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都市実験「みちくさカフェ」を終えて


夏休みに地元の広場で始めた「みちくさカフェ」。
想像以上にたくさんの人に知ってもらい、遊びに来てもらいました。
自分が頭の中で思い描いていた、近所の広場で見たい景色がゆっくりと目の前で形作られていく様子を見るのは本当にかけがえのない経験でした。

5月に描いたアイデアスケッチ。

どうして始めたのか?


私が大学で都市学を専攻しており、人々の暮らしを豊かにしていくきっかけとなる場づくり、まちづくりに関心を持っていたことがきっかけです。
具体的には、ヤン・ゲールやジェーン・ジェイコブスのような都市計画やまちづくりの先人たちの「人々の暮らしを中心とした街」という考えに共感し、それらの人々の著書から得た学びや大学での学びを実際のプロジェクトに活かしたいと思ったことも理由の一つです。

また大学で都市のことを学ぶ中で、ずっと心の中に引っかかっていたのが近隣の公園とその周囲で進んでいく再開発でした。人々ではなく、経済を中心としてまちが開発され、人々が一息つけるような余白の空間、公園や森、畑などが高層マンションにすり替わっていっていることを思い出しました。

その中で自分でできることは、余白の空間を近所に自分で作ってしまうことではないか。そんな空間が愛される場所になっていってほしいと思った時に、近所の広場でコーヒースタンドと青空児童館を開くことを思いつきました。
この取り組みを通して目指すものとして、以下の三つを決めました。

1.  けやき広場が多くの人にとって、戻ってきたい思い出の場所になる。
2. 広場を利用して、地域コミュニティを豊かにする活動を始める人が増え、広場の用途が多様化する。
3. 長期的な馬事公苑界わいのエリアにおけるまちづくりに地域住民の意見がしっかり反映されるようになる。

https://note.com/bajico_blog/n/nc0aeeb45e930

コンセプト


なんだか面白そうなことが起こっていて、
思わずみちくさしてしまう、ふらっと寄れる場所。

お散歩のついでに出会いや発見があったり、忙しい日常に余白を作ってくれるような「日常と非日常の間」のような空間。

これらのイメージを基に、少しずつ企画を考えていきました。

5回を通して使った手作りの「みちくさカフェ」看板。

何をしたのか?


具体的には、地域のNPOが持っていた仮設屋台と人工芝、キャンプ用の椅子などを週に一回、土曜日の夕方に広場に出して、仮設の休憩所&カフェを作りました。
毎回異なるテーマで開催し、ゴザを使ったお昼寝の会、フルートの会、DJの会などなど、同じ設えではありながらも少しづつお楽しみを用意してゆるっとしたイベント的に開催しました。

子供用の遊び道具、古本、音楽など、ほんの少しの仕掛けや触媒だけで、人々が立ち止まるようになり、これまで起こらなかった近所の人たち同士の会話が起こっていくプロセスはとても興味深いものでした。

みちくさカフェ第一回 スナップショット。


他にも、「みちくさだより」と称して「みちくさカフェ」の趣旨を小さな紙にまとめ、来てくれた方にお配りしました。

みちくさだより、第一号。

5回を通した変化

7月から8月にかけて行った、みちくさカフェを通して感じた変化は、4つあります。

1. みんなで場を作っていく


一つ目は、地域に根付いて、店長が運営するものから、「みんなが思い思いに使う場所」になっていったことです。
一回目の時は、こちらから広場で休憩している人に声をかけ、みちくさカフェの休憩スペースを使ってもらう、という感じでした。しかし、回数を重ねるごとに声をかけなくても人が来てくれるようになり、4、5回目では、準備をしている途中から子供たちがどんどん集まってきて、座る芝生のスペースが足りないくらいでした。
そして、最終回には、資材移動用のカートでジェットコースターをして遊んでいたり、人工芝を巻く心棒でチャンバラをしている子供たちがいたりなど、あらゆるものをいい意味で勝手に使っている子供たちのクリエイティブさには驚かされました。
飲み物もきた人が自分で注いでいることもあり、作っている側と使う側の境界が曖昧になり、気がつけばみんなで作り、使う場所になっていました。

2. 近所の安心感と温かさ


二つ目は、人の距離感と温度感の変化です。
これまでのけやき広場では、知らない人同士が距離をとって座っており、交流が起こっている場面はあまり見たことがありませんでした。
しかし、「みちくさカフェ」という仕掛けがあることで、広場の中でもその周囲にいる人は安心して話しかけてもいいんだという認識ができるようになりました。
広場にいる人たち同士の信頼感や安心感が増し、お互いを知らなくても人の温かさを感じられる空間になっていました。
最終回には、区の担当課の方と担当課長が視察に来てくださいました。
これまでの打ち合わせでは、堅い感じで必要事項だけをやりとりしていましたが、子どもたちが遊び回っている中で、気がつけば課長は子どもにけん玉を教えていたり、縄跳びをしていたりとても楽しまれていました。「肩書き」の重荷を肩から下ろして、飲み物を片手に語り合い、笑い合い、童心に帰って日常を心から楽しむことができる、そんな場所では一人ひとりの垣根が解けていき、心と心で繋がれる感覚がしました。

3. ゆっくりと時間が流れる場所


三つ目は、時間の流れの変化です。
みちくさカフェを通して、自分自身にも、遊びに来てくれる方にも、暮らしの中に深呼吸する余白が生まれていったと思います。
いつもせわしなく通り過ぎてしまう広場で、子どもたちが遊んでいるのを眺めたり、音楽を楽しんだりする中で、忙しい生活をリモコンで「一時停止」するようにほっと一息つくことができました。
「おひるねの会」を開催した時は、正直広場でみんながゴザで横になるのだろうかという不安がありましたが、私のそんな不安を差し置き、気がつけば何人かゴザでゴロゴロしていました。私も寝転がってみるとケヤキの樹冠がとても綺麗で、涼しい風が通り過ぎていくのを全身で感じ、とても心地よかったです。
こんな何気ない日常の幸せを噛み締めることができる、ゆっくりと時間が流れる空間はとても貴重なものだと思います。

みちくさ第3回。皆さん、お昼寝中。

4. のんびり待って、一緒につくる

四つ目は、のんびり待ちながら、やりたいことがある人や常連さんとともに場所を作っていけたことです。
2回目のみちくさカフェに参加してくださったDJさんには、みちくさカフェの投稿を見て、インスタで連絡を頂きました。他にも、「こんなことやるのはどうかな?」と提案を頂くこともあり、回数を重ねることに常連さんも増えて、だんだんみちくさカフェの雰囲気が作られていきました。
細かいことは決めずに始めたため、どんな人が来てくれるか、協力してくれるかなどは予測不可能で不安もありましたが、結果的にとても有機的な場が徐々にできていきました。
全てを用意して待つのではなく、人と人が集まるための媒体を作り、そこから何が起こるかは焦らずに楽しみに待つことで、来てくれた人たちと一緒に場を作り、育てていくことができたように思います。

気づき


始めた頃は「みちくさカフェ」を通して、できるだけ多くの世代が「交流」することを目指していました。しかし、交流は目的とするものではなく、結果として自然に生まれてくるものだと気づきました。
また必ずしも異なる世代や立場の人が言葉を通して交わらなくても、同じ空気感に包まれた場所にいるだけで、お互いの存在に気づくことができ、それが何より交流への大きな一歩でした。

仕掛けさえあれば、遊びたい子どもたち、休憩する親御さん、散歩しているお年寄りの方が集まってきました。店長としてたくさんの人とお話しさせて頂いて、近所には、多様で素敵な方々がたくさん住んでいらっしゃるのだなと実感しました。

みちくさ第4回。芝生はほぼいっぱいでした!

地域に愛される広場のこれから


5回のみちくさカフェを通してお話しした方々は、けやき広場で時間を過ごされることが好きな方ばかりでした。地域に愛されるけやき広場を通して、有機的でゆるやかなご近所の繋がりが育っていくこと、そしてゆくゆくは自分達の手で、あってほしい近所の姿を作っていける可能性を垣間見ることができ、とても嬉しかったです。

近所の子育て支援・まちづくりNPOの方々や区の担当の方々の協力があってこそこの企画を実際にやり遂げることができました。
私は9月からオランダに戻っていますが、有志で2週間に一回、みちくさカフェを続けていって下さっています。
始まる前はどこに渡るかも分からなかったバトンを、確かに繋いでくださる方々がいることに本当に感謝でいっぱいです。

これからも、てくてくと続けていき、みちくさカフェが近所の一風景となっていくことを楽しみにしています。

ひとまず1月まで、引き続きみちくさカフェ開催予定です!
これからどんな風景が紡がれていくのか、とても楽しみです。


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