![見出し画像](https://assets.st-note.com/production/uploads/images/107112581/rectangle_large_type_2_4cbb14800c02b8a75d1cac12b9161966.jpg?width=1200)
【掌編】月の耳
月はとっても耳がいいのよ、と母は言いました。だからお前が悪いことをしたら、お月様にはすぐにわかってしまうの、と母は必ず続けるのでした。
それだから、私は月が怖いのです。夜が怖いのです。
月の光はたとえどんなに扉を閉ざしていても、夜の空から降り注ぎ、ひたひたと私の領域をしたたり侵すのです。
私は妹の人形を壊しました。壊した人形に、妹の泣き疲れ眠る頬に、月の光が侵食します。
私は父の万年筆を盗みました。盗んだ万年筆をそっと隠した抽斗に、月の光は浸み込みます。
私は友人を崖から突き落としました。夜の窓から眺めるその崖に、月の光はしとしとと降り注ぎます。
月の光はたぷたぷと、地下室に閉じ込めた母の亡骸を沈め、私の耳に入り込み、私の口から溢れ出し、私の家を満たしていきます。
それだから、私は苦しいのです。息ができないのです。
妹が、父が、友人が、母が。
他の誰が赦しても、月だけは赦してはくれないのです。
あ、あ。
私は、
今にも、
月の
光に溺れ、て。
┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈
#シロクマ文芸部
#短編小説
#ショートショート
#小説
#月
┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈
[Profile]
![](https://assets.st-note.com/production/uploads/images/107074024/picture_pc_5ce5c3ecb5069292b0da999625fe64bc.png?width=1200)
マナ
パフォーマンスユニット"arma"(アルマ)主宰。朗読とダンスが融合した自主企画公演を上演している。ミュージカルグループMono-Musica副代表。キャストとして出演を重ねている他、振付も手掛ける。
ここには掌編小説の習作を置く。
お気に召さずばただ夢を見たと思ってお許しを。
この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?