見出し画像

湯を引っ被る未明

明かり取りの窓が暗かったから、まだ夜明けはきていないのだと思いました。


そばにある携帯で時刻を確認することは簡単です。でも、なんだかその行為はひどく無粋な気がして、寝ぼけ眼のわたしは良しとしませんでした。
どうせ急ぎの予定はないのだから、と思いもう一眠りしようかと思いましたが、ふとお風呂にまだ入っていないことに気がつきます。昨日は酔って帰ってきたので、つい省略してしまったのです。

一度気がついてしまえば、お風呂に入ってないまま布団に潜り続けることはできませんでした。冷たい床に体温を奪われながら、ロフトの階段を降ります。

台所に行き味噌汁用のお椀に水を注ぎます。この椀は、昨夜も同じように水を注がれ、そのまま放置していたもの。木製だかプラ製だか判断がつかないお椀は、ガラスや陶器よりも熱が伝わりにくいので、冷蔵庫で冷えた水を飲む冬場には適しているようです。
喉を潤し、下着とパジャマを適当に取って脱衣所へ。引っ越して1ヶ月近く経っているのですが、服を置く適当な場所がないため床に直おき。裸になって、洗面所の鏡を見ると化粧は落として寝ていたことがわかり少し安心しました。えらいぞ私。

シャワーが暖かくなったことを確認して、湯を頭から引っかぶります。布団を出てからシャワーを浴びるまでのほんの数分。わずかな時間で冷え切った身体に熱いお湯はあまりにも心地よく、恍惚にも近い領域に意識がとびます。なかなか抗い難い充足感ですが、かなしいかなガス代を囁く現実家のわたしが登場したので早々にシャンプーの準備に取り掛かりました。

シャンプーしてリンス、それからボディソープ。出かける予定はないけれど洗顔もきちんと済ませると、手だけを扉から伸ばしてタオルを取ります。浴室で充分に水分を拭き取らないと、木造のこの家はめちゃくちゃ寒いのです。

さぶさぶ、とぼやきながら浴室を出ると、手早く服を着てリビングに置きっぱなしのドライヤーのコンセントを入れます。ドライヤーは温風ですが、それを持つ手はもう冷たいのですから、まったく容赦のないことです。

髪も乾いた頃になると、寝ぼけていた頭も随分スッキリしました。そこらへんに散らかした鞄を眺めながら、もうこのまま起きてしまおうかという考えがよぎります。


が、それも束の間。せっかくの朝寝坊できる予定がない休日です。優雅に二度寝と洒落込むことにしました。

そこまで時間は経っていないはずですが、既に温もりを失った布団に滑り込みつつ、最後まで時計を見なかったことをちょっぴり誇らしく思いました。

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?