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「書けないこと」について書いておく

文章が書けない。イケてるフレーズも、適切な単語も出てこないし、伝わりやすい構成なんて考えることすらできない。

ライターなのに、曲がりなりにも「書くこと」を生業にしているはずなのに、私は書けなくなってしまった。

それもこれも、私の胎内に命を宿し、私の食べたものを食らい、私が生み出した血液をこれでもかと持っていく胎児のせいだ。そうなのだ、そう思いたい。

お腹の大切な子どもに自分の能力が低い責任をなすりつけているような気がしていたのだけど、「なんだかうまく書けなくて…」と相談したら、先輩ライターさんや編集さんは「わかるよ!私もそうだった!」と言ってくれた。みんながみんなじゃないけれど、そういうことってあるみたいだ。

私がnoteを書くのは記録のためなので、これも一応書いておくべきだろうと筆を執った。「書けないこと」について、今日は書いてみる。構成などは知らぬ。

自分がこうなるまで、特に誰も「こんなふう」になっちゃうなんて教えてくれなかったな、と思う。もしくはみんな、「自分ができないだけかも……」と思っているだけなのかもしれない。このnoteを読んで、未来の妊婦が自分を責めたり落ち込んだり無理したりしないことを祈りつつ――。

なんか「ノらない」は自分にしかわからない

妊娠中は、悪阻という地獄みたいな日々があることは知られているけれど、実はそれ以外にもいろいろなマイナートラブルがある。わざわざ言うほどじゃないけれど、地味につらい……みたいなやつ。

胸が張って痛いとか、腰が痛いとか、足がむくむとか攣るとか、頻尿になってくしゃみで尿もれするとか、恥骨という股間の骨が痛いとか、すぐに息が上がってしまうとか、胎動が激しくて苦しいとか、胃液が喉まで上がってくるとか、めちゃくちゃ疲れやすいとか。

これは全然ない人もいるし、程度は人それぞれなので、みんなに起きるわけじゃない。けど上で書いたのは、とりあえず今の私に起きている、全部。人間の身体、もう少し妊娠に合わせて進化してほしい……。

それらは確かにしんどいのだけれど、結構症状としてわかりやすいので「妊娠あるある」として対処しやすいと思う(我慢するしかないんだけど、精神的に)。

さまざまなトラブルのなかで私が一番苦しんだもの。それが「脳が動かん/なんだかノらない」という、言葉にも数値にもできない感覚だった。

こんなに仕事できなかったのか、と

なんだかぼーっとするような、脳内にモヤがかかったような、エンジンが落ちてしまったような。そういう感覚が、書くべき原稿を前に現れるようになった。

最初は「なんか今日はうまく書けないな」という感じで、睡眠不足やリサーチ不足、単純に気分の問題かもなんて思いながら必死に脳みそを絞って書いた。でも、出来上がった文章を見ても、なんだかしっくり来ない。自分らしくない。

さらに「書けない」だけじゃなくて、「うまく喋れない」「うまい切り返しができない」「言葉が出てこない」という現象もあった。友達と話しているときに気の利いたことが言えなかったり、ミーティングで言葉がまとまらず焦ったり、インタビュー後に「もっとうまいことできたのでは」と落ち込むこともあった。

妊婦だからなのか?と頭をよぎる。それとも――?

「自分の文章力なんて、結局は大したことないんじゃないか」「最近インプットやアウトプットを怠っているから」「ただ単純に、仕事ができない言い訳をしている」

ネガティブな考えがむくむくと湧いてきて、必死に書く。書けない。だんだんと「書きたい」という気持ちすら、湧かなくなってくる。私、もうライターやっていけないのでは……。

書けてますよ、と職場の人や編集さんたちは言ってくれた。でも私の脳みそから「モヤ」は消えなかった。むしろ霧は濃くなるばかり。いろんなお仕事で編集してくれた編集さんたちがいてくれて、ようやく人前に出せるものが完成したと思う。プロなのに…と情けなかった。

未来の妊婦たち、気楽にいこうな

そんなとき、子どもがいる編集者さんが「私も、妊娠中は全然仕事ができなかったです」と連絡をくれた。あるライターの先輩は「全然書けなくて苦労した」と教えてくれた。ある人は「だって、身体のなかで人間を育てているんだから当たり前だよ!」と言ってくれた。

そのとき自分を許せた、というか「じゃあ、しょうがないか~」と思えた気がした。

冒頭のマイナートラブルのときにも書いたとおり、悪阻を始めとした妊娠中のコンディションは妊婦によって大きく違う。私も1人目のときはほとんど何も問題なく、ピンピンしていたもの。

だから2人目で疲れやすくて寝てしまったり、書けなくなったりしたとき、「気合が足りない/甘えている」みたいな精神論を自分に課してしまっていたのかもしれない。元気な妊婦、相変わらず仕事がバリバリできる妊婦がたくさんいるのに、私ってやつは!と。

でも、違った。もっと妊婦である自分を甘やかしてもよかったのかもしれない。生きてるだけで、お腹の子を生かしているだけで偉い。身体がこんなに変わっていくのだから、前と同じように書けないことも当たり前。

なんだかそれを他の人にも伝えておきたくて、そして私自身の記録として残しておきたくて、「言い訳してる」と思われる覚悟でこれを書いておくことにしたのだ。

でも、どうしよう。こんなふうに書いておきながら、妊婦が終わっても同じように書けなかったら……なんて不安に思うところも私らしい。

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