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新紙幣発行の報道に思う

2024年の新紙幣発行は、確かに以前から決まっていた。
一度決まったことは基本的に動かず、そのときに向かって邁進していくのが常だけれども…。

橋本治さんの著書『いつまでも若いと思うなよ』(新潮新書)で読んだエピソードを思い出している。

橋本さんのお祖母さんは店を切り盛りしていらしたが、80歳代のあるとき、急にお釣りを間違えて渡すようになったとのこと。
「お兄ちゃん(橋本さん)、惚けちゃったよ」
と、不安に駆られた様子でご自身でおっしゃるので、

「なんか違う」と思った。「ホントに惚けた人なら、自分で”惚けた”とは言わないよ」と言ってから、「あれが原因か」と思った。(78ページより引用)

千円札を渡されると、何千円、時には、何万円もの紙幣をお釣りとして渡してしまうようになって、惚けた…!と怯えた、それは、紙幣のデザイン刷新が原因だったという。切換え時だったので新旧6種類(マンネンロウ注:ついでにいえば、当時は五百円札もまだよく見かけたので7種類かも)の紙幣が流通している状況になった。色合いの印象でいうと、伊藤博文の千円札・福沢諭吉の一万円札はグレー系でどことなく似通っており、五千円札の方の聖徳太子と夏目漱石の千円札・岩倉具視の五百円札の3つは藍色っぽくて似通うものがあった。長年店を切り盛りしてきて、お札を受け取ってお釣りを渡すのを流れるようにテキパキと行っていらしたのだろう。パッと見てパッと判断し、瞬時にお釣りを渡す。熟練していると、却って急な変更には戸惑ってしまう。熟練が仇になると言おうか。

そのとき橋本さんは、何万円かの一万円札を千円札に両替し、お祖母さんに渡し、「おばあちゃん、これ全部千円札だからね。お釣りを渡すときはこれを1枚ずつ渡せばいいからね」と説明したところ、問題は解決したらしい。


「人間の行動の多くは習慣的で、だからこそ”習慣”が満杯状態になっている人間の体に、脳が新しい習慣を教え込むのは大変だ」(79ページより引用)


40年ばかり前の新紙幣切換え時には、まだ今ほど高齢者は多くなかった(いずれ現在の状況が来るということは多分当時から既にわかっていたのだろうけど)。まだ、社会は若かった。


2024年の今、高齢者の数どころか認知症の人の数も、当時と比較すると(まだ実際の数値を参照せず、比較しないままにこれを書いているけど)きっと大きく増えているだろう。

そんなことを、今考えている。

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