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【掌編】紫陽花
青い紫陽花を見ると、身体の中に雨が降り出す。
花にまつわる想い出と、同時に憶いだす人がいた。確かにそのはずなのだが、それがどんな人だったのか忘れてしまった。
ただ身のうちがその人を想う身体になる。
愛しいような恨めしいような、哀しいような優しいような、そんな狂おしさが腹の中にさあさあと降って、しとしとと波立ち渦巻いてゆく。
感情の矛先そのものは記憶からこぼれ落ちてしまったのに、肉体だけが憶えている。感情の、そとみはなくなったのになかみだけが残っている。
この感情はどこへゆくのだろう。身体が覚えたこの感情。中身のない空虚な想い。こんなことが起きるなら、はたして感情には、想いには、どれほどの意味があるのだろう。
いつか紫陽花を見ても、身体の中に雨が降らなくなるかもしれない。ああ、青い紫陽花だ、と符号のように平面的にその花を処理し、ただその青を網膜に映す日が来るかもしれない。それは、ひどくかなしいことのようにも思えた。
それで私は今日も、青い紫陽花を眺めては、中身だけの空虚な肉体の記憶をそっと味わい愛でて、手放すこともできずに生きていく。
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マナ
パフォーマンスユニット"arma"(アルマ)主宰。朗読とダンスが融合した自主企画公演を上演している。ミュージカルグループMono-Musica副代表。キャストとして出演を重ねている他、振付も手掛ける。
ここには掌編小説の習作を置く。
お気に召さずばただ夢を見たと思ってお許しを。
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