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箱がない!と問い詰められた

次々と、クローゼットの扉や押し入れのふすまを荒々しく開け閉てする音と、荒々しい足音からイライラが伝わってくる。

何か探しているのかと尋ねると、オーディオプレーヤーの箱がないと言う。
「捨てたんか!?」

「捨ててない!あのオーディオプレーヤーの名前なんか聞きたくもないし、箱に触りたくもないわ!!」

DAT。
デジタル オーディオ テープレコーダー

30年以上前に夫が買い、とても大事にしている。
それは好きにしたらいい。
でも私は名前を聞きたくもない。

転勤で当地に引っ越して来たときにも
「DATがない!!」
と大騒ぎされた。
4人家族の引っ越しの標準は、家具家電以外に段ボール箱が100箱。1部屋荷造り用の部屋を作って、その部屋の収納スペースのものから段ボール箱に納めていく。
それなのに我が家のそのときの引っ越しは、夫の私物だけで70箱をゆうに超えていた。
こんな家は珍しいと、見積もりに来た業者は言った。夫の私物というのは、家族でいちばん少ないのが普通だと。しかもその前の引っ越しのときに、夫の実家の厚意で夫の私物を段ボール15箱程度送り、保管してくれている。貴重品ではない。ありていに言って、夫の持ち物であるが子どもを対象としたおもちゃだ。
ものが多すぎるのだ。
多すぎて、紛れてしまっているのだ。
それなのに他責的な考え方しかできていない。
単身赴任を解消して戻ってきて、またそんな言いがかりをつけてくる…!

「ごめん、自分で探す」
と言う夫。
精いっぱいの謝罪なのだろうか。
それとも…?

「DATの箱なんか、触りたくもないわ!DATって言葉を聞くのすらいやだわ!!」

もう一度言った。
火に油を注ぐことをおもんぱかる次男が、あわてて私をたしなめに入った。


…………………見当たらないらしいのは、『箱』だけで、中身はちゃんとある。念の為。

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