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月と六文銭・第十四章(24)

 田口たぐち静香しずかの話は続いていた。厚労省での新薬承認を巡る不思議な事件の話に武田は引き込まれ、その先の展開に興味を示していた。
 ターゲットのネイサン・ウェインスタインが高島たかしまみやこの部屋に来た。ベッドインして必要な情報を入手できるのか、それとも死闘になるのか、高島にはまだ分からなかったが、準備だけは入念にしていた。

~ファラデーの揺り籠~(24)

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♪ピンポーン♪

 部屋の入り口のチャイムが鳴った。
 都は扉に近づき、手鏡を45度の角度にして、鏡面に映る覗き穴から外の景色を確認した。写っているのはネイサン・ウェインスタインの顔だった。そして、後ろに人がいる感じはしなかった。
 都は一度扉を離れ、扉に向けて声を掛けた。
「はーい、少し待ってください!」
 都はわざとパタパタスリッパを鳴らして扉に近づいてきた。ドアストッパーを外し、ゆっくりとノブを回し、いきなり扉を強く押されて倒れないよう足で扉の下の部分を押さえながらゆっくりと開けた。
「お待たせしました!」
「こんばんは!はい、これ!」
 ウェインスタインは小柄な箱を差し出した。薄緑のその箱は、有名な銀座のカフェのもので、中身は看板スィーツのマカロンだろう。六本木駅前の支店で購入したもののようだ。
 都はホッとすると同時に、渡されたのがコンドームの入っている箱だったら今夜は寸止め地獄にして、エッチはお預けにしようと考えていたので、安心して笑顔でその箱を受取った。
「開けてい~い?」
「もちろんです!」
 都はウェインスタインから受け取った箱を素早く開けて中を見た。
「あぁ、ありがとう!マカロン大好き~!一緒に食べましょ!」
「はい、有名なものらしいです」
「うん、このお店知っているよ。女の子に大人気だよ。こういうプレゼントをいつも用意しているの?」
「今夜のために昼間買っておいたものです」
「嬉し~!」
 都は箱を持って嬉しそうに部屋の奥に戻っていった。その際、わざと背中をウェインスタインに見せて隙を作り、普通の女性のふりをした。
「ねぇ、何か、飲む?一応、ジンジャーエールもコカ・コーラもクラブソーダもあるよ」
「ジンジャーエールを、お願い」
「はい!氷は?」
「少し」
 都はアイスペールから氷を3キューブ取ってグラスに入れ、カナダドライを開けて注いだ。泡が少し落ち着いてからウェインスタインに渡した。
 箱の蓋を開け、内側にあるラッピングをはずし、箱の中にきれいに並んでいるマカロンを眺め、挟まっている紙を見た。ピスタチオ、ヴァニーユ(バニラのこと)、キャラメル、ショコラ(チョコのこと)、シトロン(レモンのこと?)、マッチャ(抹茶!)とそれぞれの説明が書いてあり、つい頬が緩んだ。
「ねぇ、いただいてもいい?」
「もちろん、あなたのために用意したものですから」
 田口は港区女子の間で流行っているピスタチオを手に取り、見つめてからパクっと嚙みついた。
「う~ん、おいし~!ありがとう!」
「どういたしまして」

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