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月と六文銭・第十六章(8)

 武田は台湾人留学生リュウショウハンがスポンサー探しで苦労している話を聞いた。健気で真面目な学生なだけに、サポートしてあげたいと思ったのは嘘偽りのない気持ちだった。
 リュウは、'大人の関係'でのサポートを取り付けたが、出来たら自分の箪笥やクローゼットを充実させてもらえないかの提案も合わせて出してみた。

~充満激情~

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 次に会う時はディナーで、という約束を取り付けたものの、リュウは少し考え込んでから質問した。

「確認してもいいですか?」
「どうぞ」
「そのディナーの後はどうしますか?
 私、来週、生理期の予定です。
 エッチするなら、その次の週の方が良いです。
 すみません」
「謝ることはないですよ。正直に話してくれてありがとう」

 その一言でリュウは安心したし、武田への信頼度が一段と高まったようだった。
 多分、以前のボーイフレンドからは、生理になると嫌な顔をされたり、そのまま避妊してもらえなかった経験があるのだろう。条件の話をする中で、リュウが生理中の行為をわざわざ挙げて断ってきたことから、生理を巡ってはボーイフレンドと何度か嫌な思いをしてきたというのが顔に出ていたからだ。
 武田も完全に女性の生理とその影響を理解していたわけではないが、女性の体調に合わせることが大事だとは思っていた。

「リュウさん、難しい時は遠慮なく言ってください。
 嫌な思いをしてまで、しなくちゃとは思わなくてもいいですから」
「ありがとうございます。
 武田さんはそれでも大丈夫ですか?
 怒って、私、嫌われるの悲しいです。
 嫌われるくらいなら、私、我慢できます」
「いやいや、その週は楽しくお食事して、次の週はお食事とその後にお部屋に行けばよいと思いますよ」
「ありがとうございます」

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 武田の配慮をありがたく思ったものの、お金の面で言えば自分の生活を支えるために一定の金額は必要だから、生理を理由にセックスを先延ばしはできないという制約があった。
 武田は交際相手がいるから、自分がセックスできなくても多分困らないが、逆に自分は困る。そんな考えが頭の中を駆け巡った。

 外国人だからなのか、リュウがそういう女性なのか、考えていることが表情に出やすいようで、武田にしてみたら"分かりやすい"女性だった。

 武田の恋人・のぞみは生理になって喜ぶ珍しい女性だった。生理前緊張症とでもいうのか、イライラしたり、胸が張ったり、便秘になったりするので、生理が始まるとそうした症状等がなくなって、喜ぶのだった。
 1週間近くイライラして、パートナー(=武田)に当たったりしていたことに対する罪悪感もある。生理が始まるとそうした現象はスッと消えてしまうのだが、肝心のエッチができなくて、違った意味でイライラする面はあったが。
 武田はエネルギッシュなタイプで、年齢の割には性欲が強かったが、生理でエッチができないのぞみにいろいろ求めたりはしなかった。手をつないだり、抱きしめてあげたりして、少しでも気持ちが安らぎ、痛みが和らぐよう努力した。若い男性には無理な、"大人な男性"だからこそ示すことができる余裕と言えた。
 体調やメンタルへの配慮があることが、のぞみの武田に対する信頼感に繋がっているようだった。時々無神経な発言があって、爆発することもあったが、完全に理解していない若い男性とは違った。
 もちろん人生の先輩として学ぶことも多かったし、会社や業界の大先輩として尊敬していたし、師匠としてノウハウやスキルを伝授してもらっていたこともあるが、これまで付き合ってきた男性にはない度量の大きさ、おおらかさがあった。

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 良く言えば"大人の余裕"で、外国生活の長い男性の特徴の一つである女性に対する配慮は、若い時から身に付いていないと自然には出てこない。
 こうしたマナーみたいなものは、元々身に付いていないといざという時にできないから、"かまってちゃん"なのぞみにはすぐに分かってしまうのだった。
 米国研修の際に現地男性社員と駐在員男性社員を見て感じたのは、現地社員の長老格、副社長ポール・チェンと武田だけが本当にこういうマナーが身に付いていて、自分に対してだけでなく、社員の誰に対してもそうだったし、お店の入り口などでは誰に対してもそう振舞えていたのだ。
 武田はチェンに全幅の信頼を置いていたし、チェンもそれまでの駐在員に対するのとは接し方が違うと言われていた。駐在社長にしてみたら、いかに現地採用社員のキーパーソンを握るかで、会社運営がうまくいくか、余計な仕事が増えるかの分かれ道だから、武田はうまくやっていた、と新人ながら、オフィス内の活気や風通しの良さ、意思疎通の迅速さを見て感じたものだ。
 武田はそういう意味では外国人との付き合い方を根本から理解していたのかもしれない。外国暮らし、外資系での勤務経験もそれを形成するのに一躍買っていただろうけど、武田のコミュニケーション力の高さと頭の回転の速さがポイントなのだろうとのぞみは思った。
 NY研修時の取引先企業での研修で、米国人の中でもそうした差があることに気が付いていた。やはり出世している人は配慮と先読み、無駄のない動きがうまく組み合わさっているのだと感じたものだ。

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 武田はリュウを見つめた。リュウはあの鋭く射抜く目付きで見つめ返してきた。

「そうしましたら、来週はお食事で会うことにしましょう」
「はい、ありがとうございます。
 考えているレストランの服はフォーマルですか?」
「いや、あまり堅苦しいお店はやめておきましょう。
 ジーンズやスェットは良くないと思いますが、本日のような服装なら全く問題ないと思います」
「分かりました。
 図々しいお願いなのは分かっていますが、時々買い物に連れて行ってもらうことはできますか?」
「いいですよ」
「ドレスや普段着など入れ替えが必要なものまでお金が足りなくて、もし、きちんとした服装が必要なお店に行く時は、事前にそういう服を買っていただくことをお願いできますか?」
「いいですよ」

 それくらいのことは難しいことじゃないが、リュウにしてみたらきちんとお願いする範囲に入る物なのだと武田は思った。のぞみも、何でもかんでも欲しい欲しいとは言わず、こういう機会だからこういう服で行きたいんだけど、自分はこういうものは持っているが、これがないから買って欲しい、といった具合だ。
 リュウもそういうつもりなのかもしれなかった。

「リュウさん」

 リュウは何か断られることがあると思ってビクッとしたみたいだった。

「毎回は難しいですが、シーズンごとに買い物をして、少しずつ服を揃えましょう」
「あ、ありがとうございます!」

 武田はリュウの返事に満足したのか、鼻の下が伸びていたことだろう。
 リュウは続けた。これが目的ではなく、あくまでも"大人の関係"で武田が満足するようにとの思いからだろうけど、面白い提案だった。

「それで、次に会った時にランジェリーの買い物に行って欲しいです。
 その次の時の夜、私が着るものを選んで欲しいです。
 武田さんに喜んでもらいたいからエッチなもの、OKです」

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