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12 週末のポテチとコーラ

 中学から高校時代にかけて、週末のお楽しみといえば、ポテトチップスとコカコーラの組み合わせだった。
 いま、テレビの地上波で映画を放映することはめっきり減ってしまったが、ぼくが学生の頃は「月曜ロードショー」「水曜ロードショー」「木曜洋画劇場」「金曜ロードショー」「ゴールデン洋画劇場」と、やたらとテレビで映画を見ることができた。映画館まで行くお金のない映画好きの学生にとって、こんなありがたいプログラムはない。
 そして、これらの映画番組を見る際に欠かせないのが、ポテチとコーラなのである。いま、映画鑑賞のお供と言えばポップコーンが代表的で、当時もポップコーンは商店で買うことができたが、あの頃のポップコーンってあんまり美味しくなかったよね。マイクのポップコーンとか新品を買ってきても湿気ってる感じがした。ま、映画館のポップコーンのことはいずれ語るとして、ここではポテチの話を続ける。

 ぼくの若い頃は、ポテチと言ったら「塩味」か「のり塩」くらいしかなかった。それで誰も不満を言ったりはしなかった。だって、どちらも美味しいからね。朝、新聞のテレビ欄で見たい映画が放映されるのを見つけると、いそいそとポテチを買いに走った。ぼくは何につけシンプルな味が好きなので、たいていは塩味を選ぶが、ときにはのり塩を買うこともある。まあ、のり塩と言ったってこれも塩味なんだけど。
 いまならポテチに合わせる飲み物はビールってことになるんだが、さすがのぼくでも中高生の頃から当たり前のようにビールを飲んだりはしない。やっぱりコーラだ。
 で、コカコーラかペプシコーラかということになると、断然コカコーラを選ぶ。元祖に操を捧げたいという気持ちもあるが、ペプシはただ甘いだけのような気がして、昔から好きじゃなかった。スティーブ・ジョブズがジョン・スカリーを引き抜く際にペプシを「砂糖水」呼ばわりしたときは、我が意を得たものだ。

 一方、ポテチにも湖池屋とカルビーという2大ブランドがあるが、これについてはどっちでもいい。塩味でさえあれば、ぼくはあんまり気にしない。
 それよりも1978年、ポテチ界に重大な事件が起こる。カルビーが新しいフレーバーとして「コンソメパンチ」を発売したのだ。
 ぼくは自分の味覚が世間一般の常識とは乖離していることを自覚しているが、このときもそのことを痛感させられた。物は試しと買ってみたコンソメパンチを1枚口にした瞬間、思わず「まじぃ……」とつぶやいた。いや不味いは言い過ぎだと思うけど、まるで口に合わなかった。なのに、コンソメパンチは大ヒットして、世間に受け入れられた。みんな、あれを美味しいと思うのだろうか? わざわざ買うということは、あれがのり塩より美味しいと思っているのか? 現在でもコンソメパンチが売られ続けていることを考えれば、それは疑うべくもない。
 だが、ぼくにとって“ポテチの変”はそれだけでは終わらない。1992年になると「ピザポテト」なるフレーバーが発売され、これまた大ヒットするのである。まっっったく理解できない。
 言っておくが、ぼくはコンソメ味が嫌いなわけじゃない。神保町の共栄堂にスマトラカレーを食べに行くときは、カレーそのものよりコンソメスープの方を楽しみにしているくらいだ。ピザだって大好物で、ふた月に1回くらいの頻度でデリバリーのピザを頼んでいる。ただ、ポテトチップスにコンソメ味だのピザ味だのを求めていないだけなのだ。
 カールのカレー味が消滅したように、奴ら(コンソメパンチ&ピザポテト)の躍進のせいで塩味やのり塩が市場から消えたわけじゃないから、怒るほどのことではない。

 ポテチといえば、以前パンク雑誌を読んでいたらラフィンノーズのPONが「朝はいつもポテチとコーヒー」と言っていて、なんだかほっこりしたものだ。ぼく自身はポテチにはコーラという組み合わせを変えたいとは思わないが、朝を一杯のコーヒーから始めたい気持ちはわかる。ぼくがポテチを朝ごはんにするなら、まずはポテチとコーラを味わって、そのあとコーヒーを淹れて寛ぐことだろう。まあ、どうでもいい話ですね。

 ここで唐突に「仮面ライダースナック」が登場する。ぼくが小学生のときに大ブームを巻き起こし、バカみたいに売れたスナック菓子だ。初代の仮面ライダーが大好きだったぼくも、カード欲しさにせっせと買った。ところが、有名な話だがライダースナックは肝心のお菓子があんまり美味しくなかったんだな。桜の花のような形に成形されたスナックに薄ら甘いタレが塗ってあって、食べ飽きる。だからみんなカードだけ抜き取って、スナックはそこらに捨てた。

 スナック菓子+おまけカードという文化は昔から面々と続いていて、おそらくもっとも有名なものは「プロ野球チップス」だろう。こちらはポテチの名門カルビーの製品だけあって、塩味のポテチだから食べ飽きない。いくらでも食べられる。
 が、世の中にはこれに飽きる人もいるのである。カードコレクターたちだ。
 コレクターは目当てのカードを引き当てるため、プロ野球チップスを次から次に買う。一度に10袋とか買う。車でコンビニを回ってトランクいっぱい買う。なんなら問屋からカートン単位で買う。どうかしているが、それがカードコレクターというものだ。
 そして、いくら普通に美味しいポテチだとしても、それだけの量を一人で消費しきれるわけがない。だから、カードに興味ない友人に分けたり、職場に持っていって配ったりする。
 過去に聞いていちばん笑ったのは、友人のカードコレクターである映ちゃんの話だ。子供時分ならいざ知らず、いい大人になって食べ物を捨てるというのは良心が咎める。だからなんとか食べ切りたい。そこで映ちゃんは考えた。
「そもそもポテチは乾燥イモなんだから、水で戻してジャガイモとして消費すればいいのではないか?」
 大鍋に大量のポテチをザラザラと入れ、煮込むこと数十分。ポテチがその形状を失ったらザルにあけ、流水で洗って油脂を落とす。それを丸めてマッシュポテト状にし、味変のためにコンビーフなんかを混ぜ込んでフライパンで焼いて食ったというのだ。この方法ならひと晩で約30袋のポテチを消化できるのだが……味は「クッソ不味かった」という。いやー笑った笑った。
 大人として食べ物を粗末にしないというのはとても立派なことだが、そもそも大人はポテチを3,800袋も買ったりしないのである。

 湖池屋にもカルビーにもこだわらないように、ぼくはポテチに対してグルメ的なアプローチを試みることはしない。フリトレーとか菊水堂とかフラ印とか、美味いと評判のポテチはいろいろあるが、家で映画を見ようと思ったときに、さっとコンビニ行って確実に買えるのは、やはり湖池屋かカルビーの2社になる。この安定感は重要だ。
 ポテチは揚げたてがいちばん美味いというのは、ぼくだってわかってる。いまから20年以上前、妻とドライブをしていて「ポテトチップス製造販売」という看板の文字に惹かれて買った金子製菓のポテチは、びっくりするほど美味かった。ついふた月ほど前にも、谷中銀座を歩いていたら「立呑 写楽」が揚げたてのポテチを売っていて、買い食いしたらとても良かった。
 そういう店が近所にあればいいんだが、あいにくそうはいかないのでぼくはまた湖池屋かカルビーのレジに近い方に置いてある袋を手に取るのだ。

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