出雲駅伝

いよいよ2023年の駅伝シーズンが始まった。
昨年は駒大が史上5校目の3冠達成がまだ記憶に新しいことだろう。しかし、既に昨年の駒大を越え前人未到の2年連続3冠を眼中に捉えているのは、今季の駒大だ。有力選手が多いなかで2年連続の3冠が夢ではない。その駒大を中心に今年の駅伝シーズンが進んでいくだろう。他の大学については、打倒駒大が大きなテーマになるだろう。特に昨年箱根駅伝で2位に終わりながら今年の夏大きく力をつけた中央大に注目が集まる。他にも國學院大や青山学院など、上位争いに絡みそうな大学はどこまで食い込めるか。目が離せない。

10月9日に初戦となる出雲駅伝を迎えた。勝たないと3冠達成ができないというプレッシャーが駒大にかかるなかで中央大と國學院大にも期待が寄せられていた。

5000mのタイムからすると、僅かでありながら分があった中央大には優勝の可能性が高いと私は思っていた。もし4年生の吉居大和選手が本来の力を発揮した走りができたらかなりの接戦になるのではないかと見ていた。それに、最近の記録会で5000m13分30秒代の記録が続出した青学大は優勝まだ行かないだろうけれども、上位争いはすると期待していた。

結果的には、駒大の圧勝だった。
一度も先頭を揺らず圧倒的な強さを見せつけた優勝だった。その勝ち方から3冠への期待がさらに高まることだろう。もっとも後続との差、特に優勝候補に上がっていた中央大などとの差が大きかったことは印象的だった。

結果だけを見ると駒沢の圧倒的な強さが勝因だけれど、そう単純なことだとは思えない。少なくとも個人的には、大会前に接戦を予想していただけに後続との大差に驚いた。特に優勝候補に上がっていた中央大の結果は意外だった。
1週間前に海外の大会に出場した影響で出走にならなかったエースの吉居選手の欠如を除いても、弟の吉居駿恭選手や中翔太選手など、エース級の選手の不発が目立った。ヨシイ選手が1週間前の記録会で自己ベスト13:22の好タイムを出したばかりだから調子がよかったはずだ。それでも、チーム全体で目立った走りがなかったということは、おそらく合わせてこなかった、ということだろう。3か月にわたる長い駅伝シーズンで、3大駅伝を全て狙って調子を作っていくことは至難の業だ。出雲と全日本で良い走りができても箱根まで持たない可能性がある。また、距離が違うために練習方法も異なる。スピードを重視する出雲駅伝に合わせることが、長い距離を走り切る力を必要とする箱根駅伝を影響する。スピードも持久力も、そして調整力が全て揃わないといけないのは、3冠の難しさだ。
それを考慮したうえで、「狙わない」大学が出てくる。表では優勝したいといいながら裏ではただ流すだけだ。もちろん大っぴらにはしない。
出雲駅伝は振るわなかったが、箱根駅伝に向かって中央大の強さが出てくることに期待して良さそうだ。
こういった作戦は聞こえが悪いけれど、それも含めて大学駅伝の面白さだ。

駒大に関して、非常に安定した走りという印象だ。特に鈴木芽吹が長い間ケガで悩まされたことを経ていよいよ本調子に戻ったとことは1人のファンとして非常に嬉しいことだ。今回もキャプテンらしい走りでうまくまとめることができた。しっかりとチーム全体を2年連続3冠という前例のない目標に向かわせるリーダシップが窺え、今年の駒沢は走り以外にも強い感じがする。
一つ気になったのは、佐藤圭太選手だ。独走ながら区間賞を獲得した素晴らしい走りだったけれど、本人曰くタイムが良くなかった。彼の23年は日本代表など、輝かしい実績を残すなかで記録の方はどうもうまくいかず、トラックシーズンは自己ベストを出すことができなかった。
出雲の走りも含めてその辺りが少し心配ではあるけれど、出雲の走りっぷりはとても力強かったことから後の試合で彼のベストが出るような気がする。そのときの走りを想像しただけでゾッとする。

もう一つ気になった選手は、順大スーパールーキーこと吉岡大翔選手だ。佐久長聖時代は驚異的な高校記録を出した強力な選手だが、順大入学以来それらしい走りができていない。記録からすると1年生ながら日本のトップ選手に肩を並べられるくらいの力を持っている。しかし、その意見がどうやら世間と食い違っているようだ。本人のインタビューでもよく出る言葉が「速い選手だけじゃなくて強い選手にならないといけない」だ。ペースメーカーがいる記録会での記録は確かに自ら引っ張っていく強さが不要だ。しかし、そうだと言っても速く走るための能力が一緒だ。それを速さと表現するのか、強さと表現するのか、言葉の問題だ。同じような条件の中で好記録を出し続けるノルウェー選手のヤコブ・インゲブリクトセンについて、強さがないと誰も言わないだろう。
大学に入ってからの低迷ぶりは大学駅伝界でよくあることだ。むしろ、高校時代が速い選手であればであるほど、大学では伸び悩む傾向にある。
これはなぜだろう。
高校で順調に成長してきたのに練習の量と質問が上がってさらなる成長が見込めるというところで、伸びが鈍る。
その原因は、指導法の相性の問題か、それともモチベーションの問題か。
一つのことではないだろうが、長距離育成を改めて考える必要がありそうだ。

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