不思議に関心をもったのですね。

 先日実家に帰ったときに、思い出して、本棚に並んでいた『和宮様御留』を持ち帰ってきました。
 ウン十年を経てぱらぱらと読み返すと、替え玉説は置いておいても、和宮という女性は、幕末から明治維新の動乱の時代に生き、その立場から歴史に大きく翻弄された人生を送った人だったのだなあとつくづく思いました。
 小説としては、有吉佐和子の筆力にただ圧倒されます。読ませるなあ、うまいなあと。
 そして、この『和宮様御留』にこめられた作者の思いの深さ(あとがきにも記しています)にも感じいります。

 それから、この小説を子どもだったわたしに奨めた祖母のことに思いがおよびました。
 祖母は昭和のはじめに田舎の農家に生まれ、10代で商家に嫁ぎ、戦争をはさんで3人の子育てと商売に明け暮れました。40代後半から病を得て、わたしが物心ついたときには寝たきりでした。その祖母は、「自分の力ではどうしようもないことがある」という一点で、『和宮様御留』の主人公・フキに共感を覚えていたのかもしれないなあと、いまになって思います。

 『和宮様御留』は現在講談社文庫で読むことができるようです。
 漫画『大奥』のファンの方は、こちらもぜひ読んでみてはいかがでしょうか?