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すみ子 前編

1 口の形、黄色の雨合羽


廃墟のビル、隣り合わせた部屋の窓枠のそれぞれに男と女が分かれていて、向かって左に男、右に女、隔てられたまま話をする。

「口の形が変わってるよ?」
「ジーッ、元の方が良かった?」
「いや、こっちの方がいいよ」

そう男が返すと、一筆描きの女の肖像が浮かぶ。
内田春菊風のタッチで頬杖ついて、口をイーッてしている。

「あのときは訳もわからずにいて、すまなかったね」

二人のとき、とても淡い微かな瞬き、静かな二人だけのとき
青、とても穏やかな辺りの雰囲気、
そこにボワンとした光の灯る、蛍のイメージ
そのひとときを切り裂くように、壁をつたう木の枝が銃弾ではじかれる、
それに合わせて芋虫がビシビシ散る、殺虫。
遠くで戦場の音がする
世界が終わっているような、人気のなさ
エメラルドグリーンの明るさのなか
それでも僕たちは生きている
もう元に戻ることはないかもしれない
何で生きているんだろうとか、そんなことを色々考えて
現状は良くない、殺伐としている。
本当に好きな娘ではないがいつもそばにいる
主張せずただそばにいる女と、それを、その有難みを解っていく男。
はげましてくれている。感謝せずにはいられない。

……
夜の校舎から黄色の雨ガッパを着た人が一人出てくる。
柵をまたいで去っていく。
次から次へと校舎から出てくる。
男は黄色が出てくる校舎の中ほどに忍び込む。
地下に行くと、後から一人下りてくる。
後ろめたさがあって何かをしている風を装いつつ見る。
女の子でそばかすがある。
幼さが目に残っている。
向こうの方もおどおどしていて声をかけてこない。
その後、雨ガッパが下りてきて三人ほどになる。

「君ら何部なの?」
「えっ?」

動揺している。

……
道路。両脇にはビル、商店、下町風の低い軒が建ち並ぶ。
舗装されていないようでもあり、整備されているようでもある。
自転車でスミと走っていると、道いっぱいに左右交互に糞土色した身の丈超の猪が寝そべっている。
止まっているが通り抜けようとすれば、動いてぶつかることは避けられない気配がする。
通ると、鼓動はしたが抜けられた。


2 エビフライ、シルエット


吹き抜けになっている高層マンションの上階、
その吹き抜けを囲んで何人かが輪になってしゃがんでいる。中央で、

「皆さんつらいでしょうが…」

と、事務的なアナウンス。傍らに目を向けると、
女性が上半身を裸にして局部を赤巾で覆っている。
顔を手で隠して俯いている見知りの女性もいる。
肌は白く張りがある胸の先端が上向きにツと立っている。
スミはどんと構え恥らいなく落ち着いている。
お腹が二級に分かれている。
幼馴染のガキ大将が吹き抜けに身をのり出し、
とび職よろしくコイノボリとかポーズをとっている。
いつ落ちてもおかしくない危うい均衡で成り立っている。
浮いているようにも見える。


大学の学食。机がところ狭しと並んでいる。
スミと歩いていると、スミの知り合いと会う。
男はなれなれしげにスミに、

「おうスミ、何かやってくれよ」
「うんいいよ」

人が集まってくる。
俺はスミだったら歌でも歌えばいいだろうと、
少々すねて先に見ずに帰る。
引き受けたことが気にくわず、先に帰ると言えば
スミもやめて帰ると思ったがスミは来なかった。
部屋。同期が上の階で台本にしがみついている。
スミが帰ってくる。
まぶたに紫のシャドーを入れて派手になっている。

「ただいま」

一仕事終えた感じだ。

……
スミの部屋。ムトツさんが訪れる。
迫力が前面に現れてはいないが、たたずまいがある。
風流な感じがする。髪はぼさぼさ。特有の八の字目。
まぎれもない。無言でコタツに入る。
どうしようということもなく、その存在を確かめる。いる。
ムトツさんが、食物を出してくれる。
あらびきポークビッツといった趣で、少々衣がついている
申し訳なさげに尾のようなヒレがついている。

「これ何ですか?」
「何だ知らんのか、エビフライだよ。」

はあ、エビフライは知ってるけど…
食す。

「へぇ、何か香ばしくておいしいですね。」
「だろう。」

満足した様子。

洗面所に顔をゆすぎに行く。スミが来る。青の雰囲気がする。
寝巻きのズボンの中に手をすべりこませ、
尻、尾てい骨(尻尾)の辺りをまさぐる。
気持ちはいいが、まずいだろう。乱れている。

……
道路をはさんでコンビニ
建物は低く、アイスクリームの器のかたちになっていて
(シルエット)

よいやみで 言い争いの声

建物の天井に上るか否かの縁のところで、くんずほぐれつしている人影があり、俺とスミは、吸い込まれるように道路を渡り、店へ向かう。
店の前にはちらほら10から20ほどの野次馬達か、円弧を描いて距離をとって見守っている。

「よーし、今来たやつも含めて集めろ、誰も勝手に逃がすなよ!勝手な動きも許すなよ!それなら!」
「ああ、もちろんだとも、一人たりともだ、」

近づけばよくないであろうことを胸に抱きつつ、ひかれるように店に来て、
予想通りというか、スミは、言う通りに並ぼうとして円弧の中の方へ進んでいく。
言い争っている男はナイフを持っている。
あれを奪うと仮定して、どうする?いきなり不用意にいってはいけない。
まず、気を違うところにもっていって、例えばこちらは何の気なしに近づいて、
ナイフには興味など全くないようにして、全く興味などないように近づいて、かかる。
相手が忘れた頃に


3 学校、卵、拳


学校、物音一つしない… 薄暗く、人の気配もない、ここを何事もなく通過できれば難を逃れるのだが。足音が硬質に響く。
前方、看護婦がまるで生気なく階段を下りてきて、そのまま通過する。そちらの方に静かに進もうとする。
と、人と出くわす。そのこと自体、ここに自分らがいることがひどく不当であるようで。
スミはひどく狼狽し(どうしようどうしよう)
大丈夫だ、堂々として歩くと視界が明るくなり、学生もちらほら現れて、普通の世界にいる感じが。抜けたようだ。


「速やかになりたくて、速やかさを身につけたくて… 
カンキさん、普段ははっきりしてないけど、しゃべるとき、はきはきになるから」

ワークショップ、雨だが、開かれて。森と一体、外の内。

「うおっ、ぶれた」
「ぶれたろー」
「あんなの取れないっすよ」

取れないよ、久しぶりだしと、自分を庇護。
みんな、キャッチボールに興じている。
南観の人々が摺り足に興じている。
アイススケートがえらく緩慢であるようで、さっそく参加する。
木にはさまれて、どっちにもいけず、笑って(せおルな?)
 

駅の改札、中に入っている。荷物を外に置きっ放しで、出られない、
途方にくれていると、スミが「うえー」泣いて現れる。

「あ、何で入ってんだよ」
「だってー」

荷物どうするか?駅員に取ってもらうのはまずい。怪しまれる。何か罪の意識を持って。


色とりどりのシャーベット卵。濃緑エメラルドグリーン、中心に向かう程に淡白になっていく。他、赤、青、紫、どれも光沢があり、お椀にぷかぷか浮かんでる。それを箸でぷしぷし突き刺す。
一突きでスッ、中まで箸が通る。
家、若いころの鹿賀丈史のような男が貴族服を纏い、ドウランも厚く塗って、わざとなのか、沈痛な演技をする。サーベルを振るって、

「ハッハ、これでわが家も安泰だー。」

パステルカラー、マーブルマーブルマーブルマーブルマーブルロール、
アイスで三種類、お近くの旅館でお求めになれます。

「意識には二種類あってな… 
南の観だな(不意に)
もう一回… 
南の観だな」

ほーっと、俺は思ったら、スミは納得しない。行った浮海家は、さも満足げだ。

 
電車で隣に女性が座ってい、涙くんこんにちは。
見ると向こう側にからかい、平手で頭を叩いている。見ているとこちらに向かってきて、

「何だよ」
一発くらう。
「何だよ」
バシ
「何だよ」
バシ
「え、何だよ」
バシ、お返しが、止まらなくなって調子づく。急に向こうが弱気になって、
「えー何ですかー?」
となるのでとどめをさした。
さて、目的の乗り換え駅に着くも、さっきの男が、連れもいる、
そそくさときびすを返し、階段を、物音立てずに上がり。
スミに、この拳を見せてやらねばと、自慢げだけど、切符代は損をする。


4 デスゲーム、得しかない


デスゲームが始まった。デパートの一棟。
雑多に服、小物等置いてあるが整理されていて見通しがいい。
危険。店員は平然、無関心を装っている。
とにかく始まった。いきなり敵遭遇。
松田さん。髪が薄くなっている。とっさに左手に飛び込む。
相手の初弾は空を切った。

「当たっただろ!」

松田さんは得意げに言ったが、いやいや、当たってないよ。
まず、一息入れることが眼目。
落ち着くことと心得て、距離をとる。相手は俺を見失ったようだ。
そっとかがみ、近寄り、
持っていた銃で丸見えの額に向けて発射した。連射した。
しかし、倒れない。

「水だよ」

水鉄砲だった。
しかし相手は反撃せず引き下がった。何かこの水に作用が?
距離を置いて再度威嚇射したら、
シャープペンシルの芯のようなものが発射され、
これは効果があった。勝利。松田さんは死に向かいながら、

「ここに○○がいますよ……いますよ」

と、俺の名前を吐いた。
他の者に居場所を知られたと感じ(確信)、その場を離れる。
すると、一角でスミをみつけた。とっさに声をかけ呼び止める。

「スミ!」

発した後、不安がよぎる。一瞬だが警戒してしまった。自戒。
スミは安心して寄って来て、俺が

「一緒にいよう」
と言うと、

「そうだよね」
と、喜び、応じた。

このゲームの形式では、一人しか生き残れない。
殺しあうことになるのか?今は触れずにおく。
スミと合流した。近くに避難場所、一般人の避難スペースがあり、
お年寄りや家族がいたので、これは都合よしと、まぎれることにする。
だが、敵を発見。
向こうも気づき、スミをおいて(気づかれていない)、
戦闘開始。一人は出会い頭倒せた。機械じみた感じ。
カクバッテいて、床に仰向けに倒れ、
ぜんまい仕掛けよろしくギコギコ足、手を動かし、名残惜しそうに、

「冗談じゃないよ、冗談じゃないよ」

と、発していた。
もう一人の方はひたすらジトッと追ってくる。
水色のジャージを着て、太っている。
攻撃せず、無言で追ってくるがしばらくすると、
予言めいた不吉な雰囲気を残し、消えた。
ふと、外をみると、向こう側の一棟にスミの姿。
踊り場から非常階段を使って、きょろきょろしながら上がって行き、
今、自分がいるところより二階上に入っていった。


……教室。スミと付き合っている。
席に座っているとパシャ、と、写真を撮られる。
撮ったのは女生徒で、へへぇ、と、したり顔で、笑い顔を残して去っていく。
オオモトがいる。そいつの机にいき、カメラを奪い取る。
オオモトは一見従順、でも無抵抗の中に不気味なものがある。
こちらは妙な優しさを発揮して、

「まだ撮り終わってないだろうから返しとくわ」

と言って、すぐにカメラを返す。
その後、撮った女生徒のところへ行き、
バッと顔を近づけニヤリと笑い、

「楽しいか?」
威圧する。


スミの部屋。スミは料理を作っている。
朝、布団から起きるとスミが来て電話が鳴る。スミが出て、
その話し振り、雰囲気が少し暗め、よからぬことか?と、不安がよぎる。
電話が切れて、

「ハク。ハクもなぁ、友達に戻れればいいのになぁ。
あいつ、私のこと大好きだから。」

元彼。わかる。わかるが、それは無理。
どうしても会えば情がうつる。いやさ、自分が嫌なのか?

……
スミがバイトしてる店で買う。
あーやべー、買うと得しかない。
買って品は置いたまま去ろうとすると、スミが走ってくる。
藁の鞄にはマネキンの頭が入っていて、
水色のニット帽がかぶさっている。
風呂に一緒に入りましょう。
何やらパステルドレッドなぬいぐるみ、ぐりぐら。
酔っ払いに腹いせに、けたぐりかけて、

「先に行ってな」

鍵を渡されて、後から来るの?
メッキの金鍵で(得意)家に入る。
一安心してるとハク君が形相豊かに外に立って、
睨みつけている。

「開けろよ!」

久しぶりだ。開けてすぐ危険を察して詰め寄る。
もつれ合う二人。


5 ハク、人間の尊調、色上


駅。柱の陰に人あり。
タネダ君かと思い、ふざけつつ近寄っていくとハク君だった。 
目が違う。出てきて危険に感じ、すぐ拘束する。

「ハク君何でいんの?」
「何でじゃないよ……会わせろ、気がすまないんだよ、裏切ったんだ」

つかまえないと(何をするかわからない)
スミが留置場?(逆じゃない?)
各界から励ましの手紙が寄せられる。
そんなに悪くない箔がつく。
哭き 近寄らない方が…… 

「それで気が済むのなら」(スミ)

……
図書館、

「彼女一人に会いたいと言ってるんですが」
「駄目だよ絶対。近くにいるから」

ハク、登場。うつむいてよろよろと、白長髪、丸縁眼鏡、茶のトルコ帽と白のロングスーツ、コート、マフラー着。

「私はボコボコになるまでやったけど、そこまでしないよねぇ、まぁその程度のもんだろうね」

激怒、
「おまえだってそう言われたら嫌だろ?」
「うん」

外に出る。

夜、マンションの裏側の電圧計に水鉄砲で水かけてショートさせようとしているガキがいる。こちらに向けてくる。変になる。帰りにAVビデオをとって。

「どうなってる?」
「あと少しで、もう佳境だよ。互いに加減しているけどちょっと踏み込めばいっちゃうよ」
「自分のためって言ったよね」
「うん、言ったよ」
「この女はひどい女ですよ。私もおなかこわして薬飲んで……自分のため……いいんじゃないかな?ためにならんかも知れんけど、そういう娘だって知ってるし」
「せめるよな。ひどくひどくいってでも好き……やり方だよな。着物、いいじゃん、着物。今の姿なら、からだなら似合うよ」
「そうかな」

ハクは魅入られたように素直になって、

「着流しって、これ脱いでいいんだよね?」

……あしがみえたのが救い……

……
「俺、思ってた程、カンちゃんに興味ないみたいだから」

夢を見た。スミとタネダくんは……ワルツ、ア、デソワ、ドウ、ワウ……を語る夢を。

「それ、俺も同時に見たんだ」
「だけど俺のは促されてね」
「何?」
不敵な笑み……

タネダくんはランニングに出る。二人もどこかへ行った。
俺にはメモパッドがあり、
ハクくんの昔の俺への手紙……

【……相談したいことがあるんだけど、人間の尊調って何だと思う?】

スミのことは書いていない…… 
俺を一人にするな、街に出る。
ショーウィンドウには黒人が入ってい、
マネキン代わりのモノホンモデルになってい、
エスカレーターを上がるとき、女子高生のスカート、タイトなミニの白がのぞけそうで執心する。 
女子は何か見透かした感じで、友達と示し合わせて、

「せーの!マヨクッキングー」

茶化したいのか?


好きなのはタネダくんか?
写真のところどころタネダくん
シュタイルタネダくん
胴上げタネダくん 
疑いなく俺の尊厳を脅かすものがある
意固地が命取りだ

……
イロウエ登場。笑顔とびきりの顔。
ぴょんと目の前に飛び出してくる。

「どうしたの?」
「うん?仕事?終わったとこ」
「一緒に帰ろ」

俺と?へへへ。手つないで、うれしそう。照れてみせたり。
一緒に帰ろうとすると、柱にスミが憮然として、むくれて怒ったような顔でいる。
(イロウエは)悪びれず自然に、

「イロウエはカンちゃんが仕事終わったから一緒に帰るところ」

俺は俺でスミの手を握り、三人で手をつなぐ。

「懐かしいな、やんなかった?こうやって」
「やったやった」

体育会の男、イロウエの手口を暴露する。

「あなたのその泣き方が嫌い?」

どこかを見つけて、難癖つけるらしい。


家の前?行こうとする(誰もいないので)。
ヤッコさんが急いでる風で現れて、
「いた!」と言ってつかまれる。

「いた!よかった、もう二度と会えないと思った。本当に感謝します」

積極的、真摯な態度に驚くばかり。

母、目の前に現れて、見ている。じっと。
ぶたれると思い、頬をさし出すが、

「全くどこ行ってたの?」

笑顔で顔に触ってきて、

「話したかったのよ」

イロウエ現れて、

「一緒にやっぱりいたいよう」
「あんた、お母さんのこと、殺そうと思った?」
「お母さん殺すくらいなら俺が死ぬでしょ。優秀な細胞残して」
「何言ってんの」


「俺の思い過ごしみたいだったっすねっ。俺、高山さんと信人ら死んで姿ワル思ってたんすけどね」

書置きがある。つらつらと書いてある。


6 へへへへへへへへ、大ソ


追われている。
押入れがむき出しのひし形の散らかった部屋から外路(廊下)を見ると、追手、黒頭巾をかぶったのがふらふら近付いてきている。
スミは押入れの上にあがりちょこんと座り、薄い襖の裏に隠れる。
これでは逃げ道がないが窓からおりれる高さでもない… 
とりあえずスミのうしろにまわって同じくちょこんと座る。
ふらりと追手が入ってくる。
いきなり殺されることもありうる雰囲気。
どうしようかと、様子をみているとつかまえようとしてくる。
生け捕りにしたいらしいが動きが鈍い。

「逃げろ!いいからおまえだけでも逃げろ!」
「でも」
「頼むから行け!はやく!」

追手がぞくぞく来る路を逆走して、生け捕ろうとするのをいいことに力でつっぱねて道をつくり、スミは遠くいってしまったかなと、自分も、

「スミを逃がして一人だけ、自分は犠牲になるとみせかけて自分も逃げるって寸法ですか」

もちろんそうならいい!イタリアのはじけた情熱、俺疾駆する。はやくはやく…
追手はまいたが道中東海道辺りの露店街にくると、足のつかない水中で背伸びしてつま先立ちで歩いているように一向に進まなくなる。
と、追手がビュンときて、

「さぁあんた待ちなさいよ」
「さぁあんたいい気なもんね、つかまえるわよ」
「いいんだよもう、つれてけよ」
「馬鹿ね、これ手紙よ」

……へへへ、拝啓、どうかな?
とりあえず元気かな?
あたしは字が書けるようになりました。
古井大学!仮命名! 
なにしろ忙しいね、仲良しにもなってるよ
一緒にずっといるとね
いいね、いいね、はは、何だか楽しいね 
よかった生まれて
パンーン!へへへ……
やってこない人はあいたい手紙
まだ秘かに
 
「馬鹿だ、俺には確かに執着があった。笑顔、仲良くなれればいいなと……」
「馬鹿ね、あんた馬鹿ね、一緒にいたかったのよ」
「うるさい!わかってるよ!ちくしょう」
「うん、そうよね二人……」

歓喜の抱擁、勝手に良い人たち気取りのエピローグを流す有様、意味がわかりません。
(窓辺に勢ぞろいくもりガラス辺)

「私たち、よくやったわよね?うん、そうよ、よくやったわよ!」

とか、盛り上がって自分らで終わらせんなー!
 

「あたし一人ぼっち、何も感じないの」
「馬鹿、いいよ、じゃあ俺やる!」
「ほんと!じゃいくよ、せーの」

空中ブランコ、ぶんぶん振りまわす。

「あはははは」
「うわ、うわ、よ、いやぁ、いや、大丈夫」
「楽しいね」

真夜中のツリーパーク、さびしいオルゴール
テクテクコンピューター

 
手紙の欄外に添えられたにこやか満面のスマイルマーク
へへへへへへへへ

……
(大 ソ)(久 ファ)(速 ラ テンポ)

テーテーテー テッテッ テテテテテテテテ
テーテーテー テッテッ テテテテテテテテ
テーテーテー テッテッ テテテテテテテテ
テーテーテー テッテッ テテテテテテテテテテ
ムードカヨウ

舞台は薄暗く、中央前方の一畳スポット。
平台にスポットライトが薄く(当たり)、後には机。
白いランニングシャツ、白い手袋、白い半ズボン、白塗り白髪の面々。
音楽ハレモン、机上でキンが抱きかかえられて宙に高い高い式に何度も放り投げられる。
手の鍵のなかから放られ、もしくは放り、無垢の赤子に泣いた目に。取って丸まって。
次「赤子」は平台に置かれ、その後ろでキンがあやすように、音楽に合わせて手を交互に左右に力動する仕種。左右引力。
後、白塗り一団、応援団のように扇の陣形になって、手を後ろに組んで足を広げて仁王立ち。

「場」
昔。袋小路。京都、トタン屋根長屋。

「人物」
赤長椅子男(オールバック長髪、藍色の着物。薄笑い)
ガンコおやじ岩男。四角く、比率縦横一緒。
ワキ2名。従業員
カタワラスミ
(主)男

自転車でダーッと坂を駆け下りると、低いトタンの家が割と間隔を置いて建っている。
何か物足りない。客間に出る。なつかしい感じがする。空気が甘い。
どことなく進んでいくと小路に入り、暗がり、湿った空気になり、京都の風情。
道はほのかに濡れていて、土のところは少々ぬかるんでいる。
と、前方に、幾重にも分かれる道の分岐点に、男が赤椅子に座っている。

「ねぇ、君、先に進んでくれないかな。この先に行くには少々規制があるんだ。お金を取られる。だから先に行ってくれないか?」
「馬鹿言ってんな、自分で行けよ!」
「そうか?残念だな」「前方に進みたいんだが、こっちにするか」

何故か味わい深い男、ふらふらついていくと小ぶりの門がある。
通ろうとして、過ぎようとしたとき、門が後ろから閉まり、背中をうたれる。

「ああ、すまんね、気をつけて」
「何を?」

赤椅子に座ってくつろぐ。
(フェルトがかけられて、茶屋の前に一服するのにあるような上品な質)

「ほら、こっちにあんみつ2つ、ただで出してやんな。これでいいだろ、不満か?」
「ふざけろ、いるか」
「ほう。おい、閉めろ」
「やんのか」

従業員2名がかかってくるがピンポイントで一瞬のもとに倒す。
と、岩男が近づいてくる。

「よし、頑丈そうだけど鼻柱に一撃だ」

がっしとつかまれるや、鼻に一撃をくらわせる。
が、きかない。ボコボコにするが、きかない。

「ほう、そうするのか、俺だったら肩、鎖骨を折るな」

と、鎖骨をつかみ、握りつぶす。みしみしとつぶれる音がする。

「どうしよう」

スミは笑っている。赤椅子も茶に興じている。


7 青い森の方へ、チャトラン


「帰ってこーい帰ってこーい。
そっちじゃないそっち行っちゃ駄目だぞー。
おーい、スミ帰ってこい。そっち行っちゃ駄目だ」

呼びかけて止めようとすると、身体がスローモーションかけられたように動作がままならなくなる。
スミが行ってしまう。青い森の方へ。
枯れ木の枝の垂れ下がる、覆われた下を潜って廃墟のビルの向こうへ。暗い葉の低みから。

みんなお祝い。
少ないけれどわかってくれるもの達が集う。
まわりにいる
はっきりと顔が見えない。
みんなぼやけている
ガイコツは手を上げて
やんややんやとステップを踏んで 
白と赤のはだけた着物の女中方
ひとやもの 提灯さげ
赤い短冊さげちゃんちゃんちゃん 
輪になって小宴会てれつくてれつく 
みどりましょあおいましょおどりましょ

そっちに行き過ぎちゃ帰ってこれないよ。
俺が見ていて気をつけてやらなくちゃ。

焚き火は白い光を発してひとやものをこうこうと照らし
映し出しているシルエットが夜の青にひろがるいつまでも

スミが影になってひょこひょこ呼ばれて出てきた紙芝居の様に森の中へ入っていく。
非常口。俺は弛緩されて。
マクベス。はっこうのどぬいてうたう。
 


……
チャトランが真っ黒に日焼けして、
くまどりしたような顔をして、勝負だ!
森の中に降ってきた。
交錯して粉散しててもあがって着地をクリームシチューに入れて
あっという間に出来あがり
じゃがいもなんて入ってたっけ?
その肉は ほんとに?こんなにあっさりと
ニセも眼鏡かけたりしたいの
団地内でちょっかい出して
ペンチで指引き抜いてベーコンにして食う。
やーいやーい、全部どしどし食っちまうぞ。
つかまえてみろよー
… 調子にのり過ぎて人気ないから帰るか。
また遊んでくれる?
ああいいとも 遊んで感謝でいっぱいで


8 結婚式の夢、ヌラヤー、人情皿墓場


結婚式の夢を見る。

「いや、いつの間にか決まっててね。とんとん拍子にね。俺は何もやってないよ。周りがね……」

気がすすまない。もちろん俺の親には知らせていない。成立するのか……
長いエスカレーターを下っていく。
間違いでヤッコさんが来ている。

「ああ、ヤッコさん」
「あ、カンキくん、おめでとう」
「ああ、どうも」

ドリッチも、
「アニキ、結婚なんてしないんじゃなかったっすか?」
「いや、俺もそのつもりだったんだけど、いつの間にか、ね」

「ちゃんとやってね」
スミは念を押してくる。

地下街のような、会館のような、
着々とコウソウカしている様子。
俺は、これで式を過ごすのかな。
ああ、スミ、キレイになるんだ……おしろい塗って、
どんなかな、そりゃ退屈しないですみそうだ。
でも、何か、釈然としない。
終わってしまうような、からだになじまない。自分のこととは思えない。
けれど着々と進んでおり

……
「もういいからしちゃおうか?」
「うん」

スミと布団の中で抱き合う。団子虫みたいに丸まって。
スミ、やっぱり実際テキなんだから……と思いつつ、スミがその気でやろうとするのに、俺は体調のこととか気にしてか、気取られないようにスミのからだを避ける。
キスも朝起きたばかりで唇の端の臭いのを、わざと左右に顔を振って擦りつけてきて、ベロベロ舐めてくるけど応えない。
スミは絹のパジャマを着ていて、紫のアサガオのしなんだような柄。

「何だ、しないのか」

とみるや、やっぱりといった落胆の仕方、スミはわかったように諦めて消える。
すると、スミが寝ていた向こう側、ちょうど溝の淵になっていて、コンクリのダムの堤防の溝の下の方を見ると、
サバンナ。木陰にゴムの卵が三、四つ見える。
あれ取ればやったもん勝ちだ。協力してあげよう。集めるの。
あれは俺がガバッて振って散らばっちゃったやつ。スミの欲しかったもの。
だから俺が集めれば報酬もね、期待できるんよ。そうだよね、スミ?
辺りには、スミのあきれたような感情の余韻が残っているけど姿なく。
下に下りて、見当つけたところに行くがない。もっと先だったかな?
しゃがみつつ進んでいくがない。有り得ない。
どうしよう、と思ってパイナップルのようなトゲトゲした熱帯系のトーテムポールのような植物に寄り掛かると擬態で、二頭、ギンと目を剥いて動く。ひし形の赤黒い縁取り。
これは関わるとまずいなと、上に急ぎ駆け上がろうとすると一頭が、じわり、じわりと狙いをつけて迫ってくる。あせり、上がろうとするが、からだが這い上がらない。不安定な砂地。傾斜の下がったところ。

ズム。
頭部が密着するくらいまで迫られ
ヌラヤーを突き刺される。
ここでのひとつの接着ミスで
取り返しのつかないことに
接着剤プラモの はなにならしてやろうか?
くっついたらおしまいだ

……
お母さんごめんね、妊娠しちゃったスミ。

「それじゃ、お肉、仏壇にもあげなくちゃだめじゃない。あんたの分と、切ってきなさいよ」

生やけロースト肉塊を、長刀でこそぎ落として生切り。よく切れる銀のナイフ。銀の皿お盆にオードブル仕立てに盛られて。切り口は赤々としている。
そんなんだろうと思った。
仕掛けちゃった。やっちゃった。そういうてらいはあった。
スミも俺の意図は汲み取っていたようで。
あわよくば、挿入。緩やかに、上からスミが覆い被さって、いく。
二人の薄水色の雰囲気がふれて、ゆれ、繊細な波のまにまに気がふれて。
ここは人情皿墓場。桃の花弁がちるちるみちる。
ピリピリビリリはっついてはがしてインケース。
人のいのちのクンクリをくんでくんでみそ。
黒い甘いみその塊異様に丸々して浮いて
はらっぺらしが待っているから抱えて
甘酸っぱいみそいただきましょう
くんでくんでくんくんかいでくみしだき
おはぐろべったり


9 貝柱、外巻、門


ほたての巨大貝柱の横に肉が一体化して、
あとになって一つ一つはがしたらよくないようにくっついている。
白いあとが点々とある。
スミとくっついていて。
俺は逃げる。はなられる。

「卑怯。何でよぉ」

それがでるんです。あ、でた。カゴさんだ(暗黒舞踏総帥)。

「待てーっ、こら」
「お願いします」

かまわずダッシュで逃げ、はなれる。
繁華街、パチンコ街、裏手のビルのはざま。かげみ。
から、チドリヶ淵、城ガキ、お堀。
またスミ。

「あえた。カンキ。また」

指で肩をぐいっと押して逃げようとする。

「往生際が悪いぞ」
「何、嫌なの?」

つとつとはなれる。

……
ありゃちょっととんでもない奴だなぁ、スミ。遊ばれちゃうぞ。インチキ外人マークみたいじゃないか。ジャガーのサングラスなんてつけて、丸坊主カットカッコイイ誘惑するまで別人じゃないか。アメリカ行ってな、あれだ、ハッハッてくだらないのにも笑うくせに人のことになると冷たいんだ。目ばかり大きくてギラギラして頭には幾何学線入っちゃってどうかしちゃうね。レッドカラー。そんなYシャツ。皮。

ダイヤの紫色のゴム製のボインボイン弾むスーパーボール。
形がそうだからラグビーボールみたいに不規則に弾むと思いきや高く垂直にキレイに弾んで。
体育館の真ん中の螺旋塔の中腹の踊り場。
ふちは白い鉄柵が張り巡らされてポートピア。
ペンキ塗りたてみたいにべったりの白。
ボイーンボイーン落ちては弾み、頂上の方まで上がっちゃって
見ると、あっスミ。
勢い足を踏み出すと、スーパーボールを止めさせられる。
足の下に上手い具合におさまっちゃう。
俺のもの?止めて、持って、梯子を上っていくとスミ。に、渡す。

「はいこれ」
「ありがとう」

少々離れたところには奴が。ソトマキ。
アウトマキマキがパソコンに向かって、

「ハイ!的!イェア!44!by!」

と、こっちにニカット親指立ててグッドスマイル丸出し。まるで別人のいでたちでサイバー化してツンツンしている。


「遊ぼースミ」
「まだ、つらいんだよ。
そんなにすぐには帰らないよ」

ひきずってる。

「カンキ、それなら俺はどうするんだよ、俺なんか、もっとだろ。もうちょうが」

今だってタネダくん(友達だ)ちに行ってて、ここには歩いて帰れるかなって。
確か体育館の倉庫……あ、学校だ。着いちゃったっていそいそと3時40分か、偶然着いちゃったな。学校の裏門かな?こっちは?
タネダくん、森の思想(老荘)パソコン画面に出ていて。
たなびかりして暗がりの中、光がコウーとシャワーして。
顔に浴びて。よくて。
眼鏡が光っちゃって平面になってしろるんです。白光するんです
……スミ、未練ってーか、ひきずってんな。
俺は毅然に接触セッション拙所ひとところって感じやのに……ひょっとしたらおもどりさんもどるんかな。
……生活していたんだもの。なぁ。そうやわにはいかないよ。簡単には嘆息できません。
やっぱ、あるよなぁ…ある質量がズシンと。
もの申して腹でくすぶってチクチクする。
ぐわんぐわんいう。めくるめくめまぐるしくはんもんする。
……この変わりよう。意外っていうか、遊ばれるぞ。もて、遊ばれるぞ。使いこまされるぞ。
本当に人間万事因果応報支離滅裂うまくいかない。はこばれちゃってはこはこ泣くばかり。
寝入れません。ハコバレ娘。そうなるとは、そう思わんかったけどなぁ。
思いがけない展開。神様やるね。なかなか。
負けねぇよ。負けても。負けてるるけど。
ひしゃげても暮らすよ俺は。
お父さんに何か言われんぞ。
パンツパンツいっぱいパンツあるなぁ…… 
これ、思い切って捨て。お父さんのくさい。お父さんのくせに。
ここに入れとけば見るかな?とって……
お父さん、お母さんと行きなよ。こんなところにいないで。
ゴムヒモで吊るされたパンツァーたちのなかに頭ごなしに白シャツでいないで。
こなさないでいいから。お父さん役。置いといて。脱いどいていいよ。
洗って、着る、着てみる。試着、してみるかもしれんから。バイバイ。気にせずに。

……
俺に認めろっていうのか?
誓いのキスを?そんなの無理だね。
そんなに大人じゃないよ。
門。ただ門扉が銅鑼状に立っている。
入るべき建物はない。廃墟瓦礫。
茫漠として草風すぎる。荒涼空地中世の面影。
陽は雲に覆われて、こんな日よりには
門の前に黒騎士が現れて、
騎馬に乗ってスミを連れていく。
そんなもん、みせるなよ。俺に。
俺、何も出来ず。


10 姿見、パック


アパートで俺は待っているとスミが帰ってくる。

「ただいまー。あれ、みかんおいしそー。
すごいね、もらいもの?」
「違うよ、俺が買ってきたんだよ」

スミ、近づいてきて抱き合おうとする。
うわぁ
カンキ、外す。
ううううう 俺自身が
カンキ、スミを反転させて、後ろ向きにさせて、
駄目だ… そのまま後ろ向きで手を取るくらい
……
スミ、姿見をとり、引き寄せて二人をうつし

「ほら、こうすれば、あったかいでしょ?」

二人の姿、倒れこみ、照れて、ほおを赤らめる。
布団、敷きっ放しの上に寝込み、未練して、
お胸が肉まんみたいだ… 何度ももみほぐして
ぶちゅう キス
スミ、ああ、ごめんね、怒られ

「おはよう」
「あれ、ここ…」

悪い、全然覚えてない。
記憶がぶっ飛んじまってて
タネダくんが冷蔵庫の前で寝ている。
スミの隣に俺が寝て

……
スミの部屋。去るんだけど、
まどろんだ白々けた空気。
自分の荷物を全部引き上げないといけないんだけど、
冷蔵庫に、たまごパックだけ置いておこう。
買ったばかりでまだ開けてもいないから。
そう思って冷蔵庫を開けると、
たまご 最初から置いてあったやつが 
へこんで 緑黒っぽくなって 
触るとふにゃけている。全部捨てだな。
でも空いたところに俺が新しいたまごを置いたって、
同じように駄目になるんだろうな。
スミとは別れたんだから。
窓からみる景色 ベランダ 
何か別荘にいるみたいだな。
カラスでもやってくるか。

……
スミの力が弱まっている あーあ
こんなに小さくなってしまって 
紙が 力が 針金で応接間のじゅうたんから
ホキッと、きのこよろしく出ている 
パックの中に紙片が入っていて、
スミのは指先くらいしかない
隣の 俺のを見ると手の平くらいはあるから、
いや、細さは同じくらいかな?あれ?くっつくのな、やだな…
人形?あんなもの 別にいらないよ、
ちょっとした気まぐれで買っただけだから
大きな音たてちゃ駄目だよ、眠っているから くーっ
赤ちゃんがいる家みたい
トタンで へらへらして 黄土色の壁(木)
盛り上がった布団の中は 産婆さんかな
損な役回りだな
うおうらー バカーン 
… 駄目だって 音たてたら そーっと
俺が何したっていうんだ?


11 ダンボール、まぶいレース


どちらにしても、スミと別れる。
悲しくなんかないやい。

「カンキー」 

中学の同級生(いっつもカンキにくっついてんな)が二人、後ろに
ニマッと笑うけど涙がこぼれて、
二人一斉に抱かれて、崩れるように、背から倒れ込む。
同時に二人からチュウ、頬に、

「カンキがこんなに悲しんでいるとは思わなかった」
「うん、ああ、自分でも」

デパートの外階段、鉄製の、

「じゃあ そろそろ…」

うなぎの白焼きのイメージが頭をよぎり、
スミは行く。時間、約束だ、夕暮れ、
俺ではない人のところに。

CD。クラウド何とか。
くすんだ金色の帯、退廃した街並み、少年が吊りバンド、昔の少年探偵のようなハンチング帽と、ロング靴下ダイヤ柄の、で、少女とキスしているような、
衝動買い チェキ?
スミは不意に手にとって、じーっと見る。何も言わず。
… 怒られるかな?気に入って?よければあげるよ。


…ひとときぃ やったな
別に悲しくなんかないさ
頬骨の下のところに少し、蚊に刺されたように腫れて、右頬
スミの笑顔は一つもない
(思い出の)中の場所に招待しても、憮然としている様子
不当に、いさせられているような
で、じゃあ、時間だから… みたいな
夕暮れ、たそがれ、日は傾き
おぼろに 黄身が半熟に、平べったく
左右から箸で刺して引き伸ばしたみたいになって、日が暮れる 

……
何だこれってダンボール。いよいよ送られてきた。
ああこれ、俺の本だ。でもしかし何だこれ、ぞんざいにデカイのに入れてあって手紙一つ入ってやしない。まがりなりにも同棲して、生活を共にしてたのに、別れたからってあんまりだろ。
納得できなくて、思わずスミの家の前まで来てしまう。
スミの家、あれ、暗いな。いないのかな?でもよく見ると、カーテンの奥に明かり。ああ、いるんか。けど、俺どないしよ?

「コンコン、俺だけど」
「何?」
「ああ、寝ようと思って」

って、もうあかんやんなぁ、何で来たんやろ。
ベルちゃんもなぁ、うわ、顔、もろ女の子やん。キスしてもうたけど、からだがなぁ犬のまんまやし。ケンケン飛び跳ねてけつかる。俺が辛いからって、脳内で慰めてくれんでもいいんやで。でも、ありがとうな。ほんまにベルちゃんはナイスペット、ベストマイペットやで。

「デートしてくれば、いいんじゃない?」

余裕だな、彼氏さんよ。

「何で?どうやってアタリしてるの?」
「いや、適当ですけど」

海岸アパート。なぁベルちゃんや。やっぱりアパートは海沿いに限るな、なみのまにまになみのまにまにたゆたいたいもんなぁ。よくわからんエコーの後は良いも悪いもドリーミングやでしかしぃ……
 
……タネダ君がスミと寝そべって洞穴の部屋の中で笑い合っている。仲睦まじくも。
俺は諦めたように去ろうとして教科書を落としてしまい、段々の鍾乳洞の柵の間に入って、回収して、それで見たんだ。覗いたんだ。
したらタネダ君がくり抜きの間に寝そべって、
あぁあれは親友のタネダ君じゃないか。
白い布さがり
顔をもたげて臆したままで奥下まで覗くと、スミが一緒に寝て。
どうにも救われない。
殺意はこういうときに起こるものなのかって。

「あのさー、もう私のこと思わない方がいいんじゃないの?」

そう言うスミが何だか大きくなったように感じられて、白い生肌が肥大して膨らみ、薄い水色のけばけばのついた服で、たいそう胸を張って見下ろすように、
ビックスミ。洞にデカスミ。
俺はその姿を少し離れたところの岩かげから見ている。溝をへだてた向こう、洞穴が、ガマが大きくあくびしたような開き方をして、垂れ下がる鍾乳石はそのまま口腔の襞のようにビラビラ層になって、部屋として使用され、薄い光が下の方から、電気を消した部屋でTVだけついているようなボワッとした灯り方をして、
スミが満ちている。

……
スミはこれで同輩三人とやったことになる。
今は俺のものじゃないが、知ってるよ。
スミのからだ。でも俺のじゃない!

カエルを手に入れる。
ロッカーを開けると飛び出てきた。
特有のグロテスクさがあるがどこか無機質だ。そして飛ぶ。
とにかくよく飛ぶ。怖いくらいに。
首にヒモかけて渡され、皆、期待しているようだ。
レースに勝って見返せるかも。ただ気が済まない。
ゲーセンを歩いているうちにいじっていると、食べた。
頭から半分程

「食べちゃった」

皆無言。
そしてやっぱりそうかという感じで軽虚する。
まだいけるよ。
一人軽くて良いが温もりはない。
ひどくさみしいさみい。


12 ゆっち、ピンクピンク


死にかかっている遊園。観覧車。タワー。
考えるな。肌で噛め。
自分でやっているのが少ない程よい。
「ゆっち」な仕事… 

「でもユッチ、セックスだけは嫌だな。セックスくらい馬鹿らしいことないもの。セックス」

家。階段の手摺がパカッと開いて、騎士の腕が写真を放り込む。
ベッドから起き上がるユッチ。背後に大きな影が人型に覆う。
パンパンパン。銃で撃たれる。応接間で壺の前で平気に。

「結構かわいいんだよ」

自分で笑っちゃった。
マフラーみたいの、前あったでしょ、銀色のシャシャしたやつ。
首にはめて、枝豆色のスーツ調の。羽の襟。
スカートはスリットが入った切れ目。結構スカートずり落ちてた。
やせたのかな?黒いストッキング。ショートカットのシャギー。

「結構人気。優しくしてくれたよ」

やってないよ何も。
 

駅のエスカレーターを上って改札口、
アンケートに答えると旅行チケットが当たる。
何々、バスを乗り継いでツアー?東海道五十三次みたい。
途中、みんなで話しながらくんだり停留所。
ワラのゴザに座って、あぜ道のよもすがら。
ほこほこした陽気。三角おむすびがよく似合う。

元彼女のスミの写真出されて、朝から気分悪いわ。
お勝手に父母座っていて、

「何してるの?」
「現像されたらしくて」

スミが白と紺のボーダーシャツ着て、切れ目で写っている。
(何の説明もなくそうなる)
(犠式)
壺の前では人が簡単にうたれる。
母さんがやったのかな?逆らったから。俺に。

……
「助けて!助けて!誰か私を救って!なんて、大げさだよね私、みんなに言っちゃって、そんなだから怖がられるんだよね」

スミの部屋に、いつの間にかまた飛んでいったのか。気づいたら寝っ転がって、朦朧とする中でクチャクチャと口をからませて…このまま行為になだれ込もう、朦朧のままにならいいか。
いこうとしたらいつの間にか俺の局部にはゴムが装着されてもうこれくらいかな、できるのは。
いつの間にか、また、まっ裸になっているスミがまたがってきて、肉のボリューム、少したるみ気味で、その所作は風俗嬢がもう慣れたルーティンワークのそれを思わせる、よいしょ、とは言わないけれどそれくらいの。
ゴムも着けているし入れるのかと思ったらまたがるだけで、その輪郭がロールシャッハの図形のように見え。
ちょうど俺の下腹部、局部の上辺りにまたがって、自分の局部とは合わせない。手を後ろにまわして俺のをガサゴソと、多少の茂みを感じつつ。
はいはい、揺れもせず、勝手に終わりをむかえて。何なんだ、出てねーぞ出てねーぞ、終わって…
自分の局部を確認して、手をいけてみると萎えて、というより絞りとられた、もうほんとに小指くらいになって、巻貝か、固く巻かれた葉巻の先っちょくらいになって、木枝の先。終わってる。
失礼なやつ、トランクスと寝間着の下が重なって脱ぎ捨てられてある。トランクスなんてはいてるのか、水色の生地に白のストライプ。
チョンチョンと自分の生質を、痕跡を残す。飴細工の冷えたあとのように奇妙な糸をひいて、蜘蛛の糸で繭をつくる出ばな、綿菓子糸の玉。
マイペースにシャワーへいたる。

してやってるくらいのものでー

ただの妄想?それとも思ったからつながったのか。やっぱこんなたましいなのか。何にせよ、これがホントウだ。

……
昔の黒電話みたいなアイコンがあって、指でグルグル回すと、ダイアル穴の配列みたいに別のアイコンがいくつも○く空間に浮かぶ。
それぞれシンボルとしての絵が示されている。その後に音声ガイダンスが始まって、
 
「はーい!こちらは秘密のテレフォンナンバー、ミスター『?』です。
お客様の長らくのご愛顧に応えるべく、
当社といたしましても、ささやかながら、
必殺アイコンを各種取り揃えて用意しております!

『(ハート)ドっくんどっくんマジカルハート、ドキッでチュ』
『あなたのお好きな愛の指名№』
『ティッシュロール何巻き巻き?ベッドメイキング』

その他再度にあたってのご希望にかなう設定変更は可能です。 
でき得る限りのサービスを提供、最強の風俗としての運営を自らに課しております。
モットーです、もっとーっもっと!
もっともってけ、もっともっと、もっともんでけ、もっともっともっともいでもうくタくタ。
お客さん自身が使い終わったゴムのように、薄皮一枚、内から外から快感浴びせまくります!絶対です!
ぷるぷるふるえるあなたの海綿。
兎にも角にもダイヤルキュー。
こちらはピンクピンク。
あなたの桃色もう一度産まれます。
あなたに最高の出会いを提供する、
昔あの子は(    )です
お手持ちのTelのボタンを押して頂くと、
自動的にこちらの回線にアクセス、接続されます。
あとは一つ一つ質問に答えて頂いて(お手持ちのボタンで)。
あなたの桃色の産婆役。
もう一度あなたが産まれます。
ピンク産まれたて、ピンクピンク、
おめでとうございます。
お祝いピンク」

……
沖縄のとある雑貨屋を訪れると、すぐに目につく宣伝がある。アイドルのヒロだ。

「ヒロのおすすめ、ボディエクセレント手動式だから、少しずつ電子を送っていけるから安心だ!」

お、ヒロも着用してるのか。
薄い紺色の布レオタードに透明のチューブがついていて、着ると体に巻きついたようになって、プラスチックの押しボタンが先端についていて、押すと、粒子がテクテクとチューブの中を赤、青、黄と点滅してティロティロ下っていく……※※々々電子の米印のような音楽がティロリロリロリロティロリロリロリロ。
今なら50円お買い得。
押してみて、あんまりびっくりこんな仕掛けとは。
あと、銀のジャージが元値15,000円から50円に値下げされている。
少し小さめだがキズとかないし、何で安値?リュックも2,000円。どうしよう、スポーツメーカーっぽい黒いK線が入っていて、黄色の蛍光色、かっこいいけどどうしよう、あんまり荷物増やしてもな…
 
これで今日何回目になるんだ?まだやるの?
あんまりし過ぎて局部が起状でとれてしまいました。
でもあわてずにグイと差し込み直せば入るんです。とれた後にも何もなくはなくて、そのまんまの形の小ちゃなマッシュルームみたいな縮小物があって、接続できる。色は煮詰め過ぎた角煮のような不健康な色だけど。
だども、4回目か?精力つくもの食わないとな、
どっかの皇帝は赤虫食って連発だって?元気だねっ。
抜けた局部の切断面には中央に小さな管道、こんな小さな穴と残りの本体の凸と接続、繰り返してるからか、とれた方も原体もどうにも膨張し過ぎてドッキングしづらい。
おさまるまで待つか…どうなの?人がいるよ、まかれるよ。
無理にグイグイ押すけど入らない、当然といえば当然。
でもヒロのやつで1回、やりたいな。人いなくなってから布団でさっそく、あれ?
よく見たらここは俺の部屋、ただし壁はなくて見晴らしは外、もう町中みたい。
でも木の枠組みと出入り口はあるような親切設計。そこにオバァが来て、

「ほらこれっ、オバァしばらく留守にしていなかったから、またちゃんとやるから」

と言って5,000円差し出してくる。何か少しすまなそう。でも頑なな感じがオバァだ。
はいよ、とあっさり二本指で挟んで取ってもらう。生活だな、始まる感じ、真っ只中だ。
でも局部がポロッてとれちゃって。仕方がない、好きなんだから。


…俺はワタ、つけられたんだよ。
スノダクレジって拾い物をつけられたんだよ。

海岸の岩礁の一角に凹んだ水たまりがあって、そこにサンゴが白く白く洗い流されて、石灰化したナキガラ群の流されどもが漂着している。
ダイダイ、レッド、シュ等の粒がちりじりついていてその中から、その透明の小海の中からこぼれるように、湧いて出てきた要石のようなもの、
それは道祖神のようなもの。
それを秘めていたのか具現化してうああああ背負うはめに。
さらにオバァが背に石とともに乗り、こんもり狐のお宿のような、おいなりさん。

「この子は魅力的な子だよ」

やるよ。ひめのために。


13 一人暮らしの海の世界、マスホさん


キレイなことばはもういらない
これからは赤い言葉の時代だ
ときにおりれば地獄にこそ
ふればわいたでかいらんばん
なくよなくよのしもうさぎ(死盲岬)
うつらうつらにかえります
そこはかとなくしんぼう
次がありません


スミが鍋をかかえて
「今日さ、これ、うちに食べに来ない?家に泊まりに来なよ。今日だけ」
「だって寝るとこないだろう?」
「うん」
「ソトマキさんはいるんだろう?」
「別になんとかなる」
「布団で二人で寝ているんだろう?」
「うん」
「今、風邪ひくわけにはいかないしな。人にひかすわけにもいかないし。やっぱりいいわ、遠慮する」

(もぐもぐオタマで食べて、もうあんまり残ってないやって、これだけ食べにいくの?)
残り少ない 俺の分は なくなる


いつまでもいつまでもエンドレスでしょ
波の音がすごくいいのよ
もうやみつきになってしまうわよ
女ばかりのアパート住まい
一人暮らししたら お金もだしてくれないんじゃないかって
テレビ置いておかれたような、棟と棟の間に
みようと思っていたけれど
ペンキで赤く塗られてみれませんでした
おもてに出れば、即、波でしょ、どっちかというと日本海
人のいないさみしい海
女たちはいさんで波に向かい
人が全然いない
大きく迂回して囲むように断崖が左右にきりたっている 裂け目

女たちばかりのこのアパートに俺は住めるのかな、いいのかな?

スミが劇団の次の取り仕切りで、キャストの予定表を紙に書いて提出していたな。二チームくらいに分けてサコチンも俺もお任せだから、俺が口をはさもうとすると仲間内があってかやの外。俺は入らないだろうな。

崖の方から、ばらばら(と)支配人のような温泉ツアーのハッピを着たような、すだれ白縞の管理職のおっさんがあらわれて(ご一行)
みんな、この生活、気に入っているみたい。一斉に、表に出て行ったけど。

 スミの世界から一人暮らしの海の世界
 波の音だけ

……
マスホさん。 
夜、高架下、長く緩い坂道のふもと辺り、古本屋さん。

「ああ 駅の方にも確かに何件かありますよ」
「ホント?じゃあそっちに行ってみる」
「もうやってないですよ」
「一応、ね」

スミは、当然自分と一緒に帰るものだとばかり思っていたようだけれど、そりゃおかしい、あれだけ傷つけといて。
スーッとマスホさんについていき、坂を上がっていく。
後で戻るけど、これでシャワー浴びて、やって、一時間で帰って… あわあわ
洗面所で口を入ーって いーってひろげて 
枝豆みたいな丸い物が歯の代わりかと、ところどころ配置、なってて 
洗面所の窓の外は裏の田んぼのチリンチリン 
カソッと乾いた灰色の土が、干上がってめくれて、魚のウロコみたくれっきとして
それでもまぁ戻るけど 
どう思われてもいいけどー 
やったってわかるよな確実に。
ソープの匂いですっきりしてるし。
この水色気分のボンクラめえって言われちゃいそう。
いいけどー 別れ際 なごりあとをひくよー

俺と同じようにスミにもて遊ばれたおじさんがあと二人、白のランニングに、髪の毛は田植えしたてか、もしくはヒヨコの洗い髪みたく濡れて立って黒光りしている。
ヒゲは剃られてツルンツルン、ゆで卵むきたての白身のように肌色薄くて、机をはさんで向こう、

「大丈夫ですか?」
「ああ、今は平気になりましたよ」
「後頭部首すじの、ぼんのうらの方は?」
「いや、処置済みで針も通して汚いものは排出しまして、あなたもどうですか?私を連れていきますか?そうだ、これ、持っていってどこでも貼っつけちゃって下さい」

五つのマグネット 
裏に雀荘のマスターかゴーマン漫画の人のようなコミカルな絵柄がデフォルメされて、二、三頭身くらいで色々なポーズをシチュエーションに合わせてとっていて、
冷蔵庫のそばの天井にぶら下がってアルマジロ ナマケモノですよー
じゅうおうむじんをおとなしくしたような感じで
絵、見えるように貼らないと意味ないのに
表にするとただのステンレスチップ、紐ひっかける、はさむやつみたい。
これじゃどやされっぞー 
でも五つのマグネット、ファンネルみたく位置どりがうまく均衡している。
何も意図していないのに勝手に冷蔵庫の白い肌面にはっついて、バランスを保っている。
白い見学ハウスみたいなルーム吹き抜けた空間
キッチンのカウンター内には、何人かおじさん
こまごま小っちゃく影みたいに指大でひっちゃかめっちゃか弱々しく動いている。
ひっかけられたんかー
つままれちゃってんなー
貯蓄にまわって 
るろうるろうにうろうろしている 
灰圧色大辞典の索引にも載って失印でもコンマしないと目にも見よ?
つもる積さいの人人だ 
ほこりってんじゃなくてチリアクタろう 
てんでんわやわやのわき目のやしろの諸君?
それは俺も含めて 立ち上がれ

……
プライドはブドウ色

特に何か演出がある訳ではありません。
ただ二つ重ねて、毎日積み重ねです。
ビニール袋に二つ重ね。二対。計四枚。
これが私の頼まれた、お金を頂戴した、私のした仕事です。
先生はあるときは白卵さんに頼まれてさえも拒否され、毎日の決まりに準じて、古い旧教室を飛び出して校長室に取りに行く。何を?

「カンキはプライドをとりに行ったんだよ。危険もかえりみず」

校長室へ。
裏路地を通ってバケツリレーでプラスチックの石油を入れる容器に入ったブドウ色の液体を持ち出して、みな集まってとり囲む。ブツを。

ヤッコさん、
「何だろうねー、これ」
「…価値あるものらしいよ。大事にとっておいて発酵を重ねさせているんだ」
「ふーん」
「ねぇ、ちょうだい」

コップを前に突き出して、少し注いで口に含む。
まずーい。甘くもなく、エグイ、ツンとくる香り。
ランニング白の子供。子には生肌でつらいみたいよ。
しかし見つかったらNPC米兵にしつこくアーミーに射殺ものだね。
棚に、プレゼントのラップ用のかさばるキレイなビニール袋を
巾着して、リボンでくるんで中に記録のポラロイド写真四枚かける二つ。

 恋&愛へ
 The a jun 
 I love you です。
 
手紙の文はそれだけ。さすがに字、少しはキレイに書いてるんだろうね。
アキバハラにて。しかし裏手さんは大変だ。俺らは全て用意してもらってるからアリガタイことだけどキモニメイジテ。
恋ちゃんは黒のTシャツに黒のあせたジーンズ。に、黒のエプロン。せっせと動き回る働きもの。事務所の。

「さーて仕事仕事」

愛ちゃんはまだ入ったばかり。まだみんなにちやほやされる盛り
金魚のフリルのようなぶりっこ服。知らないようでけっこう遊んでいるんだな。行為抜きで。
アイリスみたいなフランス人形。下ネタも。
夕方のアキバ

ハチのぬいぐるみブンブン。あれ、無敵のやつ、スミに聞いて知ってるやつ、
ブンドル気だな。あわててひっつかまえて奪い取る。盗ませはしない。
争いになって顔面がもげるが、後でどうとでも修繕可能だし。無敵だから、手に持っとく限りは。
結局虻蜂取らず胡散臭い汚ぇ猿のような無精者、白のあせたシャツを着た、くたびれたぼさぼさ男は逃走する。
列車内に本人がいる。
しかしまずは人形確保が第一。列車は行ってしまう。
で、スミの同僚がホームの階段にいて、何で?みたいな顔をしているので、いや、前付き合ってて、聞いて知ってたんで、あわててブンドリましたよ。取り返した。返さないと。
乗換えを考慮。アサクサ線のマーク。早く帰れる。
こっちだと 3分 5分 8分
… ありがたい

「お疲れ様です。えー方法はですね…」
「お世話様です。やっかいになります」
期待して、

今は川に沈んで暗夜行路。しかしやり方さえ正しければいずれ抜ける。幼くとも拙くとも。
… を、それをとればムテキングだね。
ヒビヤ線、列車に乗ろうとすると、怪しい風貌の男が入れ違いで出てこようとして、

何でスミはそんなに俺に見せようとするのか
そんなところにいたのか
やむにやまれずか
シンリーソロー モリソロー
先生またね、親も許さないぞそんなこと。
俺くらいしか許さないぞ。
泡まみれになって先生とまでセックス。
人形みたいに脚直立でカニばさみ
エンドロールでアレ、ドラマ、スミって。
ハクはつくんだろうけど。全国波。
ビデオ全部見なくちゃ。
やり直すのか?無理だよ。
先生ってそんなぐじゃぐじゃな誰も見向きもしないようなこ汚いおっさん。
何を感じてまぐわうんだ?
頭焼きそばみたいな先生。田んぼ刈り入れ後みたいなヒゲ面。

「あわあわあわって、
こんなことしてるんでしょー」

トレンディ女優にすり変わって怒る。


「オリオいつまで待たせんだよ、今頃電話かけてきやがって」
「オオ、カンキィィ」
:;「-^「@;」^;」

言葉にしようとしたのにならない
布バッグを口にあてて、外すと、
見ろ!うまさけろー!(?)
唇が裂けて(昔の傷痕)血がだらだら、自分で思ったよりもずっとひどい。叫んで怒号。をあげるとガラの悪い兄ちゃんが寄ってくる。
向こうは多勢に任せてとっちめようとしてくる。俺は立ち上がりまくしたてる。急に冷静になって言魂戦に持ち込む。
それでは…二十字以内、いや、十三字!今の気持ち、今の自分、
相手は術中にはまり自信は失せて、俺には
いっつも何時に起きる?
なんて簡単な問題出して、
みな口々に予想して、それがおおよそ当たっている。いつの間にか黒板前には大勢集まっている。ガーッと書きなぐり、
2?Z?乙?みたいに勢いよく読めない。
7時30分です
…ねぇねぇ、こういうのってとっとかない?紙切れにメモで一、二言、こういうのって何か捨てられないよね
女の子(小柄な)は、あまりよくわからない様子。


14 ニチジョウ、暗黒旅館


 ニチジョウについて
 シンジンきこえます

もう、そんなくらいか?それはもう随分だなぁ。

いや、荷物。そう、まだ少し置いてあったんだっけか?何か?かさばるな。

「失礼にもします。おみそれしやす。
の、外巻々電磁郎でーあります」

部屋は全面風呂場。足の踏み場もない。
部屋の壁沿いが湯船の囲い。内は湯。
掘りゴタツならぬ堀り風呂。
囲いの上に足裏つけてのって、部屋の東南の角に身を置いて様子見。
北の壁面にはテレビが配置されて、神棚のように祀られている。高めの位置に。
その下方で電磁郎が極めている。
それを湯につかりながらカポーンという音がきこえてきそうな風情でお年寄りがみている。
生まれたてのヒナ鳥のような毛のはげた人たち。白タオルを肩にかけ。
俺は依然、部屋の角の端にいて、三角立ち。
全部服、ジャージ類だって脱がなくてもいいんだ。このままでたらって
全部、そんなにもう荷物なんてない。
ルリ色のタオル。重いもの……
ああその前にスミの部屋をちゃんと、引き返してみてみようかな一続きにあるのだし。
 
「結局空虚が充ちなかったんだと思います。
二人のラブが。四角の内の淵、テレビ画面。
光と光の集合体、層、層が積み重なって膜。
パラズム、メカズム
四角のパラレルグラデーション。
ひきずりこまれ。
ペキュッとメロウにイエローに、
淡く丸く光って浮きぼりに、玉の照かり。
画面の盛りあがったレンズの
キワのキワをふちどりめぐる白い光。
充たせるものだと思うんです。
結局、なかったんだと思います」


いいか、手、手、みんな出して、重ねて。いいか、よし。
チュウ先輩が隣、黒いタイトなネルシャツ。
うなずいて、あいづちで
スミが「私は今は幸せなんだ」という弁をとうとうと述べるにつけ、言う程にいちいち合いの手をうって、

「ゆるせない。そんなの駄目。認めない」

うんうんうなずきながらコクコクと、俺の右手とチュウ先輩の左手、肩くらいの高さで、上からかぶせるように握るというよりつながれて。
念じるように。輪になって円陣、お互い手を重ねて、少し散ったようになって、UFOさん来て下さい、しているような。
スミの演説。
幸せ上等。ゆるせない。ゆるさない。認めない。ありえない。ひとりの幸せなんて。
ずどーん。あーあとんじゃった。
無理に、簡単に倒れて一機死亡。
そんなに、いくら代替きくからって見通しなく崩れてっといつかね。いっちまうぞ。
輪のなかのひとり。草垣に背中からもたれかかるようにカクッと沈み込む。男。少し笑いながら、にやけ顔。駄目っぽいな。なめたらいかん。おかげで輪が少し破綻した。
サークル シミュレーションのかたち。
試用期間。いろんなケースをトライしてみる。検証作業。
テレビが神棚ラジオデイズ。
湯殿の向こうの押入れにしまわれた俺の荷物。残した。少し、残っている。
でも、もう少しでなくなる。時がたつと。
湯殿。けむって湯気、たちのぼって、浴槽のキワに立って。つま先立ち。そろそろと渡る。

真人。もうそんなところか。
ちゃんとキカネバナラナイヨ。
朴念とした丸坊主の友。
わきにそっとついていてちょっと暗い。
まわりの空気が。
学ランの青年。そのぼけたようなたたずまい。そのなかにキラメキ、鋭い光を秘めている。
君はケンヂか?隣にいながら。

……
暗黒旅館かな。前にも行った、来たことある温泉宿。
スミだあれは。久しぶりに、しかもそれを目的にして、暗黒舞踏の助力も借りて会いに来た。あいせ、逢瀬。

赤玉。秘所からか口からかみるみる大きくなって宙に浮き、芽が殻を裂いて顔を出すようにして。赤玉って、終了?
スミが横で眠っているのは、いつ以来か。

暗黒旅館までの道中、まず不逞な身体障害者にからまれて、仕方ないからついてくるのは許すけど一つ、俺らのセックスの邪魔したら焼き尽くすぞ。破壊神にでもなったような化身のごとく。
その後、バスなのか乗るんだけど、座るところが極端に狭い、長崎オリエンタル風のチェア、前倒し式のグリーンの蔓のようなつくり。
行先まで、まぁやむなしと座ろうとした奥に座っている女の子がいて、話しかけると、

「ガチャポンって今、100円じゃないでしょ、200、300円するでしょ」
「お金はお母さんにもらってるの」
「いいな」
「お兄ちゃん、知らないの?」
「何?」
「おたく、て思われるか、うわき、ととられるか」

女の子は紺のセーラーを着ている。

スミがチュウを頬にしてくる。湿り気が艶めかしく、これは向こうからだからやっていいんだよな。
たぐり寄せて深く唇を重ね、からだをまさぐり、しかしこのからだは久しぶりだ。質感が、覚えているが、パンパンとしてあららとしいハリのある、スレンダーではない、鳥のモモ肉の皮剥いだようだ。つるんとした局所を撫でると擦れたような跡があって、それ自体無いように見えるけど、すぐ下から中に入る。斜角。
いつも着ていた紺のパジャマ姿のスミ。
そこに、途中からついてきたトイレットペーパーを巻きつけたような呆けた者と、他に風俗関係者の女性が二人やってきて、布団を並べて、

「何回やったー?」
「3、4回かな」
「えーそれしかできなかったのー」
「うん、うまくいかなくってー」

枕元には深い群青紺のタオルがいっぱい積まれている。
生質を擦りつける、手についたのを。テカる。
何であれ中に入る。指を、指でもつながる、チャンネリング、ヴィジョンが見える。
もう自分では夢から覚めそうだが、わかっているが最後までうつすぞ。
 
往年の探偵もののような、怪しい館の推理ものの情感。
白い波うつ頭髪の博士めいた者が、階段上へ向かいつつこちらを向いて、眼鏡の奥から目を向けて。
やはり暗黒、性なる艶やかなオイランの芝居がかった世界。
着物もはだけて、赤いのれんをちらつかせて。羽衣風俗。
いくら振り切ろうったって「あー、いたー」って、道に捨ておかれたような身障病める小僧がつきまとう。
歩道橋を渡れず。直接対岸へ渡ろう。
ひどく渡りにくい。よし、いけると、車も見えぬと思っても、死角から次々と現れて。中継して渡る。他の者にも難関らしく。
テーマパークテルミィランドにでも行くようなバスに乗って。夢気分。
いつだって二人旅、というか道行は心中するような気分、雰囲気が漂う。

かたりある予兆の表現 
きみはきみいま死ねりき 
されどわれは今度復活せん
 
スミはもうアパートにはいない。
彼氏の家の方で同棲生活。
案内状の住所が違うんだ。
北ゼキ雅也とか、そんな、知らない彼氏の名前。
俺の前にスミと付き合っていた彼は住所が短い。
あけすけの、壁のない草川の木屋近くで、
その部屋に、俺のお父さんが寝そべっている。
布団が二組、お父さんの横に枕、もう二対布団が敷いてある。
こっちを見る、つまりもう一緒には寝ないって。
スミはもう俺の彼女でもなければお母さんでもない。
お父さん。拒絶。


15 ドンパチ、成功と泉


20の星座は合計いくつ?
そうかそれらはゆかり、
星座は全部で2,000通り。

俺はもう先々のことまで全部わかっているからアリジィゴク、飽くなき永遠の砂利道ぐるぐる交差。
ハラッパー、せっそうの林、しずみます。
中央に砂盛り、塩の三角錐、清め、円錐、それを滑らかな牛、いかどんちゃくイスリアープケケウプーガゲグィグレゲリゲラレニトギリゲリ…
毛布一枚ありうまいジェゴグ。
スタチュースタチュータターチュー。
星砂の林、埋もれテン。
バイバイミスタームーンライト。
丁寧にあいさつをして。
ベニベニベニィカーリハタカリハタカリ。

これから行くところは日本というよりどっちかというと香港とかの方に近いのね。
そこでは何もかも経験的なの。
極めて実践プロ仕様なの。
うまくありつけば悪くないベェトナム。
三角傘に屋台村。

2人の少年少女。
少年は、カラーロック、小石に顔全体埋もらせてパック、ターバンで目以外の肌をかくまった形。
俺は図体が大きいからな、18歳といっても。食いっぷちはな砂漠の民、星の運行に命をかけて、一じょう、キラリのみたいです。
少女はミニマム仕様、腰から足首までタオル巻きにした、絨毯を巻きつけたような、中央にドラポッケ、三つ編みの金髪でアバタもエクボ。

これでも食費だけは浮きなのよね。
こんなからだにもメニューがあってパイナップルの一かけらは欲しいところよね。
しかし最近はプロってのがいないね。
あれだけチンさんのところ怖いわけだからそりゃ生まれもしますよね。
あれがプロの雰囲気です。ひねり出し。
 

カンキとスミ、温泉に行く。

「いや、でも結構ね、いい子ってのはいるもんだよ。バイト先で結構今時の子、いたけどね、いいなぁっていう子はね。必ず一人くらいはね」

スミのマンション、ここだ。
上がっていくとアツが下りてくる。

「おう、おまえだな、ちっと来いや下りてやなぁ」

いきなり戦闘モード。

「あっそう、それもしかして俺がストーカーってことでしょ。あっいや、そんなつもり全然ない、あっだったら帰るから、うん、だって今日はスミがいいって来てもいいって言ったから来たんだよ。そうか、怖いのかそう、アツさんさ、あんさ、これだけは言っとくわ。あのさ、そんなんさ、あかんのよ、俺はね、別に何しようってわけじゃなくてね、でもね、あいつ、おい聞こえてるか!駄目!駄目になるぞ!おまえほんとに、おまえらだって劇団でじゃあ何のためにやってるんだ?おい、なぁ、こうやって身もちぎれんばかりにやってるんちゃうんかい、お!こら、やってみろ!おらやってみろ!おら!うおら!おい、かかってみろ!おう!来い!」

アツが全く無抵抗で中のワタ、スポンジが出ちゃって手抜きの人形、布製の、口と目を適当に糸でグジャグジャ刺繍したような。
そう、そんなふうなんだ。いや、もう行かないよ、聞こえてるかスミ、もう行かねーから。

マンションは騒ぎを聞きつけて住人が、階段の手すりから身をのり出して見ている。
正体のようなソトマキもいる。

「おまえもなぁ、かかってみろや!」
いいって言うから来た… 

夜庭、壁にさんざ、吊り上げたたきつけたアツ人形ボロボロ。
ほか、やけに温泉でも静かしんなりしてたと思ったら、やけにあっさりいいって言うかと思ったら、俺なんて気にしたりして、バイト先でも結構いいなぁっていう子は、あいや別にその気になるとかそういうんじゃなくて、あくまでいい子だなぁって…
とか弁明したりして、食い過ぎで走ってゲップして来たってのに、田んぼも周りにある一軒マンションが自宅となりましたか。
もうアパートではありませんね。随分、そう、高くなられてねぇ、行きがけにパトカーも止まっていたな、警告。
結局俺馬鹿丸出し、ひとりピエロ、かー、なんだな、駄目だよ、ほんとにみんな、おまえらも、おまえも何のためにやっとるの?付き合うのー?意味わからんわ。

怖い、ひくひくぶるぶる震えていって、もう顔も合わさない。こもっちゃって。そういう態度。
何で、嫌なら嫌って言ってくれればいいのにわざわざこっちは来てさ、よかれ。これが俺なんかな。俺の強さ。そうさせてしまった一端はまぁな。けっ。
今、バチバチの音が聞こえたでぇ。ドンパチやでぇ。
ああそっか大事な事実、俺のたましいは貫き通す、一気通貫。タイプが違う。それに見合うタイプのたましいがいる。
ねぇ、相手、たて、矛には盾、たてついて欲しいね、ほら。

その温泉には、他にマベと(背の高い先生風、眼鏡をかけた、特徴あるフレームの、無色)女の子が二人、別にいいような感じの女の子。
ちょっとだぶついたような。今風ではないかな。田舎から出てきたような。
え、俺、マベと二人で入るの?やだよそんなの。そうだ、言ってやりなよ君、マベ、おろおろすっぞ。喜ぶって。
言ったら言ったで女の子も、あ、すいません、局部を隠していたタオルをはらりと落としてはそのまましなだれていく。
よれっとうまいスローな演技、すっかりその気だ。

……
来やがったスミ。
最後に23時のニュースに出て、メインキャスターに聞かれて、

「成功」

あいつが望んでいるのは。
はっきり言った、勝手にあっけらかんと。

「プール、泉」

まぁ何でもいいんだけど。
俺は自分のプールを、泉をいつか。

5.6%。恋愛もので視聴率は少し上昇。

「おまえ早く帰った方がいいぞ。母ちゃん帰って来たら殺されるぞ、ただじゃすまない」
「うん、オリオもカンキもいないから、ムギゴミムギゴミ、誰も言ってくれないから、私がしきって言ってるんだよ。みんなに合わせて、ミムギゴミ言わせて」

うつ伏せになったスミは裸、いつの間にか上から覆いかぶさって、羽交い締めのような形で胸をまさぐる。揺れるようにからだを揺さぶって、先端を探して指でもてあそぶ。揺れに酔うようにスミは感じているようなていで首を傾ける。腰を下にずらして挿し込んでみようとする、既成事実をつくって……どうしようもない、好きなのかよ、入らなかったけど……
一人たたずむ。あいつだって何のつもりで来たか知らないが。
白いジャージの上着だけとって帰って来てしまったから、押入れのダンボールの黒い下ジャージのところにぶち込んどく。俺は途方にくれている丸坊主。もう帰れっ。
今日で最後だ、もう会わないと思っていたけど。
 
今、俺は俺で生活をしている。満足にはほど遠いけれど、それでも何とか生き延びてやっているのに、何だっていうんだ。
 
スゴロク。マス目式のゲームで、ポンポン飛ばして進めていく。
ステージが変わって温泉旅館とその周辺の庭園。
旅館に入る前に一階脇の灯篭、そう、あれが泉か。
キシャーンて、ドラクエⅡのパズスとか攻撃するときに白く氷のような反射、あんな水面、か、光って。
おもむろに女性が占い師のような不在で何事かつぶやくと、ヒルメウナギのような緑色の怪物が現れる。
バトルすすいい進めてきたからレベルアップしてない。もっと戦って経験値積んどけば…
敵は口が凶悪にギジャギジャになって進化している。
案の定パーティーは一撃でやられてしまう。
そしたらスミの上に乗ってた。
もう補助の場でスミは視界を横ぎっていた。
 

ガキ大将の裏山。
にこりと微笑み返しで俺はスカートめいたものをはいて、濡れてしまったため脱いで、そのままだと前はYシャツで隠れるけどお尻が見えてしまう。垂れ下がったトランクス。
コンビニに入ってみるが短パンしか置いてない。1つケタが違う、10,280円って、いくらモノ良くったってなぁ。カーキ色のコーデュロイ地のが他のと吊り下がって。
オリオらと探しつつつるんで、家が近いから戻る。そこら近所の景色は幼い頃の田園風景の面影になっている。
家にスミがあがっているけれど、オバァが通したのか?親が通すはずない、許さないものな。今日はスミの公演最終日だ。だからだ。
二度と観に行くことはない腹づもりだって言ってるだろ!やらせにきたのか憐れみか触らせても入らない。2月2日?


「成功は成功、社会的な成功」

アナウンサーは、

「彼女は確かに言いました。聞きましたね、聞きましたね」

詰め寄るように言われ、

「はい、聞きましたし、知ってます」

俺はプールでも泉でも自分のものが湧くようであれば、い、い、と、おも、って、ま、す。
23時30分終わり。カットに合わせるように気遣ってセリフ言って、あわただしい報道フロアの混雑をぬって、スミに何も言わず帰る。

……
二人でのりたいラブカーゴ

「何それ、すみませんがねぇ、今のは何のことですかぁ。誰のことをおっしゃっているんですか」
「私の友達の」
「誰ですか?」
「スミですけれど」

なめやがって。あれだけ、いっていたのに、
タイタスのときは泣き入って、それなのに
 
「おっ、おまえちっと来い」

教室に殴りこんで、一人、誠実そうな、くってかかってきた男をつかまえて、

「先生、ちょっとかりますわ」
「おお、そうかぁ」

学校前で待ち伏せ、二人で歩いてくる、と、連れてきた男が退散しようとする、

「お前がいけやぁ」
「俺が行ったら逃げるに決まっとるやろ」

あ、カバン、愛用の黒カバン。
角に置いたまま、

ドレイこう、ブッコロス。
でも、お母さんに悪い、損害賠償とか……
急に思い、でも、後のこと考えてたら何も出来ん。
気づいたのか、通り過ぎ、逃げる。
後を追って、病院、ホテル?の前。バスターミナルのような、赤レンガで囲い、空間の下、

「おいっ、お前ら今どこに行こうとしていた」
「何だよお前、彼氏じゃねぇな」
「どっちでもいいよ、てめぇかこら」
「待てよ、ぶっ飛ばすのなんか後でいいだろ、いくらでも出来んだろ」

手で制す。不思議とあっちの方が格段に背が高いのに、詰め寄ってこれない、制している。

病院内。ベッド、あの運ばれるやつに乗せられていくスミ。
白い、あの病人服を着て、体育座りを楽にしたような形、

「もうボロボロなのよ、原因は極度のストレス。膝の骨がボロボロ。もう誰がどうでもいいの、三角関係をキレイに清算して、キレイな身持ちになって、いきたいの。そうでもいいの」

あんまり虫がよすぎるんじゃねぇか、清算、キレイなからだ?ふざけんな。
そんな都合のいい話があってたまるか、勝手に消されてたまるか。
かけて、消しゴム、ご簡単に消せるようなもんか、いいか。

パック、血液を、点滴、献血で血を入れるパック。きな粉のような、しみ。よどんだ影のようなもの。砂状の、粉が詰まって、きな粉に甘い汁をかけたような、それをもみもみして、ほぐして良くしようとしているのか。
俺はあんまり

 それに触る人はいない、
 スミの病理と酷似している

だいたいおまえら親子は、てめえらの世界に浸りやがって、てめえらが人の思い受けとってねぇだけじゃねぇか。ねぇんじゃねぇか、面白半分に、そうして悔いてもてめえらの態度一つでチャラにしてんじゃねぇか。逃げて逃げてとっかえひっかえ

(おまえもスミを好きだった男の一人か?)
(何でもいいよ)

(アドバイスしてくれたり教えてくれて、……
タイタスのときはあんなに いっていたのに)

ドンくんに手つないでもらって、ひかれて裏路地を連れられていく。
懐かしい、ドンくんは二十歳になっても女らしいドンくんだ。
コンクリが年代がかって黒じみた、低い塀のような、さびれた公園の横、路地、裏路地を通っていく。
抜けると、本屋。劇団の人間がバイトしている。時給安いだろうに。演技上手い娘だったっけ?


「二人で一緒にラブカーゴ!」

だって、今泣いた虫が。
やっぱぶっ殺してやる。おまえ、来い、ちっと、文句あんなら一緒に、

今、スミと一緒に歩いてきたのは、吉川晃司のような思ったよりさらにデカイ、頭三つくらい上にいきそう。
何を虫のいい、おまえの汚れは一生残るよ。

(脳にか?)

消えてたまるか そんなよ


16 ミルククライム、加害は最低だ


「ミルクちゃんか。強いんだってね」
「はい」
「見ろ。ブリッジで受けるやつなんて、こんなに反っていられるなんて、なかなかいないぞ。
ものが違うんだよ。でも負けたんだよな?」
「はい」(苦笑)

銀のレオタード。アマレス式にブリッジして
反ったときに恥骨のラインがくっきり浮かびあがる。

「何でだろうな?でも、それがひとつ、あるんだろ?」
「はい」
「何でだろうな。まぁやってみような」
「はい」
「髪も、前長かったのを切ったんだろ?」
「はい」
「俺は短いの、好きだけれどね。」

髪は乾いて、ぼさぼさ、ところどころぴんぴん立っている。
レオタードのサイズが大きめで、前に屈むと、胸がのぞく。
けれど、本人は少しも気にしないから、爽やかでHっぽさを感じさせない。

「俺はもう始めましたから。
あなたもはやく始めてください。
始めてくれないと困るんすよ。あなたが。
始まらないと終わらない。」

二人ほど、ミルクのこと、好きらしくて。
そんなこと言ってくる男がいる。

郊外。電信柱もない、田地、畦地、原っぱ、
草の黄緑がよく映えて。視界を遮るものがほとんどない。
 
姉も含め、みんなでミルクを支えていく。
バックアップ。周りから囲うように。
ミルクはからだを捩った倒立。巻貝のように。
 
「あんたが」

青い冷めたレンガ造りの暗室。
話は俺が思うよりも否それ以前に進んでいるようで。
 

怪盗の声はモノマネだけど、ただ元祖をマネるだけだと、しまいには先細り。死に体。になる。
じゃあもう、元がなくたって出来る。
そうするとけれど、勢いオリジナルが自然にあらわれればいいけれど、ただ元も子もなくてスカスカじゃあ見込みない。
ビデオで元のクオリティをチェック、もっておかないとー。
 
俺、怪盗。になってカタパルト。
上空三千m超の浮島。雲が眼下一面にあり、
いよいよ水色の滑空機で、降下。
飛びたつ。お姫様と一緒に。
お供する。お姫様が先に座り、その後ろ、
お姫様の背面から腰にかけてに自分の前面を密着させて、背もたれになって座る。
後ろから手を回して、お腹の形を確かめるように手でまさぐる。
あばらの下がへこみ、お腹の中心部が箱形にくっきり隆起している。

「やっとしてくれたのね。うれしい」
「そりゃもう怪盗。紳士ですからね。やるときゃやるよ」
(おじさますきぃ…)

一間もなく、滑空。


「本気でかかっちゃっていいんですか?投げ飛ばしちゃって?」
「ああ」
 
男が膝を立てた上にヤジロベーみたいに、腰の屈折でバランスをとってブリッジ。浮いている。
男はミルクを気にして邪な気分でいるにもかかわらず、ミルクは小さい頃から男とばかり稽古をしているから全く、明るく屈託なく気にしない。さらっとしている。

「強いんだってな?でも、負けたんだってな?でも、それも、ひとつあるんだな?」

俺は遠くから来ているから、赴任して、つとめて一時的に、自転車で来ているからここの者じゃないから、いずれは帰る身。
そういう人なんだけど。ミルク。

……
【加害は最低だ】

赤い戦慄、眼前にいきなり太字でその文言が走る。ペンキを画面にぶちまけたように。
 
死体になったようなスミ。

「いや、突然倒れたんだよ。店先でね、バタン!てね、それまでは元気にやっていたんだけれども」
「ラーメンでも……」
「いや、あんただよ」

ものがわからなくなってからバイトなんてさせて、大丈夫かと心配してたんだけどこなしていたみたいで安心してたら、

「いや、結構真剣に働いていたよ。そしたら急にバタン!てね」
「何だよ、せっかく食べさしてやろうと」

噛みくだいて与えてやりたかったな。

みんな、おかしくなっちまって。崩壊。何にもなかったのに一挙に。
こんな結末なのか?アリなのか?
 
「すみません、ちょっと一緒に乗せていってもらってもいいですか」
「いいよ」
「何だそれは?おまえ、本なんか」

僕は野球人だ。

「ああ、これ、いや、いろいろですよ。整髪料、ポマードジェルで、選手全員に配られるんですよ。一回につき、この容器の半分くらいまで使っていいんですね」

チームのコーチは興味津々。訝しげに覗き込むように見てこられて。
ロッカールーム。
選手は上半身裸になって一様にジェルをベタベタ髪に塗りたくっている。
ベタベタ。つけすぎて粉吹いて白くなっている。
皆オールバック気味に後方になでつけるが、俺は短くて、やってもせいぜいピンピン上に、刈られたあとの田んぼみたいになるくらいで。
でも皆がするように執拗に後ろにかきあげていると、ベルトコンベアーの上にスミとおぼしき人間が寝そべっている。

「何で?何でこんなことに?誰か、誰かいなかったのかよ。この町の人間みんなで追い込んだんだ、そのようにしたんだ。仕向けたんだ。何か、してやれたはずだろ!」

ロッカールームでガトリが叫ぶと、皆、いなくなる。
ドン。流されて、前に放置されていた男の裸の死体にスミがぶつかる。
男の頭はいがぐり頭。スミは脚が流れで開いて陰部を男の頭にぶつけて止まる。到着。
 

「んーどしたー?」
「ああ、参った。おまえ頼むわ。手がつけられない」
「ぐばっ」
「何だーお腹すいているのかー?」

スミはカエルみたいにひれ伏して、赤ん坊みたいにスッカラカンになって目がじゅくじゅくして潤んでいる。
咀嚼したものを口の中に溜めてエレエレむにょと出したりして。
丸裸で、幾分つぶれて熟れ熟れした印象がある。変態したような。
 

一人の男仲間シーナは別れては再婚、ひとときの幸せを味わっては必ず失われてしまう繰り返し。
必ず妻子持ち、家族になってはガバッと何かそれこそ神の見えざる手か何かにかっさらわれて。
手、大きな獣のかぎ手に。具体的にもっていかれているようで。
歌もヒットして誰もがうらやみ思い描く理想の幸せ像に適いながらもバタバタと倒れていく。
何がそうさせるのか?
何がわたしのものを失わせるのか?
今ではシーナはその理由、根本にあるものを調べるのにやっきになって、霊能関係の世界に没頭している。
 

「しかしあいつ、よく食うな」

中華料理屋といっても気軽に入れる程度の庶民的なお店。
そこで仲間が蒸し鶏の香辛料がけグリル他、二、三品を一気に頼んで、お店の人は真空パック化された品々を取り出して、中身を皿にあけて用意に追われている。
それを裏方でみている。厨房(誰が?)
何かラーメン一つ買って何でもいいけれどよく噛んであいつに食わしてやっかな。
何がいいかな?三種類、券売機にはあって、みな一クセありそうな当店オリジナルラーメンだ。
あんまりお客さん、入ってないけれど、評判ではあったんだよな。
ピンク色の押ボタン。海鮮塩ダシのワカメちぢれ麺。これがいいかなぁ……
 
こんな終わり方なの?
ボロボロ崩れちゃって、そうなのか?何で?
 

仲間は三人。俺を含めて三人。それとスミ。
ベビールーム。緑のカーペット。三角のお部屋。
二人がスミをあやすがどうにも手がつけられず。
そこに俺が入ってきて、

「ああ、来た来た。おまえ、やってくれ」
「やりてぇだけなんじゃねぇのか?」
「うるせぇよ」

スミは裸体でむくむくしてひれ伏して。
何か強いものを感じる。充ちている。
むわっと伝わってくる。
圧迫感、カラになって、かえってつまっている。
グラグラ煮込んで余分な水分を飛ばしたように。
何をするのか予測がつかない挙動、赤ん坊のそれだけれども、からだが発達しているから可能性が高い。生生しい。
近くに寄ってみると、乳くさいにおいがする。
 

何があろうと加害は最低だ。

僕はシャカシャカ、真白に粉吹いても構わずに、手はベトベト、頭皮にも直接なでつけられても、かきあげ続けて。髪を。
流れていく。平然として。
ロッカールームの中に工場にあるようなベルトコンベアー。
腰くらいの高さで手工業的な流れ作業するところにある。
ベルトコンベアーの流れの先にはいくつかの裸の死体が置いてある。
洗車機のような囲いが設置されていて男は下半分そこにのまれている。


17 鐘と首


死すべき夜にリュウと一つの衣多すぎる 
一リュウ男 キザミ ツドイ 
マクラ元ニ…エンガタメ コノコドバヲ
ゴオオオン!
 
スミはおかしい。
三角形の真ん中に吸い寄せられているようで、
まどろみに沈んだ目をして、疲れきった様子でふらふらと立ち、

「いってくる。けど、まわりで聞いてて。でも、あとでここがこうだったなとか注釈しなくていいからね……そっとしといて」

変だな。
スミがいなくなった後、俺は一人薄暗闇の中、鋼鉄の階段を上っていく。
いつまで続くんだろう?
カツカツと足音だけが響く中、コンクリの壁の厚みに圧迫されつつ、最上階に到達する。
そこは屋根裏部屋のような中何階というような小スペースになっていて、天井が低い、立てないほどのところで、奥の壁に何かがある。

真四角のシューター。扉が開く。

中は異様な深さを感じさせる黒い空間で吸い込まれたら戻れない。
そして後ろからスミの気配、
さきから、している。

「あそこ何か気にならない?ねぇ」

と、妙にそこにおびき寄せたそうにして誘っておいて、後ろから突き入れる算段だろうけど、
悲しいくらい稚拙であからさまな様子で、
俺以外にも上ってくる人がいるんだけど、みんな用心しちゃっている。
そんなことが幾度となく繰り返されて、
あるいはもうスミ自身が諦めた末に、
スミはしっかり四角になって胡座して、
シューターの孔を自分の身体で塞いで、
誰も入れないようにした。

「ゴオオオン!」

四角におさまったスミがこだまする。
悲しい響きだね。
いいよ、俺は入れられても。
供物、必要だもんな……

「ゴオオオン!」

澄んだ、凛としたいい音がする。
でも何か挟まれたような……
スミのこだまに耳をすませていると、
その響きの中から声が聞こえて、

「ヨクミテゴラン ソンナニ
キョクタンニ マガッテナイダロウ」
「あれ、俺ですよ」
「死ンデ 死ヌヨウニシテ
イツノマニカカタチガイレカワリ
ボーとした顔してると顔と顔
おもてがボヤケテ
うすーくかさなってきて 
いつのまにか入れかわる
おまえにあんまりいわれるから やめやめって
悔しかったよ…… ろーって」
「ごめんごめん」
「モウナニモイワナイデ」
「モウシンデルヨ」
供物 ヒツヨウダロ?
   ニクヲコシラエナイトナ
   


……
ギルちゃん。

「切られれば、血は流れるものですか?」
「ゲラゲラゲラゲラ、
馬鹿な事をきくんじゃないよ。
てめえの口こじ開けて、
のどちんこ噛み千切ってやろうか!」
「……ぶっそうだねえ」
「ふん、やっと出られたんだからねぇ。
ずっと扉の前で待ってたんだ。
おかげで歯も溶けて、
ゲタッパのスキッパーさ。
でもあたしは剣持ちだからねぇ、
べら、べりべりべり、
なんでもかんでもなんでもかんでも、
首ちょんぱ、首切り役人、
ちょんちょんにする。
断面はパイポパイポ、パイポマカロニのくだ。
ストロー通行交通ルール、
ルールがツールでルーツに向かう。
脈脈巡脈巡脈巡脈回路廻旋螺旋のスロープ
体内の仕組み(閫)
あの夢、身の組織なのよ 夢の場所。
そのひとつひとつが夢のまた夢、
五臓六腑じゃ足りない足りない、
億兆万個の個体内々の夢。
それはあなた あなたなのよ。
あなたがあなただけのものだと思ったら、
ちょっと恥ずかしい。
頭悪いんじゃない?って言われるが落ちよ。
頭なんて、悪いほうがいいけれど。
いや、むしろ、ないほうがいい。
なければ、あなたの細胞、
あなたの分身たちが自立して、
体のほうが、いきいきしだして、
素直に己の夢に向かうでしょうよ。
うだうだ言ってんじゃない!
要は体の細分化 切り刻む。
件に件に一区切り、
ぎりぎりぎりぎりぎり
チャックひらいてぎりぎりぎりぎりぎり
ぎりぎりぎりにして大飲み込みにする」
「……ぶっそうだねぇ」

面取りを行う。
スコン、スコン、切り落とし。
結局顔でしょう?
不敵な面魂とはよく言ったもので、
顔取ったら、相手、愛せる?
前と同じように?どう?
顔。
愛しているものは、顔。
だって顔に全てはあらわれる。顔は魂だもの。
魂、残したいなら面取りでしょう?
忍びない、朽ちていくのは忍びない。
忍びないならデスマスク。
デスマスクを残しましょう。
好きな相手でもないのに、
どうして殺したりできる?
魂は面にあらわれる。
顔うつし 生きうつし
顔顔顔顔
面かしてくれよ、というように
しましょう。
顔と顔が重なって
いつしかお互いの顔形が
互い違いにうつってしまうまで
死んで、肉は、やがて腐る
死の力 死の呪力 それは伝染もする
もう、彼女を抱いていると
いつしか自分も腐っていく
生きながら腐蝕が進んで
そのなかで死なないとー
親愛のなかで死なないとー
かたちがうつらない
かたち、一瞬でもうつし
顔、顔、顔、顔……
チョン、全、パ
首ははねられ宙に舞って
互い互いの首が挿げ替え
きみはぼくのかおしている
あなたはわたしのかおしている
きみはぼく あなたはわたし
あははははははは 楽しいねぇ
ルンルンだね
ルンルン!ルンルン!ルンルン!
ここがやわらかいんだ、鼻と口の間。
何でここに線がはいっているの?


18 真っ暗闇の中、夜が明けたら


真っ暗闇の中、何で通れたのか。
券。財布の中に入っていたもの出したら。
前もこんなのいっしょの見たことがあったっけ…
学生証?受験生と間違えたのかな?
航空員みたいなブレザー着てライセンスみたいに、小為替チケットみたいな。
真空パックしてあって、固い。
入口は改札みたいに、眼鏡の男は、あ、そう、と簡単に通したけれど何回もやったらばれそう。
スミは先にいったみたい。
病院のようでも学校のようでもある。
はやいところ見つけて、
何を?
こういうのは一番上の階からやった方が…
順繰りで下りてくる。
上に行く程ぼやけて暗くなってくる。
赤外線カメラ映像みたい。
大学みたい、白いような壁。
おぼろだけど、三階か、階段を上ったところ向こうで、部屋から出ようとしている人が、明かりが廊下にのぞいてもれて物音もしら、
物陰に隠れて、いてもこっちに来るかもわからんし、臆しても、いくか。 
部屋の対面の壁にそって、前の廊下を進んでいく。
部屋から、白い羽毛のガウンを着たようなダッフルコートの塊のようなものがてっくてっくと出てきて、互いに壁に寄って素通りする。  

うわぁ

あまり暗くて、
からだが思うように任せなくなって
おばっかお 何かにとらわれたようになって

おあ うわん あ 

声をもらしてサイレンみたいにないていると、
先程の部屋から黒い男のシルエットタイトなズボン、Gパンでもはいているような、男だと思われるものが駆け足で出てきてこちらに来る
俺に向かってくる。
と、いうより、追いかけられて、
あとから、スミと思われるものが出てきて
あ、これ、捕まえた方がいいのかと思って
とっさに脚を16文キックのように前に出して…

病院、スミは素通り。
面の割れた、ゆかりになっている。
俺がついていくのは内緒。
入れると思ってないだろ、お役目ないから。
でも昔のやつで通用した。
女の子が通ったら、期待しちゃおうかな。

……
「あ、そのえびはこっちでいいよ」
「へぇー、えびにも種類があるんだ」

生えびせんソフト仕上げ。
サフラン油で白肌色に薄揚げチップスにしたものを皿に盛って、こっちには生ぷりぷりシュリンプを入れる。ピラフに入っているようなてかてか。
でも何かそぐわない、間違ったのと混じってる感じがして、別に乾燥えび、出汁に使うようなレトロな乾しえびがあって、そっちに一緒にいれようとしたら、スミに止められた。分別。

「いいのいいの」
「なあ、スミ。仕事も順調みたいで、そういう話を聞くのも悪くないな」

しみじみなっているとお父さんが現れて、
「これ、美味いんだぞ。食ったか?何だ、食べてないのか。今やってやる」
「いや、お父さん、いいよ」

赤い、にんにくのような形の球根みたいなたまねぎ。
紫の筋が入っている。冷蔵庫のたまごを置くところに乗っかっていて。
それには手をつけずに、そのまま冷蔵庫の中を見ると、
ああ良かった。チョコレートケーキ。
半分位抉り取られて、真ん中から食べたんだな、スミ。
作り方おかしくて、シェフの腕の見せ所のいろいろな濃さの配合のチョコレートソース。
まんべんなく、少しずつグラデーションしてチョコ色を織り成していくはずが、レシピではそうなっているんだけど、その通りにしても薄すぎたみたいで、上手く折り合いがつかない。
味見もしてないからどうかなと思いつつ、一応、ティラミス風に焼き皿に入れてラップして冷蔵庫に入れておいたけれど、
食べてくれたんだな。スミ。
スミは朝一でシャワーに駆け込み、俺に寝起きの汚い顔を見せないようにして。
顔をあわせるまえに。
最後くらいは綺麗な顔でおはようを。
俺の自宅。俺はひとり、スミは上で寝て。
スミは夜遅くに帰ってきたらしい。
全然気づかなかったけれど。
もう俺は遅いんよ。
新しい彼女と付き合う事になって。
でも、どっちを選ぶ?
っていったら名残惜しいな。
湯上りスミ。洗い髪をしたたらせて。
肌のうぶな匂いが湯気に乗って鼻に来る。
首の開いた黒いTシャツ。
なまめかしい首から胸元にかけては白いタオルをかけている。
ほおが血気良く熟れた桃みたいに白肌と赤色のバランス。
こんな近いからだの距離。
俺のふところ、こんな間合いにスミが立つのもこれで最後。
この朝は、二人にとって、どういうひとときであるのだろうか?
ほおを摺り寄せるのがいいのか?
スミに対して感じる初々しさ。
それが、さびしい。
この朝は、とても洗われたようにすーっとしている。
すかしている。神様。
すがすがしい。うすい、うすい。
力が抜けて、抵抗感がない。
二人の肌は垢にまみれない。鈍くない。
この朝は、はじめての朝だ。
二人に朝が訪れた。
二人の夜はもう終わり。おはよう。
貞節なスミ。節度。
スミのこえ。さよなら、スミ。
スミの肌触り。俺のケーキ。
えびせん。
えびは二種類区別して。まぜないで。
二の腕オリンピック金メダル。
たぷたぷして。ふわりとして。
スミはうつむいて、
もう、俺のことを、見ない。スミの目は、
俺の姿を確認しても、それは物理的に、
道に散らばる石を見るように、
同等にそのように見る。
見えるけれどみえてない。みない。
目が、決定的に。
ひとつの会話がさらさらしている。
さらさら さらさら
夜が明けたら


19 チョキ、傷


夜明け前の自室、薄闇の中で誰だかわからない女性と交わっている。
ん、ん、ん、あえぎ声が次第にリアルなものになっていく。
はじめは馬鹿にしたように、あっはーん、ああ、とかだったのに。
そして、女性の起伏を軽くひとつまみこすったら、手で制止してくる。
しかしかまわず起伏のみを繰り繰りと転がしていく。
と、部屋は明かりが落ちてるんだけど、暗視カメラで見ているような少し霞みがかった視界の中で、女性の下肢の方からいきおい、水の塊が投げ込まれるように、何かがボワンと顔面にかぶってくる。
バレーボールくらいの大きさで、来た、と思ったのに後に残らない。
嘘ものだったのかしらんと続けて繰り繰りしていくと、ごぼっ、ぶほっ、と、もう、とまらない。大放出。
何か繊細な繊維質のようなきれきれしたものが混じって、コーンビーフを液体に溶かし込んだような残留物。
かのように、一切は一斉に生起している。スポーン。
秘密の具合は、入るかなと指を差し入れてみるとそれをきっかけにしてか、さらにとまらずにどふっどふっと塊が。
秘密はもう全開になって、しかし、入れるより先に全部あふれてしまったようで、女が先を制して抱きしめに覆い被さってくる。
いけないんだからもう、と、くやしいような、かみ締めたような顔をしているように感じた。
その溢れ出したものは、もう、量からして身体全体ひっかぶって、布団含めてびじょびじょになっているはずなので、目を開き、明かりをつけようとすると、とめられる。

「見ないで。自分で処理するから」

汚物なのかな。それにしては透明な肌触り。でも生理的な質……
どちらにしても恥らしい。

繰り、繰り、は、変化した、スミでした。
さとられたくなかったらしく、でも、おとずれたのか。繰り繰り。
暗いのだけど、次第に暗闇がぼやーとしてくる、目が慣れてきて、ものの輪郭がヤスリでも細かくペーパーされたように浮かび上がってきて。
生質くらった。女性はスイッチが入るというか、ある境からそういうもののようになる。
肉が確かなボリュームを持ちだして、張りを持って弾み、覆い被さってくる。
もう、勝手に肉が動いているようで。
その感触を、おぼえていたのかも。怖かった。


「いんちきいんちき」

俺はチョキ。
自分の手を交差させて組んで、その隙間を覗いているのは、その隙間に相手の出目の影をうつしてばればれの寸法。
俺がチョキしたら相手はキュウリもちらつかせて。
すべて使い切るまで勝負続けなくちゃ、
やったんねん。

……
からだのきずは かんちした
かんちしたきずは 
このあとどこへいくのだろうか

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