小説(SS) 「火星の別件逮捕」@毎週ショートショートnote #火星の別件逮捕
お題// 火星の別件逮捕
スコップがなにか硬いものに当たり、デマルクはその周辺からていねいに土を掘り起こした。
出てきたのは、鈍い金色をした小型の金属だった。その形はどこか飛行機のように見え、ロケットのようでもあった。
「これはまさか、オーパーツか?」
デマルクは、火星の開拓用プラントで掘削作業員として働いていた。いわゆる出稼ぎ労働である。プラント内は酸素で満たされているとはいえ、この開発途上の惑星での業務は常にリスクがつきまとう。
しかし、それも地球で待つ妻と子どものためならばやらざるを得ないのであった。
「こいつを売れば、とんでもない価格になるんじゃないか?」
デマルクの脳裏をかすめたのは、悪魔の誘惑だった。誰も見ているはずがない。一攫千金のチャンスだ。こいつを逃す手はない。デマルクは、すぐさまポケットにしまい込んだ。
「おい貴様、いまズボンに入れたものを出せ」
振り返ると、軍服を着た男が立っていた。
「さっさとこちらに渡せ。さもなくば、国家反逆罪で拘束する」
「なにを言ってるんですか、私はただ――」
「渡さぬと言うのだな。忠告はしたはずだぞ」
「ま、待ってください。そんな突然言われたって」
「余罪が増えたな。陰謀罪、国家転覆罪、横領罪、内乱罪、侮辱罪。貴様の人生はいま終わったぞ」
「無茶苦茶ですよ、さっきから!」
「黙れ! 貴様は逮捕する!」
デマルクは男に手錠をかけられ、顔面を殴られた。続けざまに腹部を蹴られ、ポケットから小型の金属を奪い取られた。
「勝手なんだよ! あんたたちはいつも!」
身をかがめ、デマルクは下から突き上げるように肩でタックルした。加えて、拘束された両手を振り回し、手錠の部分で怯んだ男の顎にヒットさせる。
のけ反り際に男の手からこぼれた小型金属を見て飛び込むように空中キャッチした。
「これは、渡すもんか!」
言って、デマルクは掌を強く握り込んだ。すると小型の金属がぶるぶると小刻みに振動しはじめた。
「な、なんだこれは、動くのか!?」
「やめろ! それは――!」
「オーパーツじゃなかったのか!」
「それは国王陛下の大事な玩具だ! 貴様のような輩が気安く触れていい代物ではない!」
「王様の玩具だって!? こんなへんぴな火星の採掘所で!? どこでなにをしたっていうんだよ!」
「貴様ぁ! 破廉恥な妄想を! 国王陛下はまだ、六歳であられるぞ!」
「子どもの玩具だって!? なんでそんなものが出土するんだ!」
「砂遊びをしておられたのだ! 仕方あるまい!」
「砂遊び! ああもう! ずっと無茶苦茶だ!」
〈了〉1,042字
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先週のお題、途中まで書いたままになってたので
投稿しちゃいました〜。
SFっぽいお題はいいですね。楽しいです。
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