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「劇団」えにしのこと

「えにし」は、主宰の前田勝さんがひとりでやっている劇団だ。「集団」でもなく「団体」でもなく「劇団」だと書いてある。前田さんが公演ごとに呼んだ役者さんやスタッフさんが集まって、毎回ひとつの座組になる。公演が終わったら、毎回座組は解散する。

前田さんはみんなから「八っちゃん」と呼ばれている。笑うと眉毛がカタンと下がって、八の字になるからだ。

お芝居の方向性、劇場でのお客さんへの対応、予約の方法、などなど、みんなでやっていてなにか、迷ったことがあると、みんなの顔は自然に八っちゃんを向いている。

八っちゃんはそんなとき、ちょっと考えて、自分の考えを言う。もしまとまらないときは、「明日までに考えてきます」と言う。それで、決めたことには必ず、「何かあったら僕が責任を取ります」と言う。そんなに深刻な言い方ではなくて、背負っている感じも受けさせずに、でもちゃんと決断していることが伝わるので、みんなはそうやってひとつずつ、進む。

今まで実際に何かがあったことは、ないんだけど、もし何かがあって、八っちゃんがひとりで責任を取ります、と言ったら、たぶんみんなは、八っちゃんひとりに責任を取らせることはしない気がする。

それって、不思議だけど、八っちゃんが「何かあったら責任を取ります」と言ってくれることによって、みんなが先に進める安心感をもらい、納得して進むことができるから、かえって、もし何かあったら、それはみんなの納得の上で起きたことなのだ、と、自分のことのように考えることができるのだ。

八っちゃんひとりに責任は取らせない。たぶんみんなそう思っている。だから八っちゃんの考えることや決定を大事にするし、もしなにか違うと思ったらすぐに言うし、そのうえで八っちゃんはさらに考えて発信してくれる。

稽古が終わり、気づけば、まるで長いことやってきた劇団みたいになっている。それも、誰も自分を犠牲にしていない、いい関係性を築けた劇団だ。

やっぱり「えにし」は劇団で間違いない。公演が終わるまで、わたしは「えにし」の劇団員なのだ。

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