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月と六文銭・第五章(2)

 武田と同じマンションの板垣いたがき陽子ようこは、武田に興味を持ったようで、ドライブに連れて行ってもらえるよう声を掛けた結果…

~レースクィーン陽子~(2)


 2日後の夜、陽子は上着を羽織り、パパを見送りに下まで来ていた。

 その日は部屋で軽く夕食を摂った後、陽子はプレイルームの補強された梁から吊るされ、口にはシリコンのギャグボール、膣にはバイブレーター、肛門にはアナルパールが差し込まれ、涎を垂れ流し、白目を向いてほとんど失神するまで攻められていた。

 その後、梁から降ろされ、後ろからパパに抱かれ、精を流し込まれていた。陽子はピルを飲んでいたが、腰の痛みを和らげてくれるのと、パパ好みのややグラマーな体形にしてくれる副作用があった。

 ただ、パパがほかでどんな女性を抱いているのか知らなかったので、性病防止のためコンドームを着けてほしいと思っていたが、なかなか言い出せないでいた。

 手を振って見送っているとアタッシュケースを持った武田がちょうど戻ってきた。陽子はさりげなく一緒にエレベーターに乗り込んだ。

「明日、早朝、箱根まで行きます。
 夕方前には戻ります。
 よかったら」
「何時ですか?」

 陽子は目をぱちぱちさせて、反射的に聞いていた。

「7時には出ようと思います」
「はい、大丈夫です。
 5分前には車のところにいます」

 7階に着くと、陽子は振り返りもせずに、そのまま自分の部屋に向かった。各階にはエレベーターの乗降を記録しているカメラがあるのを知っていた。武田もエレベーター内では前を向いたまましゃべっていた。

 陽子は膣内洗浄を済ませ、玩具類を消毒して片づけ、ゆっくり入浴した後、いつもより早めに寝た。


 翌朝、陽子はキュロットパンツ、ブラウス、短いジャケット、髪はキャップの中にまとめて、7時5分前にポルシェの横に来た。武田は前のトランクに何か入れ終えて閉めるところだった。

「荷物はありますか?」

 陽子は小さなリュックを見せた。

「すぐに要るものがなければ、トランクに入れましょうか?」
「お願いします」

  陽子はリュックを渡した。必需品は小さなハンドバッグに全部入れて、肩から掛けていた。

「一度シートの位置を変更しますので、少しお待ちください」

 武田は乗り込んで助手席の前から手を入れ、何やらノブを回し、シートを後ろにズラし、再度ノブを回して固定した。

「陽子さんと呼んでもいいですか?」
「あ、はい」
「陽子さんは足が長いので、いつもの位置だと足元が狭いと思ったので」
「ありがとうございます」

 陽子は明るく答え、先日見ていたバーバリーの子の真似をして乗り込んだ。武田は5点式セーフティーハーネスをつけてくれた。自分もきちんと5本のベルトをセンターロックに差し込んでから、走り出した。

 4リッターもあるエンジンなら充分トルクもあって地下駐車場から出る時には困らない。クラッチミートは結構シビアだろうと思っていたが、PDKと呼ばれるシステムでクラッチペダルがないタイプだった。


 ポルシェは“着る”と言う。乗るのではない。昔は服も靴も仕立ててもらうもので、自分の体に合っているものだった。ポルシェに振り回されるのではなく、コントロール下に置いて“着こなす”ものだ。以前ル・マンにも出走したことのあるレースチームの監督がドライバーに話しているのを陽子は思い出した。

 自分の左でレーシングカーとさほど変わらないこのポルシェを正確無比に扱っているこの男はどこから来たのか?無理をしている様子はなく、加速、減速、停止、車線変更、そしてギアチェンジの際もエンジンが無駄な音を立てず、実にスムーズだ。

「タケダさんはこの車、長いのですか?街中でも高速でもとてもスムーズで」
「この車は1年と少しですが、911は25年くらい乗っています」
「ポルシェを着こなしているって表現するらしいですね」

 陽子は着るを着こなしていると言い換えて武田にぶつけてみた。

「さすがエスエイマート・ポルシェ・チームのレースクィーン!
 ポルシェについて勉強していますね。
 ポルシェは着るものと言われますね。
 自分に合わせて仕立てていく過程もあると思います」

 武田は静かに返し、続けた。

「板垣陽子、25歳、モデル、レースクィーン。
 今はチームオーナー・曽我部そがべ正和まさかず氏の個人所有マンションで暮らしている。
 特技はチアリーディング。
 A級ライセンス保持者。
 聖パウロ大学社会学部卒。
 このマンションの曽我部氏のこと以外はインターネットで1分くらいで調べられました。
 いや、どういった女性か知らずに車に乗せようと思うのは少しナイーブだと思って調べました。
 スリーサイズもインターネットに載っていましたが」
「EからFの間です、カップ。
 数字は載っている通りです」
「とてもスタイルがいいですね」
「お陰様でモデルやレースクィーンの仕事がもらえています」

 武田は、そのスタイルのお陰で7階の部屋ももらえたのですね、とは言わなかった。


「ところで、どうして私がタケダだと分かったのですか?」
「14階は2部屋だけで、住んでいるのはタケダさんとサトウさん。
 サトウさんのところは奥さんの名前が郵便受けに書いてあるし、エレベーターで奥さんが郵便物を持っているところに乗り合わせたことがあるの。
 素敵な方で、娘さんもいらっしゃるけど、今は関西の大学らしいです」
「ほう、じゃあ、私については?」
「英国製のスーツにブリーフケース。
 靴も英国製。
 お医者さんでも弁護士さんでもなさそうですけど、最上階の部屋のオーナーで、マンションの値段もするようなポルシェに乗っていて、時々全身バーバリーの若い女性が訪ねてくる独身者か単身赴任者」
「つまり?」
「つまり、何も分からないの。
 曽我部社長は投資会社の投資部長か役員だと言っていたけど、どこで何をしているのか、結婚しているのかどうかも実ははっきり確認できない。
 あの女性はたぶん私と同じくらいの年齢だと思うけど、実の娘にしては年齢が近すぎる。
 姪だとしたら、親しすぎる。
 アタシとオジサマとの関係と同じなら納得いくけど」
「陽子さんと曽我部さん?」
「いえ、社長はいわゆるパパで、他にお世話になっているオジサマがいるの。
 私のことを紹介する時に姪っ子って紹介して、分かっている男性同士ではそれ以上は聞いてこないの。
 お互い様みたいで、パーティーでそういう女性と一緒になることもあるの」
「あの子は娘でも姪でもないし、私は医者でも弁護士でもない。
 あのコンドミニアムはローンで買ったものかもしれないし、親の遺産で買った可能性もある。
 この車もローンで買ったものかもしれないし、宝くじが当たった可能性もあるでしょう?」
「だから何も分からないの。
 ただ、大切にしているのはよくわかります。
 あの女性もこの車も、ついでに言うとあのメルセデスも」

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