小説 「ウホざんまい」(4/5)
>>前回のあらすじ
ラリー博士:「ウホン、ホホウンホンホ。ホウンホホウホ、ホホウ」
(あの、ゴリアン星人さん。契約の話なんですが)
聞いて、ゴリアン星人が、むくりと立ち上がった。
↓↓↓ 前回 ↓↓↓
「ホンホ?」
(なんだ?)
「ホホホウホウホ、ウ~ウ~ホ~ホ~、ウッホンウッホン、ホウホウホ、ホッホホ……」
(実は前回お話をした際、言葉がよくわかっていなくてですね……)
「ホウ?」
(ほう?)
「ウ……ホウッウホホホウ~、ウッホンホン、ウゥ~ウゥ~ウゥ」
(その、以前のお話を取り消し、またイチから会話をしたいのですが)
ゴリアン星人は立ったまま、しばらくなにも言わなかった。
博士と助手が見合う。間に、緊張が走る。やがてゴリアン星人は夜空を見上げる素振りを見せると、のっそりと一歩ずつ博士たちとの距離を詰めた。もう半歩というところまで近寄ると、ゴリアン星人は両前脚を地面に叩きつけ、少し高い位置から博士の顔を見下ろした。互いの眼が合う。ゴリアン星人の顔面は、無表情だった。
「ウ……ホホ……?」
(あの、いったい……?)
博士が言った。至近距離。顔と顔との間は、十センチとない。博士は、ゴリアン星人の顔面の迫力に気圧され、見合い続けながら冷や汗を額から流す。それは頬を伝い、顎からゆっくり落ちると、牧場の草をわずかに濡らした。
顔。ゴリアン星人の顔が急変した。口を大きく横に開いて歯を見せ、せせら笑いを浮かべる。眼には、怪しい光が宿っていた。
「ひいいいいいいいいい!」
博士は咄嗟にのけぞり、尻もちをついた。助手も、ゆっくりと後ずさる。
ゴリアン星人は二人を見下ろすと、小さく首を振り、そして直後に――咆哮した。
声が夜空を貫き、牧場一帯へ響き渡る。伝わったのは、怒り。自然界で、強者が弱者へ見せる威嚇。それは、圧倒的な力の誇示による、立場の理解の強要だった。
ゴリアン星人の答えは、拒否だった。
「ホホウ、ホンホン、ウホホホホホホン!」
(人間たちにとって、契約とはそんなに軽いものなのか!)
ゴリアン星人が、右拳を一本松の幹へと打ち込む。樹幹は、芯からへし折れてそのまま崩れると、大地を強く叩いた。
「ウーーーッホッウッウホゥーンホゥーン! ホーン、ホーン、ウーホー‼」
(我々にとって自然社会では契約は絶対! 守らなかった場合にどうなるか、わかっていないようだな‼)
「ひいいいいい! ウ、ウホホ⁉」
(ひいいいいい! ど、どうなるんですか……⁉)
ゴリアン星人が、眼をかっ開く。
「ホホホ、ウーホホン、ホ、ウンホ!」
(それすなわち、死だ!)
「ホホン、ウホッホン、ウ~ホォォン、ウッホウウウホウンホ、ウンホ、ホホッ。ホホホホホ、ウンウホンホ! ウンウホンホ、ホッ!」
(お前たちはにこにこと笑いながら、この星の譲渡を承認した。まったくふざけた倫理観だと思った。だが、契約を無効だと主張するとは。まったく本当にふざけた倫理観を持っている! 死がふさわしい生命体だ!)
「ホウンホウン、ウホウホ、ホーホーホー……!」
(そんな、翻訳が、翻訳が間違っていただけなんです……!)
「ホホ! ホ~~~、ウウホーーホウッウ~ホ!」
(黙れ‼ おとなしくバナナの栄養分になるがいい!)
「ひいいいいいいい!」
博士が尻もちをついたまま、後ろへ退がった。
「なんてことだ。ウとホしか言わないゴリアン星人に、わたしたちは滅ぼされてしまうのか……!」
助手が駆け寄る。「落ち着いてください、博士!」
「落ち着いていられるか、地球が滅びるのだぞ! もう終わりだ。まさか、こんなことになるとは思ってなかった。本当に思ってなかったんだ‼」
助手が咄嗟に、博士の頬を平手で叩いた。
「痛い! なにをするんだ!」
「落ち着いてください、博士! こうなった以上、私が隠し持ってきた拳銃で、ヤツを撃ち殺します。そうすれば、契約もなにもありませんよ……!」
「だが、そうしたら和解の道は……! ゴリアン星人はすでに、母星と連絡をとっているかもしれないんだぞ!」
「相手は、ほぼゴリラです。通信ができるわけがない! 私を、止めないでください。私は、行きますよ!」
「待て、助手!」
直後、助手が駆け出した。ゴリアン星人へ迫っていく。
そして、ゴリアン星人の頭部を目がけて、引き金を――――
吹っ飛んだのは、助手の方だった。
ゴリアン星人は瞬時に拳銃をはたき落とすと、もう片方の腕を繰り出した。
助手は、重量級のゴリラパンチをもろに食らい、数十メートル後方の警備策まで飛ばされ、叩きつけられ、そのまま意識を失ってしまった。
博士はその光景を見て、大声をあげて逃げ出した。そして自らの研究室に戻り、浴びるように酒を飲みまくった。
>>続く (次、最終回)
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