【夏の読書感想文】彼女について

今回の本はよしもとばなな著の『彼女について』です。
BTSのSUGAが読んだという情報を目にしたので読んでみた本になります。
最近は主にBTSのメンバーが読んだという本ばかりを手に取っています。

彼女については魔女の血をひく由美子と久しぶりに会ったいとこの昇一が旅に出るお話です。
由美子の母と昇一の母は双子の魔女の姉妹で、昇一の母の死をきっかけに由美子には母からかけられた呪いがあること、その呪いを昇一と解くことが昇一の母の願いであることを知り過去にまつわる場所を2人で巡っていきます。
その旅の中でぼんやりとしていて思い出せない由美子の過去を思い出せるのか、昇一の母であるおばさまの言う呪いは解くことが出来るのかが気になってきます。

本編に出てくるのは主に由美子と昇一で、母親たちが双子でありながら正反対の印象だったせいか子供たち2人の性格も大きく異なります。
由美子は自分に降りかかった過去の不幸を抱え込みながら、一生懸命にがむしゃらではなくその日1日1日をただ生きている印象でした。
何かを頑張っては休んでを繰り返すのではく、何も頑張らないけど穏やかに過ごしているようにも感じました。
昇一は母や父に大切に育てられたのか、何かを感じ取るのにも歪むことなく真っ直ぐに受け入れ自分から生まれる感情にも素直で正直な印象でした。
でも素直すぎて配慮が足りないのでは?と思うようなところもありましたが、その不器用さも人間味があっていいなと思うところでした。
どちらもそれぞれ愛おしくなるような一面があって、2人の掛け合いも親戚という近い存在であり、恋人や夫婦とはまた違う心地よさがあっていいなと思うポイントでした。
久しぶりに会った親戚なのにあの距離感は羨ましいものです。

お話は由美子と昇一が小学校に上がる前の、昇一の家での記憶からスタートします。
そこには双子で魔女の母親たちもいて、どこか霞ががっているような非現実的な雰囲気の不思議なシーンに感じました。
現在の時間軸に戻り旅がスタートして行くのですが、この旅はただの楽しい旅行ではなく由美子の辛い過去を遡っていく旅です。
ですが由美子はどこか楽しそうに、昇一も何かが明らかになっていくことに興味を持っている雰囲気で過ごしています。

もし自分に辛い過去があって、それを遡る旅をしなければならなかったらと考えてみるとその旅も辛いものになってしまう気がしました。
ただ24時間365日絶え間なく辛いというのはなかなかないのではないか、普通に過ごしてきたどこか一部で辛い経験をしたのであれば、一方でどこかで楽しい・嬉しい経験もあるのではないかと思いました。
そうであれば辛い過去の場所に立ってみても、少しは楽しいことも思い出せるかもしれない、そしたらそこで新しく楽しい思い出を残して帰ってこれるかもしれない、そうだったらいいなと感じる部分がありました。

誰にでも大なり小なり辛かった過去があって、辛いものでなくでもいつの間にか忘れてしまった過去があって、それを思い出すのは思い出そうとした瞬間ではなくて縁がある場所に立った瞬間だったり、香りだったり、何かきっかけがある時だろうなとこの本を読んでいて思いました。
年齢を重ねるにつれて昔のことを思い出す時間がどんどん減っていって、私は転勤族なので新しい地に移ることが多いとなおさら過去の縁のある場所に立つ機会すらないです。
今はコロナ渦で出来ませんが、色々な時間を過ごしたそれぞれの街にまた行ってみて今のその街を見てみたいなと思わされました。
きっと昔の面影もないくらい変わっている街もあると思います。
それはそれで楽しそうだなとわくわくします。

この本は先のストーリーが気になりどんどん読みたいと思い、最後まで読んだ時にもう一度最初から読み直したいと思う作品でした。
ただ私個人の性格上、章あまり分かれていないので中断するタイミングが分からず夜中まで読んでしまうという辛い作品でした(笑)
皆さんには好きなペースで進めてもらってそんな辛さを感じずに読んで欲しいです。

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