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スマホソフトウェア競争促進法 巨大IT企業に挑む 新しい競争ルールの導入


令和6年6月12日、スマートフォンにおいて利用される特定ソフトウェアに係る競争の促進に関する法律(スマホソフトウェア競争促進法)が成立しました。同法は、令和7年12月19日までに施行されることになります。

1 スマホソフトウェア競争促進法の目的(法1条)

スマホソフトウェア競争促進法は、経済成長のエンジンとなるべきデジタル分野での公正な競争環境を確保することにより、多様な主体によるイノベーションが活性化し、消費者がそれによって生まれる多様なサービスの恩恵を享受できるようにすることを主な目的として成立しています。

近年、EUではデジタル市場法データ法などのデータの取扱いに関する法律が成立し、デジタル市場での健全な競争を実現するためデジタルプラットフォーム事業者の一部をゲートキーパーとして規制対象にしています。また、英国においても、デジタル市場の環境整備のための法律が成立しました。このように①消費者保護の強化、②デジタル市場の競争促進、を目的として、巨大デジタルプラットフォーム事業者を規制する動きが活発化しており、日本においても巨大デジタルプラットフォーム事業者に対峙するため、スマホソフトウェア競争促進法もその流れを受け、検討されていました。

2 スマホソフトウェア競争促進法の対象

 スマホソフトウェア競争促進法の規制対象は「指定事業者」とされています(法3条)。

「指定事業者」とは、特定ソフトウェアの提供等を行う事業者のうち、当該特定ソフトウェアの提供等に係る事業の規模が他の事業者の事業活動を排除し、又は支配し得るものとして政令で定める規模以上のもので、公正取引委員会が指定したものとされています。

 「特定ソフトウェア」とは、基本動作ソフトウェア、アプリストア、ブラウザ及び検索エンジンを総称するとされていることから、Android(GooglePlay)、iOS(AppStore)などを提供し、デジタルプラットフォーム市場を寡占しているGoogleとAppleがまずは「指定事業者」として指定を受けるものと考えられています。


3 指定事業者の禁止事項

① データの不当な使用の禁止(法5条)

  • 基本動作ソフトウェアに関する禁止事項 

指定事業者が取得した特定のアプリの利用状況、動作状況に係るデータを当該特定のアプリを提供する事業者のサービスと競争関係にあるサービスのために指定事業者が使用し、又はその子会社に使用させること

  • アプリストアに関する禁止事項

指定事業者が取得した特定のアプリの売上げに係るデータを当該特定のアプリを提供する事業者のサービスと競争関係にあるサービスのために指定事業者が使用し、又はその子会社に使用させること

  • ブラウザに関する禁止事項

指定事業者が取得した特定のブラウザが記録した閲覧履歴に係るデータを当該特定のブラウザを提供する事業者のサービスと競争関係にあるサービスのために指定事業者が使用し、又はその子会社に使用させること

② 不公正な取扱いの禁止(法6条)

指定事業者は、指定する基本動作ソフトウェア又はアプリストアに関して、アプリを提供する事業者を不当な差別的取扱いをすることなど不公正な取扱いが禁止されています。

③ アプリストア間の競争制限(法7条)

スマホソフトウェア競争促進法が施行された際には、基本動作ソフトウェアを提供する指定事業者が、当該基本動作ソフトウェアにおけるアプリストアを自らが提供するアプリストアに限定することを禁止されます。

現在、iOSでは、AppStore以外のアプリストアの利用が制限されていますが、スマホソフトウェア競争促進法が施行された際には、外部事業者が提供するアプリストアの利用が認められることになります。
なお、消費者保護の観点から、基本動作ソフトウェアのユーザーがウェブサイトから直接アプリをダウンロードすることまでを許容する必要はないとされています。

④ アプリストアに関する禁止行為(法8条)

指定事業者が提供するアプリストアに関して、次の行為を禁止しています。

  1.  課金システムを指定事業者が提供する課金システムに限定し、又は他社の課金システムの利用を妨げること

  2. アプリにおいて、ウェブサイト又は別アプリで販売するアイテム等の価格の表示を禁止し、又はウェブサイトに誘導することを妨げること

  3. 指定事業者が提供するブラウザの利用を条件とすること又は別のブラウザの利用を妨げること

  4. アプリの利用者確認の方法について、指定事業者が提供する利用者確認の方法をアプリ作動中に表示させることを条件とすること

⑤ 検索エンジンに関する禁止行為(法9条)

消費者が指定事業者の指定に係る検索エンジンを用いて、あるサービスを検索した際に、当該指定事業者が提供するサービスを、正当な理由がないのに、当該サービスと競争関係にある他のサービスより優先的に取り扱うことを禁止しています。


4 排除措置命令 課徴金

指定事業者が上記①~⑤(法5~9条)に違反した場合、公正取引委員会は、当該指定事業者に対して、排除措置命令を行うことができます(法18条)。

また、上記③と④(⑴及び⑵に限る。)に違反した場合、売上額に対して算定率20%の課徴金の納付を命じることもできます(法19条)。課徴金の算定率については、指定事業者が違反を繰り返した場合などに30%に引き上げることが可能です。課徴金の算定率が高いことから、指定事業者には強力な規制となるといえます。

このようにスマホソフトウェア競争促進法では、禁止事項の実行性を確保するための措置が用意されています。

5 公正取引委員会に対する申出等

 スマホソフトウェア競争促進法では、指定事業者がスマホソフトウェア競争促進法に違反すると思料するときは、何人も公正取引委員会に対して、事実を報告し、適当な措置をとるべきことを求めることができるとされています(法15条1項)。

 そのため、指定事業者が上記3を含め禁止事項に違反する行為を行っているときには、アプリ事業者を含め何人も公正取引委員会に対して、当該違反事実を報告することが期待されています。そして、公正取引委員会においては、必要な調査をしなければならないと規定されています。この際、報告を行ったアプリ事業者について指定事業者が不利益な取扱いを行うことも禁止されています。

 EUにおいては、ゲートキーパーであるAppleなどに対して、欧州委員会がデジタル市場法に基づき調査を行っており、暫定的に違反が認定されたケースもあります。日本においても、公正取引委員会がスマホソフトウェア競争促進法に基づく調査を行っていくことが同法の実行性の確保の観点から期待されます。


6 施行時期

 スマホソフトウェア競争促進法は、一部を除き公布日(令和6年6月19日)から1年6カ月以内に施行されることになります。なお、施行日までにセキュリティ確保等のための必要な措置について、ガイドラインを策定する予定とされています。


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