【夏の読書感想文】52ヘルツのクジラたち

52ヘルツのクジラたちは他の鯨が聞き取れない高さの周波数で鳴く世界で一頭だけの孤独な鯨と、様々な苦しい環境に置かれた登場人物が抱える心の叫び、孤独感を重ねて描かれています。

自分の人生を家族に搾取され愛されることを欲している貴瑚はアンさんに出会い助けられ、母親からの虐待により全てを諦めてしまっている”ムシ”と呼ばれる少年は貴瑚と出会い助け助けられて二人が強く前を向いていくお話です。

田舎の漁師町、閉じ込められたトイレ、用意されたマンションどの場面もどこか閉塞感がある印象で孤独感を増幅させるような感覚がありました。そこから様々な人に出会い行動範囲が広くなっていくのは、心の変化とも似ている部分だと感じました。

全体を通して海の近くの描写が多く、暑い夏に読むにはピッタリの雰囲気でしたよ。

目に見えない心、感情や気持ちを言葉にすること、さらにそれを人に伝えることの難しさを考えさせられた一冊でもあります。

自分の気持ちを人に伝えるのには、見えない順番があると考えています。
自分のことなのに自分でも分からないことが誰にでもあると思います。
まず自分の内面と向き合い「今自分がどんな気持ちなのか、何故そう感じているのか」を整理し理解しなければいけませんが、それは簡単ではないです。
頭の中で考えるだけでも簡単ではないその気持ちを、次に具体的に言葉にし表現していくのはさらに難しいことです。
最後に他人に理解してもらえるように伝えるための言葉選びはもっと困難を極めます。

考えるのには体力を必要とし、伝わらなかったことで精神がすり減り、相手に対して失望することもあるかもしれません。
どこかで諦めてしまえば誰かと話さなくなり、話していても伝えようとしなくなり、考えようとしなくなり、感じようとしなくなります。

それがこの本に出てくるアンさんであり、貴瑚であり、”ムシ”で表現されていると思いました。

自分の気持ちを100%理解してくれる人はいないと思います。
それは自分も誰かを100%理解することが出来ないと思うからです。
悲しい言い方かもしれないですが、自分と他人は違う人である以上仕方がないことです。
そう思うことで過度な期待をしなくて済むという一面もあるかもしれません。
ただ私が考えるのはそういう悲しい寂しい一面のことではありません。

100%理解出来ないと分かった上で自分に何が出来るのか、相手に何をしてもらえるのかを考えていけばいいだけだと考えているからです。

相手にどうやって伝えれば自分の気持ちを少しでも理解してもらえるのか。
どういう姿勢で話を聞けば相手の気持ちを汲み取ってあげられるのか。
相手の気持ちを理解し汲み取ってあげられなくても苦しみを楽にしてあげられる方法は他にないのか。
自分には力が足りなくて何も出来ないけど別の人なら出来るかもしれないから紹介してあげられないか。

など考え方によっては色々な選択肢が生まれてきます。

ただ自分の中に抱えて伝えようとしなければ1%も理解してもらえないですし、相手も受け入れる姿勢にはなってくれないです。
伝える一歩は体力も勇気も必要ですが伝わった時に見える光は大きな存在になる気がします。

貴瑚と”ムシ”は一度は諦めてしまったものを、お互いの出会いを通じて取り戻し改善のために前を向いていきました。
そういう意味ではいつ仲間に届くか分からないのに52ヘルツの周波数で鳴き続ける鯨は、孤独に寂しく泣いているのではなくまだ諦めずに強く生きている存在で2人と重なる部分があるなと思いました。

私自身、最近では自分と向き合うことは少なくなりましたが学生時代はよく自分の気持ちについて考えていたなと振り返ってみて思いました。その時期があったからこそ今の自分が作られている気がします。
今は自分の気持ちを相手に伝えるにあたり、相手が嫌な気持ちにならないようにを心がけています。何事も伝え方次第だなと。


あとは誰かの声を受け止められる存在であれたら、その気持ちを理解し心を軽く出来る存在になれたらと思います。
私に関わる周りの人たちにだけでもそういう存在になっていられたら私自身が嬉しいです。

最後に余談ですが、この本はBTSのWhalien 52をきっかけに読み始めました。
同じく世界で一頭だけの孤独な鯨をテーマにしている歌でメロディも歌詞の内容もとても素敵なので気になった方は是非。

https://youtu.be/lnNPi-btrbQ

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