『海水浴場と雑司ケ谷霊園』(たびせん・つなぐ「夏目漱石『こころ』を読み直す―病と人間―」)
忙しい先生のための作品紹介。第45弾は……
小森陽一「『夏目漱石『こころ』を読み直す―病と人間―』第1回『海水浴場と雑司ケ谷霊園』(オンラインで“つなぐ”小森陽一さん文学講座)」(たびせん・つなぐ 2020年)
対応する教材 『こころ』
上映時間 57:16
原作・史実の忠実度 ★★★★☆
見やすさ ★★★☆☆
レベル ★★★★☆
生徒へのおすすめ度 ★★☆☆☆
作品内容
文学者・小森陽一氏が、『こころ』についての公開講座をYouTubeで行っていたものです。『こころ』には、さまざまな病が登場して人々を翻弄していく様子が描かれています。本講座は、新型コロナウイルスが流行し始めた2020年に開かれたものであり、現代を生きる私たちも悩まされている病という存在が、『こころ』の中でどのように描かれているかをテーマに据えています。
講座は全4回で、それぞれが1時間程度の長さです。『こころ』の本文を部分的に読み上げたのちに、その箇所について歴史的な背景をふまえた分析がなされています。
第1回の本動画は、『こころ』の上巻の第1章~第5章についての分析です。「先生」と「私」の出会いについて、鎌倉が当時どういう場所だったか、海水浴場がどのような役割を持っていたか、などの観点から解説がされています。
おすすめポイント 時代背景を基に『こころ』の上巻を分析
『こころ』は、有名かつ解釈の余地が多分にある文学作品であるがゆえに、多くの解説書籍や動画が存在します。しかし、より説得力のある情報を得ようとすると、どれを選べばよいか迷ってしまうこともあるのではないでしょうか。本動画では、近代小説の研究を行い、夏目漱石に関する書籍を複数手がけている小森氏による解説を、YouTubeで手軽に見ることができます。文学研究の立場から、どのような分析がされているのかを知りたいという方には、本動画は一見の価値があります。
また、本文を読み上げて引用しながら、『こころ』の舞台となる明治時代末期の状況も解説に取り入れられているのが特徴的です。例えば11’13”~20’02”では、「海水浴」という言葉が明治時代に西洋からもたらされた言葉であることを取り上げています。『こころ』で描かれている明治時代という設定に入り込みやすくする仕掛けになっていることなどが紹介されています。この動画を見ることで、作品に関する周辺知識を得ることができるのもオススメしたいポイントです。
活用方法
本動画は、上巻全体の概要を説明するものではないため、あらすじを知るために授業内で流すという方法はあまりおすすめできません。しかし、上巻全36章のうち1〜5章のみを取り上げて詳細に説明しており、本文の読みを深めるのには適しているでしょう。
教科書の『こころ』の掲載箇所は、下巻の「先生と遺書」のみですが、授業では内容紹介として作品全体を取り扱う先生も多いのではないでしょうか。本動画は、先生自身の教材研究や、『こころ』を文学研究の立場から専門的に学んでみたいという生徒への紹介用動画としての活用方法が考えられます。
本動画をおすすめしたいのは、授業では詳しく扱わないために、読み流してしまいがちな上巻を深く知りたいという方です。中でも『こころ』に関する時代背景などの知識を得たい方に、特に見ていただきたい動画です。
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