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横山明日希『愛×数学×短歌』

忙しい先生のための作品紹介。第59弾は……

横山明日希『愛×数学×短歌』(河出書房新社 2018)
対応する教材    短歌
ページ数      190ページ

読みやすさ     ★★★☆☆
レベル       ★★☆☆☆
生徒へのおすすめ度 ★★★☆☆
教員へのおすすめ度 ★★☆☆☆

作品内容

 2016年4月にTwitter上にて、「愛と数学の短歌コンテスト」が開催されました。このコンテストは、「数字と愛をテーマにした短歌」を募集したもので、恋愛での心境を数学に喩えて詠んだ短歌が多く集まりました。本書はその応募作品を中心に、短歌集としてまとめたものです。全部で121首の短歌が「出会い」「告白」「順風満帆」「突然」「別れ」「再会」「その後」と章別に整理されて載っています。この配列は、恋人が出会ってから別れるまでの物語となっており、第一章から第五章までは、勅撰和歌集の恋一から恋五の部立てを彷彿とさせます。

 本書はただ短歌が羅列されているだけでなく、各章の冒頭には、澤田恭平と北村梨花という、二人の主人公のやりとりが小説仕立てで書かれています。これがあることで、より一冊全体が物語として読みやすいくなっています。

 さらに、それぞれの短歌には、数学的な解説が簡単についており、その短歌の勘所がわかるようになっているのも、嬉しいポイントです。 

おすすめポイント 理系に薦めたい数学短歌

 国語の中でも、短歌はなかなか生徒にその魅力を伝えるのが難しいのではないでしょうか。特に理系の人からは共感が得られにくいかもしれません。しかし、数学で愛を語るこの短歌は、教科書に載っているような短歌とはまた別の魅力があります。

  微分してたとえ同じになろうともCの分だけすれ違っちゃう(P102)
  あなたへの裂ける想いの証明に時の余白は足りなさすぎて(P86)
上の二首は、微分・積分やフェルマーの最終定理にまつわる逸話を知っている人には短歌の意味がわかります。短歌の多くは、情景を詠んでそこに心情を込める、というものですが、これらの短歌は、数学的な比喩を用いて心情を表現しています。普段は交わらない恋愛と数学を、短歌という形式で表現することの面白さが本書の魅力です。数学が好きな人にこそ伝わるニッチな短歌に、興味をくすぐられる人もいるかもしれません。

 短歌自体も難しいものばかりではなく、
  四捨五入して繰り上げた思いでも構わないから好きと言ってよ(P54)
  恋愛は掛け算だよねどちらかの想いがゼロになったら終わり(P115)
のように、わかりやすい短歌もありますので、自分が共感できる一首を探してみてください。 

活用方法

 先にも述べたように、理系の人に特におすすめの一冊です。中学生でも理解できる短歌もありますが、高校数学(あるいはそれ以上)の内容も多く含まれるため、高校の言語文化や文学国語で利用することをおすすめします。
授業で短歌を扱う際、せっかくなら生徒が興味を示しやすいものを提示したいと思う先生も多いのではないでしょうか。もちろん、理系だからと言って数学についての短歌が好きになるとは限りませんが、教員としてはこのような選択肢を持っておいてもよいのではないでしょうか。


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