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月と六文銭・第十四章(30)

 田口たぐち静香しずかの話は続いていた。厚労省での新薬承認を巡る不思議な事件の話に武田は引き込まれ、その先の展開に興味を示していた。
 高島たかしまみやこは、パイザーのネイサン・ウェインスタインとの会食のため、最上階へと向かった。

~ファラデーの揺り籠~(30)

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 最上階に到着すると箱の中の男性陣は道を開け、都を先に降ろし、後から自分たちが降りた。日本では珍しくエレベーターのマナーのある男性たちだった。
 レストランの入り口でがっしりした白人男性がこの女性を待っているのを見て、これが男性の複雑でナイーブなところなのだが、急にアンチに心が振れてしまった。そして、急に「この女は外国人になびく、外国かぶれの女なんだ」と思うようになり、その女性も外国人男性も敵視するようになった。いまだ外国人コンプレックスの日本人が多い証左だった。
「Hi Nathan, thank you for the lovely invitation」そう言って都がネイサンと合流すると男性陣は流暢な英語に圧倒され、妬みの感情のやり場に困った。
 どうもただのOLじゃなさそうだと理解したようだ。もしかしたらバリバリの外資系ではないかとみんな勝手に納得してしまった。
 そんな男性陣の気持ちとは関係なく、ネイサンは”だいぶ英語を思い出した”都と鉄板焼きを楽しんだ。誕生日にベニハナで鉄板パフォーマンスを楽しむのは、今でも米国ではちょっとした誕生日プレゼントだったから、今夜は特別感を出したくて、鉄板焼きを予約してあったのだ。
 昨晩の日本語八割、英語二割から今夜は英語八割日本語二割にまで逆転した二人の会話は、傍から見たら流暢で楽しく、長い付き合いのカップルにも見えた。
 実際に出会ったのはたったの二日前だし、昨晩は体を重ね、互いの深いところを少しだけ見せあってものの、親しいと言えるほど長い時間を一緒に過ごしたわけではなかった。
 刹那のなせる業なのか、本当に波長が合うのか、ネイサンも都も楽しくて仕方がないようで、食事中から手を握り合い、頬にではあったが人前でキスもし、大笑いをしていた。

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