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サタデイ

立ち篭める陰雨を傘で拭いながら、水溜まりを避ける、避ける。ふらふらと歩くものだから、肩口から袖口にかけて、水滴の爆ぜた痕が余計に連なる。休日の朝は、迫った予定の無い限りは煙草を吸いに出掛けるのだ。皆、濡れるのが億劫なのか、店内の客は少ない。

大江健三郎の作品集、既読の『不意の唖』を除く五品を読了す。何れもこのあいだ読んだ『われらの狂気を生き延びる道を教えよ』とはまた異なる、無骨な鋭さ ─打製石斧でドスンとやられるような─ がある。読感は愉快なものとは程遠いが、この胸糞の悪さこそ読者自身の実存的感覚でもあって、その点にはある種の好ましささえ抱いてしまう。そうしてまた我々の時代、生きる世界に目を向けるのであった。

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