マンガMeeでマンガ家デビューから人気連載までの道のりを大公開!『メンヘラうさぎはヤンデレ狼に溺愛される』葉夕シオリ先生インタビュー【前編】
マンガMee公式noteでは、デビューを目指すみなさんへ、面白い漫画作りのヒントになる情報を発信中。マンガMeeで活躍する人気作家さんに、漫画家志望者なら気になる漫画作りのアレコレを教えてもらうインタビュー連載を公開しています。
今回は、マンガMeeで大人気の作品『メンヘラうさぎはヤンデレ狼に溺愛される』の作者の葉夕シオリ先生に、デビューから初連載までの道のりを伺いました!
前後編と、全2回にわけて掲載予定です。第1回となるこの記事では、マンガMeetsで投稿をはじめデビューを掴むまでについてをお届けします!
リミットを決めて、漫画家デビューの覚悟を
——葉夕先生、はじめまして!『メンヘラうさぎはヤンデレ狼に溺愛される』をマンガMeeにて絶賛連載中ですが、葉夕先生は本格的に漫画を描き始められてからまだ3年ほどだとか……!しかも子育てもされていて……とってもご多忙な生活を送られているかと思いますが、どんなきっかけで漫画家を目指そうと思われたのですか?
葉夕シオリ先生(以下、葉夕) 幼い時から、漫画家になりたいという夢はあったんです。元々絵を描くのが好きで、小学生の時のお友達が「漫画家になりたい」と言っていた影響で、「私も漫画家になりたいな」と思ったのが一番はじめのきっかけです。
それから、小学6年生の時に初めてつけペンを持って、種村有菜先生の『神風怪盗ジャンヌ』のジャンヌちゃんのような女の子が出てくるオリジナル漫画をノートに描いて、学校のクラスのみんなに読んでもらってということをしていました。ジャンヌちゃんのような女の子が転生するような漫画です(笑)
中学3年生から高校2年生くらいまでは、同人活動もしていたんですよ…!描いた原稿を印刷所に出して、製本までやって、販売していました。でも、大人になるにつれて全然絵を描かなくなっちゃったんです。美大に入って、デザインの仕事をするようになったので、そこからは本当に漫画は描かなくなっちゃいましたね。
そして結婚して、2014年に長男が生まれたんです。この出産が、漫画にもう一度触れるきっかけになりました。というのも、自分の時間が全然なくって。何か自分の好きなことができる時間って、授乳の時に2、3分ちょっとスマホに触れるくらいな感じだったんです。子育てのそういう隙間時間に、昔と比べるとスマホで気軽に漫画を読める環境になっていたので、comicoさんなどで漫画をまた読むようになって。さやえんどう先生の『ばぶらぶ』や、夜宵草先生の『ReLIFE』などを読んでいました。
そうやってcomicoさんを読んでいる中で、「漫画を描く人っていっぱいいるんだな」とか「昔よりも漫画家になる間口が広がって、漫画家になるハードルってちょっと下がったのかな」みたいな印象が出てきまして。でも、結局そこから子供を更に2人産んだので、漫画家になりたいと心のどこかで思っても、行動を起こせずというのがずっと続いてました。
——ご出産と育児でご多忙だった中、そこから漫画を投稿してみようと思ったきっかけを教えてください。
葉夕 2020年の中ごろに、主人が鬱病になって働けなくなってしまって。そのときに、企業に就職して働くとか色々な選択肢を考えたんですけれど、まだ末っ子が生まれたばっかりな上に、主人を家において私が日中いなくても大丈夫なのかというのも心配で。
貯金などでしばらくお金の心配もなかったので、2年とリミットを決めて「死ぬ気で頑張って、漫画をやってみようかな」と思ったんです。
元々、美大時代にデザイン学科でフォトショップの基礎などもわかっていましたし、「漫画家になりたいな」と悶々としながら出産や育児をしていた時に、iPadとかも実はもう用意してあったので……(笑)。漫画を制作するための物理的な環境も揃っていたんです。
それで「じゃあ、どこに持ち込んでみようかな」となった時に、元々大好きだったので「りぼん」に投稿しようと思って。「どうしたら『りぼん』の編集部に見てもらえるのかな?」と探していたら、マンガMeets(以下、Meets)を見つけて投稿しました。
最初に投稿したのは2020年12月ですね。りぼん編集部に向けて作品を投稿して、次の作品もりぼん編集部に向けて出しました。その時はまだマンガMee(以下、Mee)というレーベルを知らなかったんです。
——はじめは「りぼん」だったんですね!そこからどうして、マンガMeeの新人賞に投稿しようと思ったんですか?
葉夕 Meetsを通してMeeのことを知り、懐かしの少女漫画などをMeeのアプリで読んだりして、面白いなと思って。藤井みほな先生の『GALS!』の続編や、あとは家族モノを読んだりしていました。あいざわ遥先生の『まんまるポタジェ』とか。
Meeを通して、新しい作品を知るようになって、やっぱり一番私が描きやすいのは、私世代向けの子育てモノかなって思ったんです。持ち込みをする中で、今の私は読者としてはりぼん世代では全くないなということを感じていたこともあったので。Meeはどちらかといえば、私みたいな隙間時間で漫画を読むような大人の方が読者層として多いのかなと。
Meeの新人賞に投稿してみようと考えました。
それで応募したのが、『そういういきものだから』という、私の家族……主人と私と、子供3人の生活を描いた4コマのコミックエッセイです。それまでは恋愛のオリジナルものを描いていたので、エッセイへと思い切った方向展開をしたと思います。
——なぜエッセイにしようと思われたんですか?
葉夕 エッセイにしたのは、まず作品をカタチにすることに慣れたいと思ったからです。
Meeの新人賞に出す前までに描いていた、「りぼん」向けの2作品は、やっぱりまだ漫画を描き慣れてないこともあって、1作品に半年とかの時間をかけてしまって。2年だけ頑張るって決めたのに、そこで1年使っちゃっているなと……。
子育てモノのオリジナルストーリーも素敵ですが、エッセイなら、ネタを日常からいっぱい拾えるし、4コマ漫画でいくつも短い話を完成させることができるので、そうしようかなと思いました。
エンタメ性を意識した作品づくりへ
——次のMeeへのママ漫画賞応募作で、担当がついたんでしたよね。1回目の新人賞を踏まえて、どんなふうに作品を考えられましたか?
葉夕 『そういういきものだから』を投稿したときに、「家族みんなをまんべんなく描いてるけれど、誰か1人に焦点を絞って目線をわかりやすくした方がいい」というアドバイスをいただきました。「長女が面白そうだから、長女がいいんじゃないか」とか、「ペットの猫視点とかいいんじゃないか」とか。そんなふうにMeetsに登録されている編集者さんたちから、色々とご意見いただいたんですけれど、やっぱり私がいろんな人に知ってほしいのは長男のことだなと思って。
我が家の長男・こうちゃんはASD(自閉スペクトラム症)なのですが、長男がそう診断されるまでのお話として『境界線上のこうちゃん』を応募しました。世の中にこういう子供がいて、その子なりに楽しく生きてること。ちょっと大変だけど、息子のことが大好きっていうことが描けたらいいなと思って投稿した作品です。この作品でママ漫画賞に入賞して、担当さんがつきました。
——担当がついたときは、どんなお気持ちでしたか?
葉夕 やっぱり最初はびっくりしました。担当についてもらえると、Meetsに担当さんとのDM機能が出現すると思うんですけれど、「今までなかった機能が急に出てきた!」と思いましたね(笑)。
——担当に言われた印象的な言葉などはありますか?
葉夕 新人賞に投稿した1、2作目がエッセイだったわけですけれど、担当さんとの初めてのやり取りの中で「エッセイだとテコ入れがしづらいし、なにか、もっとエンタメ性があった方がいいよね」と言われまして。
私、元々はストーリー作品をママ漫画賞に出そうと思って準備していたんですよ。ただ、どうにも人に見せられる状態ではないなと自分で思っていたので、とりあえず『境界線上のこうちゃん』を出しました。
しかし、やっぱり描きながら、エッセイだと「自分のことですよ」って言いながら描くんで、どうしても綺麗ごとにしかまとめられないなとは思っていて。暗い部分を掘り下げることがエッセイだと、私はちょっとやりづらいなと。担当さんに指摘される前から思っていたこともあったので、「これからはエッセイじゃなくてストーリーものを描こう」と考えがこの時に変わりました。
それで、担当さんに、ママ漫画賞に元々応募予定だった作品を、人に見せられる状態ではないと思いつつもお見せしまして(笑)。修正を加えて完成したのが、新人賞2回目の応募作になる『ママは愛と正義の味方』です。
——だから次の応募作品からはストーリーなんですね!『ママは愛と正義の味方』はどんなことを担当とやり取りして、形にしていかれたんですか?
葉夕 うちの娘から、もし「プリキュアになる!」って言われたらどうしようって考えたのが始まりです。もし娘がプリキュアをやるってことになったら、絶対に戦わせないだろうなと。「私が代わりにやるわ!」みたいな。そのアイデアにプラスして、私は『魔法少女まどか☆マギカ』が大好きなので、そこで「お母さんが魔法少女になる」という原型ができました。
じゃあ何と戦うのか考えた時に、よくわからない敵じゃ面白くないなと思って。「お母さんの反対で、悪いものってなんだろう?」ということを考えたら、虐待をしている親というのが考えつきました。
そして、「虐待してるお母さんって、本当に悪い人なんだろうか?」とか「すごい苦しんでるんじゃないかな」とかを考えたんです。それならば、魔法少女と虐待している親を対立させて、その親を助けてあげる……みたいなと膨らんでいって、あんな感じになりました。
ただ、原型からはガッツリ変わりまして。最終的に投稿したものだと、子育てに苦しんでいるママと、新入社員の子と、魔法少女に変身する3人の女性が出てきますが、元々は子育てに苦しんでいるママを助ける魔法少女の女性が主人公の話だったんです。
そうしたら担当さんに、「読者としては、救う側じゃなくて救われる側の方が感情移入しやすい」と言われて。
あと、そもそも魔法少女である必要があるのかという内容だったんです。悪役として夜叉というのが出てくるんですけれど、元々はいなかったんですよね。その結果、ファンタジー要素がすごく少なくて、ただ子育てで苦しんでるお母さんを、なぜか魔法少女が救うみたいな話になっていました。
それで、担当さんに「魔法少女じゃなくてもいいじゃん」って言われて。たしかにそうだなと思ったんですけれど、でもそこで魔法少女の設定をなくしていいかといったら、私としてはちょっと違くて。やっぱり、あんなに都合よく助けてくれる存在は現実に存在しないので、もっとファンタジーの方に振り切るために、苦しんでるお母さんが主人公になり、その虐待は夜叉のせいだという内容になったんです。
これで新人賞の奨励賞をいただきましたが、かなり情報量の多い作品だったので、作画の強化と、息抜き的に読めるような漫画を描くことを目的に、次の作品は4ページマンガ賞に応募することにしました。
——4ページ漫画賞では、作画の何を強化しようと思われて描かれたんですか?
葉夕 私、ずっと男の人が描けなくて。女の子がすごい上手いかっていったら別にそういうこともないんですけれど、本当に男の人を描くのが苦手で。『ママは愛と正義の味方』なども今見返すと、男性が、飄々としていて、少年みたいな感じになっちゃっているんですよね。
なので、男性の作画強化のために、4ページ漫画賞で作画に注力して頑張ることにしたんです。主にデッサンと、瞳の描き方ですね。今風の瞳の描き方とかを研究して、『その手が私に、ふれたなら』を投稿しました。
結果的に4ページ漫画賞では銅賞をいただいたのですが、それでも結果発表後に担当さんに、男の人の描き方について指摘されて。いろいろと試行錯誤したら今の形に落ち着いたんですけど、だいぶ絵柄が変わったなと思います。
でも、相変わらず男の人を描くのが苦手で、今も『メンヘラうさぎはヤンデレ狼に溺愛される』の愛士くんの顔が毎回変わっちゃうな……と個人的には思っています(笑)。
読者に一番何を届けたいか——
——4ページ漫画賞の次はまた新人賞に応募され、そこで準グランプリを受賞してデビューされていますよね……!どんな意図で、受賞作は描かれたのでしょうか?
葉夕 割と私は、前の作品で描ききれなかったことを、次の作品の題材にしがちなんですよね。それこそ『ママは愛と正義の味方』は虐待をしていた女性の旦那さんが嫌な感じだったので、今度は理想の旦那さんを描きたいなと。
じゃあ理想の旦那さんを描こうとしたのが『その手が私に、ふれたなら』だったんですけれど、考えてみたらこんな都合の良い男はいないだろうと思いまして。その時に私の主人が鬱になった当初のことを思い出して、次は完璧なスパダリが壊れてしまう話にしようと、『スーパーダーリンクライシス』を描きました。ただ、誤解されないようにお伝えすると、この作品の内容は実話でもなんでもないです。
——新人賞に応募するまでに、担当と作り変えたところや、変わったところはありますか?
葉夕 最初のネームはものすごく長くて、75ページぐらいあったんです。それで、担当さんに長すぎるからせめて50ページ未満にと言われて、頑張って削りました。
なんだかやりたいことが多すぎて、ちっちゃい山がいっぱいになった結果、どれが一番の山なのかわからないような話に、はじめはなっちゃっていたんですよね。小波が何回も来て、大波が来て。また小波、大波みたいな。とにかくサイドストーリーみたいな話が多くて。リアルの人生はそれでいいんですけれど、漫画のネタとして考えると、わかりづらくなっちゃいますよね。
それで読者さんに一番何を届けたいかと考えた時に、ひたすら絞って絞って、中心となるエピソードだけ入れ込んで最終の形になりました。削っただけで、何か新しい要素を入れたりとかはなかったと思います。私は結構情報を盛りすぎな傾向にあるので、本当に必要な情報はどれなのかというのを考えるには勉強になりました。
——『スーパーダーリンクライシス』でデビューになったということで、ご自身の中で今までの作品と比較して「ここが変わったからデビューできたのかな?」と思うところはなんでしょうか?
葉夕 『ママは〜』と『スーパーダーリンクライシス』を比較すると、エンタメ性を少し意識できるようになったと思います。先ほども話したように、本当に情報を盛ってしまう傾向が私はあるので……。
『ママは〜』は、伝えたいことが多すぎて、全部詰め込んじゃっていたんです。『スーパーダーリンクライシス』もはじめのネームはそうなんですけれど、内容を削って、シーンごとのいいとこ取りをだいぶ意識できるようになったと思います。あとは『その手が〜』と比較すると、男性の作画は成長しましたね。
『スーパーダーリンクライシス』のネームができて、「よし作画やるぞ!」というところで、担当さんに「どんなに内容が良くても、作画がこのままじゃデビューはできません」ってはっきり言われまして。
厳しめなことを言われてしまったなとは思ったのですが、図星なので必死に頑張りました。やまもり三香先生や、壱乃リョウ先生など、ひたすら漫画の模写をして男性の作画を練習しましたね。今見返すと、『スーパーダーリンクライシス』の作画もまだまだとは思いますが、「男性を描こう」という気合いはだいぶそこで変わった気がします。
担当さん、いつも褒めてくれて優しいんですけれど、「ここぞ!」というときに厳しいことも伝えてくれるので、ありがたいです。なので、『スーパーダーリン〜』は1ヶ月ぐらいかけて、めちゃくちゃ時間をかけて下書きしたのをよく覚えています(笑)。
——エンタメ性が意識できるようになったとのことで、前編の最後に、葉夕先生が考える「エンタメ性」について教えてください!
葉夕 言語化が難しいんですけれど、単純に読後感のいいものだと思っています。
わざわざ嫌な気持ちになるために漫画を読んでいるわけじゃない、というのが私の考え方の根底にありまして。バッドエンドがダメとかそういう話ではないんですけれど、私は読者さんに読後感がいい作品を届けたいんです。なので、ハッピーエンドを大切にしています。
あとは、分かりやすさのハードルを下げることも大事だと思います。これは担当さんにもよく言われるんですけれど、説明が多すぎるとそれだけで情報が入ってこなくなってしまうんですよね。読者さんに読んでいただくハードルを下げるための情報の詰め込み方などは、だいぶ意識するようにはなってきているつもりです。
——読者の目線で作品をつくられているのだなと感じました…!葉夕先生作品の面白さは、そこからきているんですね。ありがとうございます!
・・・
次回予告
後編も準備中です!お楽しみに!
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取材・文/戸田帆南
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