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月と六文銭・第十四章(60)

 工作員・田口たぐち静香しずかは厚生労働省での新薬承認にまつわる自殺や怪死事件を追い、時には生保営業社員の高島たかしまみやこに扮し、米大手製薬会社の営業社員・ネイサン・ウェインスタインに迫っていた。

 田口はウェインスタインからの電磁波を防ぐための試行錯誤を重ねつつ、ウェインスタインの上司であるオイダンが同僚・デイヴィッドを殺した犯人かどうかを確認するため、日本に戻って来た彼と食事を一緒に摂ることにして…。

~ファラデーの揺り籠~(60)

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 オイダンとの食事まで30分、高島都に変身するには余裕のある時間ではなかった。
 しかし、田口はオイダンが知っている高島になるため、再びマウスピースを入れて歯並びと頬のラインを整えた。カラー・コンタクトレンズを入れてやや緑がかった瞳にした。髪は前回に比べ少し暗めのウィッグを付けて、落ち着いた雰囲気を出した。ドレスはネイビーのワンピース、靴は紺と白のバイカラーのパンプス、バッグはハイブランドのネイビーを持って、東京出張中の地方営業ウーマン・高島都の出来上がりだった。

 最上階のレストランで寿司を食べるのに、オイダンはテーブル席を案内させた。
 オイダンくらい日本語が分かるなら、カウンターで楽しく食べられると都は思ったが、オイダンにはオイダンの考えがあるのだろうと思って黙ってついていった。夜景のきれいなテーブル席で、オイダンは少し多めに頼んで、出来次第運ぶようサーバーに言った。

 カウンター席に座るよりもプライバシーがあったが、個室ではないため、何か秘密の関係という雰囲気を出さずに済んだ。そうしたところは「オイダンは上手いなぁ」と高島は思った。

 高島は上目遣いに「うふん」と艶っぽい含み笑いをして、オイダンを少しだけ挑発した。もちろん、一緒にどちらかの部屋に戻って関係を持つことがないのは互いに分かっているだけに、オイダンは遠慮なく顔を赤らめながら、高島の胸元の深い谷間を眺めた。

「ヴィンセント、ごめんね、今日の運動はジムで一人でやることになりそうね」
「気にしないで、移動直後は気分が高揚し過ぎて制御が効かないから、今日はジムで運動するのがちょうどいいくらいだ」
「私もあとで一緒に走ろうかな?」

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田口静香の寝物語がいよいよ佳境を迎えたかと思いきや、意外な人物の関与が状況を複雑にしていく。 CIA工作員・田口静香が担当した危険なアサインメントの第四部に突入!

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