江戸川(駄文)

外が晴れてたので菖蒲を眺めに行きました。
チャリンコで川沿いを走って、地元の人達の協力で成り立ってる近所の菖蒲園へ向かう。
平日のお昼前、河川敷には草野球のグラウンドがいくつも並んでいる。1つおきに誰かしらおじさんがいる。1人おきに上半身裸である。
なぜ平日の昼間に河川敷(とくに草野球グラウンド)にいるおじさんは半裸なのだろうか?
あのグラウンドが試合で使われない日は半裸のおじさんの懸垂の予約が入るのだろうか。
私のチャリンコの横をシュッとしたスポーツバイクが数台走り抜けていく。
グラウンド半裸おじさんはママチャリだ。
あのママチャリはどこで売っているのだろうか。年季を重ねて独特の風合いを醸しているあのママチャリは果たしてその名の通りにママに使われたことはあるのだろうか。
グラウンド半裸おじさんのすぐそばでタイトなスポーツウェアを着てサングラスをかけた河川敷マラソンおじさんが道路脇の鉄柵を使いながらストレッチをしている。
銀のポールをグッと握り、勢いをつけて上へ伸び、下へしゃがむ。来年あたり身体のどこかしらの靭帯をいわせるだろうと思わせるほど力任せに伸びて縮める。
あたかも「俺は鍛錬を怠らないが、お前はどうだ?」と見せつけるようだ。
夏を感じさせる強い陽射しのもと、グラウンド半裸おじさんと河川敷マラソンおじさんの終わりなき戦いが始まるのだろうか?始まるのなら見てみたいが、そんな面白そうな戦いをタダで見ていいのだろうか?
私は決して彼らの戦いを“試合”とは言わないぞ。そこにはジャッジする人間も観客もいるべきじゃないんだ、人間と人間との譲れないマウントの取り合いなんだ、それは“試合”よりももっと原初的で生々しくそして雄々しいものなのだ、太古の昔から連綿と繰り替えされてきた生物としての遺伝子の“戦い”なのだ…‼︎

といったことを考えていたら菖蒲園につきました。

老人ホームの方々や、電車と菖蒲の花を一枚に収めようとじっとカメラを構えるお姉さん、近所のマダム達、仲良し老夫婦などで賑わう花畑。菖蒲という花をマジマジ見るのは初めてだったのですが、あれはとても和風な花ですね。特に東の、和。って感じです。花札に描かれてる姿が一番印象的な花でしたが、近くでみると同じような形状の百合やチューリップとは違う妖艶さを感じました。藍色の化粧をした色の薄い、黒髪の日本美人な雰囲気です。
いやぁ、良かった。

先ほどのおじさんの戦いなど秒で消え去りました。
菖蒲の足元には水が張られ、アメンボとオタマジャクシがわんさか。久しぶりにたくさんのオタマジャクシを見てテンションが上がりました。
そんな感じで根から葉から花から眺めておりましたら、
「菖蒲というのはこんなに良いんですね」と、突然のおじさん。
菖蒲って良いねおじさんです。
「僕もね、ココに来るのは初めてなんですけど、立派なものですね」
菖蒲って良いねおじさんは私に話しかけてきました。1人でオタマジャクシを眺めてニヤつく、黒アロハにジャージとサンダルのオレンジ髪のノーメイク30女に話しかける、菖蒲園おじさん。

俺も、彼らの“戦い”に、巻き込まれちまうのか…?遥か彼方の時代から続く、生命の進化の歴史、そこに紡がれる人間という生き物のドラマ、無常さと残酷さばかりの荒れ野でそれでも芽吹き強く空めがけて伸びていくのはここにある菖蒲のような比類なき花を咲かせるためなのだろうかーーー

などと考えていたが、菖蒲っていいねおじさんは自分が最近クラシックギターを始めた話と、外資に勤めていたのでルーブル美術館に7回行ったことがあるという話と、あとなんかホームステイとかもして楽しかったよという話をして満足気に去って行きました。


とても良い休日でした。

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