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『百人一首 うたものがたり』(水原紫苑)

忙しい先生のための作品紹介。第12弾は…

水原紫苑『百人一首 うたものがたり』(講談社現代新書 2021)
対応する教材    『百人一首』
ページ数      221ページ
原作・史実の忠実度 ★★★☆☆
読みやすさ     ★★★☆☆
図・絵の多さ    ★☆☆☆☆
レベル       ★★★★☆

作品内容

現代歌人の水原紫苑が、『百人一首』について各首見開き1ページで解説した一冊。解説冒頭では歌本文や歌が詠まれた状況、作者などの基本情報が説明されています。このような『百人一首』解説書の最低限を押さえた上で、歌についてのトピックを立て、歌人ならではの視点で鑑賞されています。鑑賞には、紹介されている歌の本歌や、作者の他の著名歌、関連する現代短歌までさまざまなものが登場します。引用されている古典本文にはすべて訳がついているのも、嬉しいところです。

おすすめポイント 現代歌人と読む百人一首

 本書を読んでまず大きく目を引くのが、歌人ならではの視点で解説している点です。研究者のように作品を客観的に見るのではなく、和歌(短歌)を詠む者として、作者と同じ目線に立って鑑賞しています。「公任が現代にいたら、認めてもらえるかどうか、どきどきする」「ここは基俊に味方したい」「こういう人がそばにいたら、同情して深みにはまり込んでしまいそうな自分が怖い」などと、実際の歌人と会話をしているかのようです。自分からは遠い存在と感じてしまいがちな古典の世界を、自分と同じ目線で語る著者の姿勢には新鮮さを覚えます。

 また、もう一つの特長は関連トピックの豊富さです。各歌の本歌、歌合の番い、贈答歌の相手などを紹介するのみならず、能などの舞台、塚本邦雄、寺山修司などの現代歌人の関連歌と、その方向性は多岐に及びます。『百人一首』をそれ単体で見ず、さまざまな文芸作品と比較することで、それぞれの歌に込められた思いや表現方法が普遍的であったのだと気づかされます。


授業で使うとしたら

 『百人一首』そのものの解説よりは、内容を読解した後の活動におすすめです。
 例えば、「ながらへば…」の解説には岡井隆「年月はさぶしき乳を頒てども復た春は来ぬ花をかかげて」という一首が紹介されており、似た発想の古典和歌と現代短歌をあわせてよむことで、新科目「言語文化」で目指されているような、古典と現代文のつながりを意識するような授業も考えられます。
 また、能では「たれをかも…」では『高砂』が、「恋すてふ…」では『班女』が紹介されており、伝統芸能を授業で扱う際にも役立てられそうです。

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