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小説 「ウホざんまい」(3/5)


>>前回のあらすじ
ウとホを巧みに操り、ゴリアン星人とコミュニケーションをとるラリー博士。彼は、異星人とのファーストコンタクトを成功させた人物として、世界的に注目を浴びる。だが後日……

↓↓↓ 前回 ↓↓↓


 

だが後日。
博士はひとり、研究室内を落ち着かぬ様子で、うろうろと歩き回っていた。
大変な事実が、判明してしまったからであった。
なんと――

ウホウホ言語の翻訳が、全部間違っていたのである。
ウとホの文列がすべて、逆になっていたのだ‼

それは、コンピュータでいうところの、0と1が逆だったようなものだった。当然、それによって言語が示す意味も大きく変わってくる。
不幸なことに、その誤りに気付ける人物は、博士以外に存在しなかった。
ゆえに博士は頭を悩ませていた。世界中の人々は、以前のゴリアン星人との会話が、正しい訳によるものだと思っている。だが、まったく合っていないのだ。
博士は、気が気でなかった。あのとき話していた会話の内容は、実際はどんなものであったのか。その確認すらもまだ、怖くてできていない状況だった。

話を聞きつけた助手が、勢いよく扉を開いて研究室に入ってきた。
「博士、どういうことですか……!」
「おぉ、来てくれたか」
「もちろんです。それで、ゴリアン星人と交わした会話の内容は、正しい語訳は、どんなものだったんです……⁉」
「それを、これから確かめるのだ。私は、ひとりで確認するのが怖くて仕方がなかった。共に、以前の会話を振り返ってほしい」
 助手が、神妙な面持ちで小さく頷いた。
「わかりました。一緒に振り返りましょう」

 以下は、先日のゴリアン星人との会話を抜粋し、博士たちが振り返った内容である。
 ウホウホ言語を、正しい訳をもとに、みんなで確認していこう。

ゴリアン星人: 「ウーホ! ホッホ‼ ホォォ!」
(ほう、契約をするのか!)
ラリー博士 : 「ウウウウウホォーホォ、ホンウホン、ホォホォウンウン」
(みんな大好き。だーいすき)
ゴリアン星人: 「ウ~~~ホッ! ホッホ、ウーウー!」
         (お前はなにを言っているのだ。契約はするのか、どうなんだ!)
ラリー博士 : 「ホッホッホ、ホ~ッホッホッホ」
         (するする、もちろんする)
ゴリアン星人: 「ウウウ、ウウウホ……! ウウウ!」
         (手放しでこの惑星を我らに明け渡すというのか……! 愚かな!)
ラリー博士 : 「ホホホホホッホッホ、ウ~、ホッホッウ~」
         (喜んで喜んで、この星をあなた様に分け与えます)
ゴリアン星人: 「ウホホ、ウウホン、ホンホン。ホホン、ウウホン、ウーウーホ‼」
         (いいだろう、間抜けな生物どもめ。この星はゴリアン星人が戴く。
          貴様らに代わって、我らがこの星の支配者となるのだ‼)

 訳を見た二人は、しばらく顔を合わせられずにいた。二人共が、顔面蒼白していた。
「博士、この内容は……! 私たちは……!」
「ああ、知らず知らずのうちに、地球の命運を握る、大きな契約をしてしまっていたようだ。そして人類は、私は、愚かなことに全然違う意味で能天気に受け答えをし、地球をゴリアン星人に明け渡す契約をしていたらしい。雑談だと思い込んでな」
「バナナの話なんて、全然してないじゃないですか……!」
「ああ、本当にすまない……」
「これから、どうするんです、博士……⁉」
「もちろん、契約をやり直すしかあるまい。これはこちらの翻訳が間違っていたことによるものだ。ゴリアン星人もきっと、理解を示してくれるに違いない」

 その日の夜中、博士たちは世界政府に話を通さずに、ゴリアン星人のいる丘へ赴いた。それは、そんな話を公表しようものなら、博士は戦犯扱いをされてしまうからという判断でのことだった。
 ゴリアン星人のいる周辺は厳重な警備が敷かれていた。だが警備を任されているのは、末端の人間で、世界的に有名な博士が「隠密で会話するよう、世界政府に言われてきた」と言うと、簡単にゴリアン星人のいる丘まで通してくれた。
 博士は助手を連れて、松の木の下にいるゴリアン星人の近くまで行くと、低姿勢になりながら口を開いた。

「ウホン、ホホウンホンホ。ホウンホホウホ、ホホウ」
(あの、ゴリアン星人さん。契約の話なんですが)

 聞いて、ゴリアン星人が、むくりと立ち上がった。


>>続く


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