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好きなものを好きだと言い続ける。
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小学生の頃、運動が苦手で、とびぬけて勉強ができるわけでもなかったけど、ひとつだけ楽しい授業があった。
国語、とくに作文の授業。
「せんせいあのね」で始まる「あのね帳」というノートに日々の出来事を綴っていく作文が大好きだった。うっかり地元の新聞に載ったこともあった。
アナウンサーやリポーターに憧れた時期もあったけど、関西弁訛りでニュースは読めんし、やっぱり書く方がえぇなと軌道修正。なんとかどうにか某業界紙の会社にバイトで潜り込んでからなんどか転職して今に至るまで、ずっと「編集」と書かれた名刺をもって仕事をしてきた。
最初に勤めた会社の上司には「おれたち(の部署)は何でも屋だからな」と育ててもらった。
データ回収&入力、色校や掲載紙のお届けがギリギリそれっぽい仕事。電球の取り換え、フリーズしたパソコンの後片づけ、トイレ掃除、文房具の在庫管理、年賀状の切手貼りにゴキブリ退治……これは仕事ちゃうな(笑)
就職氷河期真っ只中。未経験でも採ってくれたことに感謝して何でもやろうと思っていた。
おかげで与えられた業務で「その仕事、ウチ(編集)の仕事ですか?」と思うことは今も昔も一切ない。
ずっと下っ端で働いてきたせいもあるのか、知らず知らずのうちに上司や先輩(とくにオッちゃん)をうまいこと使って仕事をまわすことを身に着けた(私はこれを「オッサン転がし」と呼んでいる)。
今の仕事は編集というより進行管理。記事広告が主だけどこのご時世、広告がどんどん減って、束のダイエットが止まらない。
広告減少に追い打ちをかけるかのように、書店の閉店や扱い取りやめの書店も増えた。
それでも毎号発売日には書店へ挨拶まわりに出かける。
忙しく作業されているところを声がけするのは、何年やってても申し訳ないというか、売れてないから気が引けるというか。
それでも毎回笑顔で迎えてくれる書店員さんもいて、会うたびにとてもあたたかい気持ちになる。こういう人から買いたいと思わせてくれる。この人がいる書店さんは大丈夫だと信じたくなる。
2カ月前、そんな挨拶まわりで訪れた書店の外のベンチで見覚えのある表紙をめくっている人がいた。あれ?と思って二度見した。
弊誌だった。
買ってくれた人を初めて見かけたうれしさより、数ある中でウチを選んでもらって、そこまで価値があるものをちゃんと作れたかなと不安になった。背中がぶわっと熱くなった。
雑誌なんて生きてくうえで絶対ないと困るものでもない。だからこそ誰かに選ばれて、その人の生活に少しでも役立てたなら、私のやってきたことは無駄ではなく「仕事」なんだと思える。
まだ選んでくれる人がいる。
ここ数年、ずっともやもやしていたものが少し晴れた瞬間だった。
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そしてこの仕事を続けさせる力になっているのがこれ。
2016年テレビドラマ化されたときに出逢って、即行コミックを買いに走った。この2月に最新14巻が発売されたばかりだ。
舞台は出版社の漫画雑誌の編集部。独特の業界だけど、すべての「仕事人」に通じるストーリー。
逆境の時、どう考え、どう振る舞うのか。
誰のために何のために働くのか。
自分の正義が通じない理不尽さと向き合いどう生きるのか。
刺さるセリフがたくさん出てくる。
憧れと共感が詰まったバイブル。
付箋はハッとした場面につけていて、時々ランダムに手に取って付箋のところを開く。おみくじのように。
この言葉が響くなら、まだ頑張れる。そう思って本を閉じる。
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会社の不安定さから去年までは何がなんでも転職しなくちゃと思っていたけど、今年に入ってから少しずつ考えが変わってきた。
今ある場所で最後まで最善を尽くす。責任を果たす。その先にしか道は開かれない、そう思うようになった。
面接で転職理由を聞かれても、今は一人暮らしできるくらいの給料がほしいとか、親に心配かけず不安なく健康に働きたいということしか浮かばない。前向きな理由が出てこなくて、うまく答えられなくて泣いたこともあった。
なぜ前向きな理由が出てこないのか。まだ今の場所でちゃんとやり切れてないからじゃないかというのが現状の結論だ。
もしダメになっても私は最後までがんばった、最善を尽くしてあきらめなかったと思いたい。そこからでないと次、どの道を歩めばいいか今の私にはわからない。
ため息でおぼれそうな時、会社のデスクにそっと置かれている手紙に目をやる。
読者参加ページに出てくれた方からのお礼の手紙。
ちっとも売れてない無名の雑誌なのに、手紙を書くほど喜んでもらえた。視界に入るたびに「たったひとりでも喜んでもらえるものを作っているか?」「手紙の主に恥じない仕事をしているか?」と自分に問いただす。
この手紙はやりきれない、投げ出したい気持ちを寸前でとどめさせてくれるお守りでもある。
私は好きなものは好きだと大声で言いたい。クリエイターさん、メーカーさん、職人さん、私の好きを生み出してくれた人にありがとうの声を届けたい。SNSで手紙で、感謝と応援を言葉にし続ける。それがまたいい仕事を生み出す力になるはずと信じて。
私の仕事は、誰かが好きを見つける手助けをすることです。
って言えるようになりたいなぁ。