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14 せんべろ古本トリオツアー 武蔵小山編(その1)

アダルトメディア研究家として肌色の仕事を精力的にこなす、安田理央。特殊翻訳家にして殺人研究家という物騒な肩書きをもつ男、柳下毅一郎。そして、ライターだったり古本屋だったりゲームデザイナーだったりする、とみさわ昭仁。3人揃って「せんべろ古本トリオ」である。

このトリオはお酒が大好き。全員自営業なのをいいことに、しょっちゅう平日の昼間に集まっては、昼から飲める酒場で乾杯をしている。ビールか酎ハイをジョッキで1杯、2杯。つまみを1品。時間にしてせいぜい小1時間。軽くエンジンがかかったところで、さあ、次はどこへ向かおうか。もちろん古本屋に決まってる。

そう、このトリオは年に2回ほどの間隔で、任意の町に狙いを定めては酒場と古本屋をハシゴしてまわるという夢のようなツアーを繰りひろげているのだ。つい先頃も、東急目黒線の武蔵小山を起点とするツアーを実施してきた。以下はそのレポートである──。

3月某日。トリオの面々が駅前路地の一角にある酒場に集合した。その店の名前はバンパイアという。いや、正しくは「晩杯屋」だ。店名に「晩」と付くわりには、午前11時からやっている。まだ昼前である。そんな早い時間から、酒に飢えたケモノたちを引き寄せている。トリオにとってはありがたい店だが、真面目な勤め人からすれば非常にけしからん店でもある。

けしからんのは営業時間だけではない。煮込みが130円、冷やしトマトが150円、マグロ刺しが200円……というように、つまみがいちいち激安価格。それでいて分量も申し分なく、味だってちゃんとうまい。そりゃあ人気店になるわけだ。開店して30分もする頃には、ほぼ満員になってしまった。この吸引力。さすがバンパイアだけのことはある。

とはいえ、なんぼ楽しくても最初から飛ばすとあとでエライ目に遭う。すでにそうしたことを学んでいる我々トリオは、酎ハイ2杯でさっと店を出る。古本屋にも行かねばならないのだ。目指すのは、アーケードを抜けた先にある「ブックオフ武蔵小山パルム店」。

立ち並ぶ店を冷やかしながら歩いていくと、途中でワゴンに古本とおぼしき商品を並べている店があった。どうやらそこは空き店舗にゾッキ本(倒産した出版社の在庫などを捨て値で処分すること)を並べている店だった。こういうふうに、予定外に古本と出会うのはうれしいものだ。1冊50円なんて本をちょこっとつまんで、さらに先を急ぐ。

すぐに到着したブックオフでは、2冊の収穫があった。自分が欲しい本というよりは、うちの店(原稿執筆当時に経営していたマニタ書房)に並べたい本。つまり仕入れだ。108円だからこんなことができる。

ブックオフを出たあとは、いったん駅まで引き返す。線路の反対側にある「九曜書房」を訪ねてみたが、こちらは残念なことにシャッターが閉まっていた。古本屋というのはこういうことが多い。営業時間の曖昧な店が多いのだ。その最たる例が神保町にあるマニタ書房なのだが。

その後、徒歩で西小山の「やま書店」、洗足の「大鵬堂書店」と行ってみるが、どちらもやっていない。とくに大鵬堂書店は期待が大きかっただけに残念度が高い!

どうしても立ち去りがたく、我々が店の周囲をうろうろしていたら、お隣の住人が建物から出て来るではないか。すかさず呼び止めて事情を話してみると、隣人曰く「古本屋の店主は食事に行ってるので、あと30分もすれば帰ってくる」とのこと。ならば……我々のすることはただひとつ。酒を飲んで時間をつぶすのだ。

次回に続く。

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