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「物の向こう側」を伝えたい私が、役に立てること【HP・リーフレットの執筆】

きっと仕事にはならない、と思っていた。

以前、ライターという仕事への想いを書いて、こんなことが書きたい!と綴ったとき「とはいえ、仕事になるんかなあ……(たぶん、ならないよなあ……)」と思いながら書いていた。

彼らの人生に、大きなニュースやドラマチックな出来事があるわけでもない。ただ「作ること」が彼らの「働き方」であるというだけ。それは彼らの人生の一部であり、大切な仕事であり、家族を養うための稼ぎでもあるということ。そんな当たり前のことを伝えたいと思うのは、仕事にはならないのかもしれないなあ、とも思う。

だって、世の中は「おもしろいもの・珍しいもの」の情報で溢れかえっていて、働く人の日常や想いを書いてくれ!なんて言われることは、そうそうないだろうと思っていたのだ。


だから、一通のメールをもらったとき、心底驚いた。

「僕たちのブランドや商品の裏側にある思いや人をもっと紹介したいと考えています。文章のご相談できますか?」

連絡をくださったのは、以前「さんち〜工芸と探訪〜」で取材させていただいた「000 (トリプル・オゥ)」というブランドのデザイナー、片倉洋一さんだった。

トリプル・オゥは、群馬県桐生市で145年の歴史を持つ刺繍の会社が立ち上げた、アクセサリーブランドだ。

帯などの織物から始まり、これまでファッションブランドの刺繍を手掛けてきた株式会社笠盛が始めたアクセサリー。商品がとても素敵で機能的なことに加えて、私を虜にしたのはそこで働く人たちだった。

歴史は大事にしながらも、時代や人に合わせて変わることを恐れない姿勢。桐生という地域で、ものづくりを担っていくことへの責任感。何より、その柔らかな雰囲気とものづくりへの本気度に「この人たちが作ったもの、推せる……!!」と勝手に興奮して、取材と執筆をした。


ご相談の内容は、「000 (トリプル・オゥ)」のホームページリニューアルにともなって掲載する文章の作成。会社の歴史、商品の魅力、そこで働く方々の人柄を言葉にしたいと思っていたときに、私を思い出してくださったのだそう。名刺の裏面に書いた「物の向こうにいる人を伝えたい」という想いを見てメールをくださったとのこと。(号泣)

嬉しくて嬉しくて、すぐに夫に報告した。「私がやりたいことも仕事になるのかもしれない!役に立てるかもしれない!」と。

もうすでに工房に足を運び、実際にみなさんにお会いしていたこともあって、今回はオンラインで何度か話し合いを行なった。取材をして一本の記事を書くのと違い、想いを何度も繰り返し伺いながら言葉を重ねていくのは新鮮だったように思う。「一緒に言葉を作っていく」という感覚が、とても楽しかった。

この作業を通して私自身もますますブランドが好きになり「どうすればこの魅力が伝わる?」と、見せる順番・書く内容・伝え方、などを試行錯誤していった。時には片倉さんや作り手さんたち自身に言葉を生み出してもらって、私が客観的に編集させてもらうという形も取った。こうして出来上がったのが、ABOUT 000のページ。

「技術と発想で、日常を豊かに」

刺繍は、職人の高い技術だけで完成するものではない。
そう、私たちは考えます。
かつて、母が子を思い産着にほどこした「背守り」と同じように
一針一針に想いを込めて初めて『刺繍』は仕上がるのです。

140年前から続く帯づくりと、今のアクセサリーづくり
形は違っても、使う人のことを思い、針に込める「思いやり」は変わりません。
笑顔あふれる日常こそ、私たちが作りたいもの。

技術と発想、そして想いであなたの日常を豊かに。
「ABOUT 000」ステートメントより

ステートメントを言葉にし、明治時代から続いてきた会社の歴史、商品の誕生秘話、ブランドに対する想い、そこで働く人たちのことを文章にしていった。

2010年6月、インテリアライフスタイル展に、初めて「000(トリプル・オゥ)」として出展。当時はアクセサリーのみならず「既成概念にとらわれない刺繍ブランド」として、さまざまな物を作っていました。

ずっと追い求めていたのは「自分たちらしさ」と、それが一番お客様に喜んでもらえる形。私たちだから作れるもので、誰かの日常を彩る、そんなものを探し続けていたのです。
「ABOUT 000」より
「立体の刺繍なんて、無理だよ」

長年、刺繍を極めてきた職人たちに、このデザインはなかなか簡単には受け入れられませんでした。これまでやってきた仕事とは全く違う、新しいものに対する不安は大きかったと思います。

それでも、試作を繰り返し、工夫を凝らし、なんとか完成したスフィア・プラス。「無理だ」と思っていた立体の刺繍を、想いと技術で実現させたのです。このときから、私たちの中で「できない、だけど作りたい」は合言葉になりました。今の自分たちにはできないデザインであったとしても、お客様に届けたい一心で技術を高めていく。その原点が、スフィア・プラスなのです。
「『発想』から生まれたアクセサリーたち」より

その後、ここで一緒に作った文章を編集して、リーフレットの文章も担当させていただいた。嬉しい。

「物の向こう側にいる人を伝えること」が、作る人・使う人の両方にとって幸せな日常や未来をつくるはず!と信じて、言葉を紡いできた。

作る人にとっては想いが言語化され、仕事が伝わることで自分の仕事がもっと好きになる。使う人にとっては「あの人がこんな想いで作ってくれたんだ」と使うたびに嬉しくなる、大事に長く使いたくなる。そうなれば、大量消費だってなくなるかもしれない。

だから今回、取材記事という形以外で「物の向こうにいる人たち」を伝える機会がいただけて、本当に嬉しかった。トリプル・オゥのアクセサリーを作る人たちも、身に着ける人たちも、ふと思い出すような文章が書けていたらいいなあと、心から思う。

片倉さん、トリプル・オゥのみなさん、ご依頼いただき本当にありがとうございました!短い期間でしたが仲間に入れていただけて、嬉しかったです。


少し話は変わるかもしれないけれど、最近関わらせてもらう仕事に「作る人と使う人を近付けたい」というものが増えてきた。食や農業、伝統工芸など分野はそれぞれだけど、思いは共通しているように感じている。

もしかして、私がしたいことは、探せば需要がちゃんとあるのかもしれない。誰かの日常を、声を、小さくともしっかりと届けてほしいと言ってもらえるのかもしれない。見えた希望を形にすべく、これからもブランドや商品、場所、ことを作っている人たちの想いを届ける仕事をしていきたいなあと考えている。

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