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「走れメロス」(『太宰治短編小説集』より NHK)

忙しい先生のための作品紹介。第51弾は……

「走れメロス」(『太宰治短編小説集』より NHK 2010年)

対応する教材    『走れメロス』
上映時間      25’00”
原作・史実の忠実度 ★★★★☆
見やすさ      ★★★★☆
レベル       ★☆☆☆☆
生徒へのおすすめ度 ★★★★★
教員へのおすすめ度 ★★★★☆

作品内容

 本作は、小説の『走れメロス』に出てくる言葉はそのままに、朗読・役者の演技・CG映像でアレンジを加えた映像作品です。原作の『走れメロス』は中学校の定番教材で、暴君ディオニスに反発して一度捕らえられた主人公のメロスが、妹の結婚式に出るために友人セリヌンティウスを人質に置いて、3日後に暴君の元に戻る約束を果たす物語です。内容も原作に比較的忠実であり、セリヌンティウスの弟子であるフィロストラトスが、間に合わないから走るのを止めるようにとメロスに言いに来るところ以外はそのまま取り入れられています。

 実写版キャストは、メロスを森山未來、暴君・ディオニスとナレーションを田中泯、対話部分の落語調の語りをモロ師岡が務め、正義を貫くメロスの物語を彩ります。また、原作の地の文に当たる箇所では静かで力強い語り、対話部分では落語調の語りと、原作の言葉を異なる形式の語りで聞くことができるところが面白い作品です。

おすすめポイント 軽やかなメロス

 本作は朗読劇に映像と無声の芝居がついたような作品で、役者同士が長く台詞を交わす場面はほとんどありません。特に主人公を演じる森山未來にはほとんど台詞がなく、CGで作られた襖がころころと入れ替わる舞台の上で、言葉を発さずに演技をします。さらに、彼の衣装は黒のスーツに赤いネクタイというサラリーマンのような服装や落語調の語りも相まって、文学作品を現代風にアレンジした演劇を見ているような感覚にも陥ります。

 演出面だけではなく、役者陣に目を向けても舞台で活躍する俳優が集まっていることが分かります。主演の森山未來は多くの舞台にも出演するダンスの評価が高い俳優、ディオニスを演じる田中泯も舞踊家としても非常に名高い俳優です。特に森山は本作の劇中でも、語りの「好きな小歌をいい声で歌い出した」というところで、歌わずにクラシックバレエの動きをします。個人的には、原作を読んだときに抱いた屈強な男性像とは異なる軽やかな動きに新鮮さを感じました。

 このように、原作の言葉を使いながらも文字で読んだときとは異なる印象を持てる面白さに気付けることも、この作品のおすすめポイントです。

活用方法

 本作の特徴は、原作の内容面はもちろんのこと、言葉もほぼそのまま使用しているところです。さらに25分という授業時間内に十分見られる長さであることからも、『走れメロス』の学習後に内容の振り返りとして見ることをおすすめします。もちろん原作を読まずとも理解できるので導入としても扱える作品ですが、小説として読んだ後の方がより楽しめる映像だと思います。

 おすすめポイントでも触れたように、本作は原作で読んだときとは異なるイメージの登場人物に気付いたり、異なる感想を抱いたりする可能性を持つ作品です。そのようなポイントの発見が、原作のどこを読んで元のイメージや感想を抱いたのかを考えることにつながり、原作を読み深めるきっかけにもなるのではないでしょうか。

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