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3年越しのプロジェクト『世界を驚かせたスクラム経営 -ラグビーワールドカップ2019組織委員会の挑戦-』の出版決定に寄せて

ついに3年越しのプロジェクトが実を結ぶ。

『世界を驚かせたスクラム経営 -ラグビーワールドカップ2019組織委員会の挑戦-』が9月7日に出版される。フランス大会の開幕戦(9月8日)にギリギリ間に合う形となった。

著者は、名著『失敗の本質』で有名な野中郁次郎名誉教授、そして野中先生と一緒に『野性の経営』を書かれた川田英樹教授だ。(なお、私自身も僭越ながら、「執筆・調査協力」チームの一員として、書籍の最後に名前を連ねさせて頂いている)。

(7月末時点でAmazon上に書籍画像がないことから、ギリギリ感が伝わるかもしれない…)


本書は、物語り編と洞察編の2部構成になっている。

目次の抜粋 

第一部では、前例のないプロジェクトで実際にどのような苦難があり、それを乗り越えたか、が描かれている。そして、第二部ではラグビーワールドカップという事例を「多様なメンバーと期限通りに確実に成功させる必要がある前例なきプロジェクト」に昇華させ、何が実践知だったのか、なにが学びだったのかを洞察している。

ワールドカップ、という特殊なプロジェクトに取り組む人はそこまで多くないかもしれないが、「多様なメンバーと期限通りに確実に成功させる必要がある前例なきプロジェクト」は至るところに存在しているはずだし、そういったプロジェクトの渦中にある人に、ぜひ読んで頂けたら嬉しい。

また、もうすぐラグビーワールドカップ2023フランス大会が始まる。フランスは二度目の開催でもあるため、きっと違う苦難があったと思う。ぜひチーム・選手の活躍もそうだが、事前に本書を読んでいただければ、舞台裏に想いを馳せながら別の楽しみ方ができるかもしれない。(加えて、書籍の中でも参考にさせていただいた「舞台裏の真実」もぜひ見ていただけると更に解像度が上がるはず)

区切りでもあるので、「野中先生の著作に対してお前誰やねん」というツッコミを受けるのを覚悟で、このプロジェクトの発起人として、これまでの経緯について記録も含め、ドキュメントを残しておきたいと思う。そしてあわよくばこれを読んだ人が予約注文してくれたら嬉しいな、と思う。

はじまり

このプロジェクトは危機感から始まった。ラグビーワールドカップ2019が終わり、自分の任期も終え、次の仕事を始めていたある日、まだ清算業務に関わっていた同僚(書籍にもでてくる内田さんと藤居さん)から声をかけていただいた。

「ナレッジトランスファーが残って、ワールドラグビーに提出しなくちゃいけないんだけど、人手も足りないし手伝ってくれない?」といった軽いトーンだったと思う。快諾した(が、かなり大変だった)

自分は大会の終わりを、自分は幸運にも決勝戦の横浜国際競技場で迎えることができた。そう話すと、「素晴らしい経験をしましたね。成し遂げた瞬間どんな気持ちだったんですか」とご質問いただくことが多い。

振り返ってみると、大会が終わった瞬間の感情は「ほっとした」というものだった。そもそも自分は一部のパートを担っただけだし、達成感も何もなく、決勝戦が終わった横浜国際競技場のスタジアムでふわふわした気持ちで一緒に働いたメンバーと写真をとった。

『大会の成功はワンチームで成し遂げた成果』と書いてしまうと非常のおさまりが良いが、色々な苦難があった。大会の直前まで会議の場が紛糾することも少なくなかった。自分自身もスポーツイベントは素人だったため、多くの人に迷惑をかけた(生意気な口を聞いて、迷惑をかけた皆さんごめんなさい)

この国際スポーツイベント、という大きなプロジェクトの中で多くの人が苦しみ、失敗した。最後の最後まで悲惨に終わる可能性も残っており、まさに薄氷の上に成り立った成功だった。

だから、「ナレッジトランスファー業務を手伝ってほしい」という声がけがあった時、日本にも何かレガシーを残せないか、という想いが、湧き上がる感覚があった。特殊なプロジェクトではあったが、こういった不確実なプロジェクトはどこにでも存在しうる。特に「人と組織」に焦点を当ててきちんとまとめたい、という想いがあった。

「ナレッジトランスファーの業務の地続きで、アカデミアの方と研究したいから役員会でも決議とってほしい」とペラ紙1枚を作り、声をかけてくれた藤居さんに渡した。「万事成功」として終わったプロジェクトの負の側面を掘り出すような作業にもなるかもしれず、多少なりともネガティブな反応があると思っていたが、大会終了後も組織委員会に在籍していた嶋津事務総長、そして鶴田・西阪両事務総長代理は快諾してくれ、懐の深さを感じた。

想いだけでプロジェクトは始まった。

暗礁

ドキュメントを残す上で、いろいろな人に忖度し、気を遣いすぎてしまった結果、本質が霞んでしまうことは避けたかった。そのため、単純なノンフィクションやルポではなく、客観的かつ学術的な論点を盛り込みたかった。だから、「自分で書いた文章を持ち込む」という選択肢はそもそもなかった。

そこから、ない伝手をたどり、アカデミアでスポーツ分野の研究に取り組まれている方にコンタクトした。ただ、ポジティブに反応してくださるも最終的には色よい返事は頂けなかった。いくつか事前調整のご提示を頂いたが自分自身がクリアできなかったケースもあった。

いろいろ利害関係もあるし、複雑なパワーバランスもある。そんな簡単に進まないだろうな、とは思っていたが、やはり早々に暗礁に乗り上げた。

出会い

そんな折に、(ラグビーワールドカップのときにも取材頂いた)国際開発ジャーナル社の方から電話があり「バングラデシュにおけるJICAの廃棄物管理プロジェクトをまとめていて、JICA在籍時に関わっていたと思うから話を聞かせてほしい。自分じゃなくて他の方から連絡がいくからよろしくお願いします」と言われた。

そして、そのご縁で野中郁次郎教授とともに、プログラム開発やリサーチを行っていらっしゃる川田さんにお会いすることができた。そして、野中先生にたどりついた。突然、世界の野中郁次郎に繋がったので、我ながら自分のラッキーさに驚いた。(歴史上の偉人だと思っていたので、「興奮」を通り越して、落ち着いていた)

コロナ禍に竹橋にある一橋ICSで最初にご相談した時、野中先生、川田さん、野中研究室研究員でもある川田弓子さんも含めお三方が「これは面白い。ぜひやろう」といってくださった時の心強さといったらなかった。

ラグビーワールドカップ2019組織委員会在籍の時から、何かあったら気軽に相談し、何でもポジティブに捉えてくれる佐藤さん(執筆・調査協力メンバーであり、元組織委員会職員で現在は静岡ブルーレヴスのアシスタントGM)は「ナレッジトランスファーの地続きで一緒にやろう」と言ったら、詳細もそこまで聞かず「ええで」と応えてくれた。

動き出したプロジェクト

2019年12月に構想をはじめ、2020年春先に、東京オリンピック開会式を一つの目標に目指していたこのプロジェクトは、最終的に3年以上の月日を要した。当初は「書籍」という形になるかどうかもわからない中、進めていた。

まずは当事者の声をインタビューするところから始まった。色々な業務をされた方に順次聞いていった結果、総勢29名の方に協力頂いた。忙しい中、全員がたっぷり時間を取ってくださり、そしておかわりインタビューや事実確認作業にも協力頂いた。これが第一部のベースになっている。どのインタビューも興味深く、学びの多いエッセンスばかりだったが、紙面・構成の都合上、扱いきれなかった部分もあり、一同とても心苦しく思っている。

膨大なインタビューをまとめるだけでも一大作業だった。

インタビューをまとめ、打ち合わせし、またエッセンスを踏まえて内容をブラッシュアップするという作業を何度も何度も繰り返した。それが一段落し、方向性が見えたところで、野中先生から「これは日経BPの堀口さんに相談してみよう」となった。

そこから堀口さんがプロの視点で構成にアドバイスを下さり、野中先生・川田さんによる執筆、そして執筆・調査協力チーム(弓子さん・佐藤さん・真鍋)による事実確認作業等の実施、というフェーズに移っていった。この頃は、リズムを創るために週1で会議し、作業進捗と次のアクションを整理していた。

2023年4月頃からまたフェーズが変わり、ぐぐっと進んでいった。最後は、インタビューに協力頂いた方にも必要箇所の短納期での確認を強いてしまったが、皆さん即座に対応してくださって本当に感謝しかない。

そして、なんとかフランス大会の開幕に間に合うべく、出版日が決まった。

お詫びと御礼

野中先生があとがきですべて記載くださっているので、詳細はそこに譲りたいと思うが、書籍の中で扱われた人々の力で大会が成り立ったわけでなく、あらゆる人の努力の賜物である点は強調しておきたい。本当なら、348人全員に、もっと言えば、業務委託も含め関わってくださった方全員、さらに欲を言えば日本ラグビーフットボール協会を始めとするラグビー界を支えてきた諸先輩方全員、チーム・選手に話を聞きたかったが、現実的には時間とリソースの制約があり困難だった点はお許し頂きたい。

書籍化できるかわからないプロジェクト初期には、笹川平和財団には活動をご支援頂いて、こちらも大変ありがたかった。これもJICAのご縁を強く感じた。安達さん、それ以降お会いできていませんが、本当にありがとうございました。

(当然だけれども)野中先生・川田さんには感謝してもしつくせないし、執筆・調査チームもワンチームだったと感じている。忙しい中時間が経ち、自然消滅することだってあり得た。だが毎回打ち合わせをするたびに少しずつ前に進んでいった。

そして最終的に書籍化、という企画を通してくださった日経BP堀口さん、本当にありがとうございます。

最後に

次回の日本におけるラグビーワールドカップ再開催の話もある。ただそれ以上に、この先の未来、新しい課題を解決するため、新しい何かを作り上げるため、多様な人々が協力し正解のない中で進めていくプロジェクトが増えていくと思うし、そうあってほしい。そんなとき、この書籍の中の一文だけでもいいから、挑戦する人の役に立ったらプロジェクトの発起人、そして執筆・調査チームの一員としては、望外の喜びです。

挑戦し続ける色々な人に、ぶつかり合っても前進して価値を生みたい人に、失敗を重ねても努力している人に、新たな「未来」に向けた頑張っている人に、組織を少しでも良くしたいと思っている人に、一人でも多くの人に届きますように。


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