見出し画像

「チョン・ヤギョンなんて知らない」連載開始のお知らせ

批評家に最もふさわしい資質を持っているのは詩人である、とボードレールが言いました。なるほど。ここで吉本隆明や大岡信の顔を思い浮かべた方もいるでしょう。ボードレールは正しい。では、詩人・批評家に作家を加えた三位一体の人物となると誰だろう。外国の事はよく知らないので日本でいうと、佐藤春夫かな。いやいや、私は伊藤整と中村真一郎の両人を挙げたいと思います。伊藤整は、その名を冠した文学賞があるから一般にも知られていると思いますが、中村真一郎はどうかな? 実は、池澤夏樹さん個人編集の日本文学全集には、川端康成や三島由紀夫の巻はないのに、中村真一郎の巻はちゃんとあるんです。尤も、堀辰雄・福永武彦と三人で一巻ですがね。しかも、福永武彦は、中村真一郎の学生時代からの盟友で、ともに「マチネ・ポエティック詩集」を出しただけではなく、池澤さん自身のご父君だったし、堀辰雄はその両人の師匠だった。ま、そんな裏事情はさておいても、中村真一郎は、戦後日本文学の重要な作家であり批評家でした。その中村真一郎の著作の中に、毎日出版文化賞を受賞した「この百年の小説」があります。この本は、「青春」「恋愛」「老年」など、十一のジャンルに主要な作品を分類して、それぞれの作品を紹介した格好の読書案内であるとともに、日本近現代文学史の本でもあるという画期的な著作でした。その「老年」の項に、谷崎潤一郎の「瘋癲老人日記」や川端康成の「眠れる美女」らと並んで登場するのが、伊藤整の「変容」だったのです。老年の性を大胆に描いた小説として話題になりました。

ここまでは、落語でいうと「まくら」。これからが本題。今、緊急事態宣言が出た大阪でこの文章を書いています。外出自粛中。ヒマなので、そして、ヒマな人に読んでもらいたいので、また未公開の小説を連載する事にしました。まもなく「チョン・ヤギョンなんて知らない」の連載を始めます。実は、その小説の主人公が、定年前に伊藤整の「変容」を読むシーンが出てくるので、予告編のような形で紹介しました。といっても、この小説は老年文学論を繰り広げるためのものではありません。小説のテーマは、「定年後の長い時間をどう生きるか」でした。もう10年程前に、私自身が経験したことを元に書いています。あらゆる小説がそうであるように、主人公は著者である私自身だと言ってもいい。まあ、ほとんど作り話なので、自伝と間違われては困りますが。微妙なシーンも登場するし。変てこな題名だけれど、その意味は小説を読んでいただければわかると思います。ここでは「チョン・ヤギョン」は人名だという事だけをお知らせしておきます。韓国の歴史やドラマに詳しい人には常識ですね。そんなに長い小説ではありません。間隔をおいて連載しても、緊急事態宣言の期間内には終わるはずです。では、ご愛読の程を。あれ?まくらよりも本題の方が短かった。


この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?