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大学法人化を検証する⑥/一括編集【動画解説】#00020

動画解説

 北九州市立大学でMBAを取得した九州歯科大学歯科放射線学分野の森本教授による自作パワーポイント動画です。初めに、小野と吉野が挨拶をしています。森本教授より原稿を頂いたので、下にご紹介させていただきます。動画と合わせてお読みになることをお勧めします。

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国公立大学の運営資金の変化と日本の高等教育や研究の現状

 (森本泰宏)

 研究の背景は大学教員の研究時間が大いに減少していることを感じるからです。その結果、日本の教育レベルは低下すると思います。そこで、2000年代に国公立大学が独立行政法人化されてから約20年が経過した現在の日本の高等教育の現状を把握しようと考えました。具体的には大学教育に対する財源に関する変化、大学教員の職務時間の変化、研究成果及び教育成果の変化を資料や文献を基に明らかにしてみました。加えて、高等教育における社会的意義について経済的側面から考えてみようと思いました。

 平成16年度の運営費交付金は1兆2145億円であったのに対し、平成27年度では1兆971億円と10年間で約1500億円が削減されています(下図)。日本の一般会計予算は10年間で20兆円以上増加しているにも関わらず高等教育は減少しているわけです。その結果、予算配分のバランスは運営交付金が大幅に減少し、競争的資金が増加していました。しかし、研究資金の総額は約500億円しか増加していません。1000億円少ないわけです。

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 同時に、競争的資金の代表である科学研究費の配分を大学別に検討すると獲得総額1位の東京大学に比べて10位の慶応義塾大学の総額は東京大学の僅か16%程度です。一方、アメリカやドイツは1位の大学に対して10位の大学は70%です(下図)。このように削減された競争的資金にはその配布に大きな偏在があることが分かります。従って、有名な大学に比較して地方大学への競争的資金の配分が増加しているわけではないのです。従って、地方の国公立大学では運営費交付金が減少し、併せて競争的資金もそれを補うように増えているわけではありません。

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 更に、優秀な教員に研究費を集中すれば高い研究成果をもたらすのかといえば必ずしもそうではないようです。日本の国立大学における研究経費と論文生産性の関係をみると教員当たり300万円程度迄は論文数と研究経費はリニアな関係にありますが、それを超えるとだんだん緩やかなカーブになっています(下図)。つまり、高等教育に対する公的財政支出は大幅に減少しただけではなく、その配分方法も新たな知的財産を生産する上で必ずしも適切ではない可能性があります。

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 次に、大学教員の研究に従事する年間平均時間は2002年が1346時間であるのに対し、2008年は1041時間となっています(下図)。僅か6年間で国公立大学教員の研究時間は約22.6%も減少していることが分かります。経年的に減少した研究時間とは逆に、それ以上の時間が教育活動に費やされています。同時に社会サービス活動と事務運営や会議の活動時間が増しています。勿論、教員の役割として教育活動が重要であることは間違いありません。しかし、大学における教育は研究活動を通し、得られた新しい知見を教育に反映させなければならないはずです。研究時間の減少は教育レベルの低下と繋がるのです。この一つの原因はこれ迄記載してきたように大学への運営費交付金が減少していることが挙げられます。資金不足のため新たな人材は雇用できず、これ迄以上に増す業務を少ない人数で対応しなければならないのです。結果として研究活動が妨げられているのです。

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 全分野における論文数の推移をみます(下図)。これまで記載してきた大学変革の時期と同じくして日本だけが2004年以降論文数を減少させ、それに併せて世界シェアも下がっていることが分かります。具体的に1981年で日本の順位はアメリカ、イギリス、ドイツに次いで第4位、2002年では2位でした。しかし、それ以後主要国における総論文数は日本のみ減少し、併せてそのシェアもイギリス、ドイツ及び中国に追い抜かれ、5位に低迷しています。つまり、日本の各種研究分野におけるProductsが低下しているのです。

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 日本から発行される論文数に加えて、高等教育の実態を表す指標に日本の主要大学の世界ランキングが挙げられます。東京大学と京都大学の世界ランキングは下降傾向を示し、2013年は20位代、50位代であったものが2016年以降は50位程度、80位程度となっています(下図)。論文数の低下同様、大きく低迷していると言わざるを得ない状況です。これら、国公立大学における研究成果及び教育成果の経年的低下は予想通りです。

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 では国公立大学卒業者の就職に関する年次別推移を確認してみます。2008年9月に生じたリーマンショックがありました。従いまして2008年を1とすると2013年迄は減少しています(下図)。しかし、2009年以降は増加し、2008年における就職の割合を大きく超えています。就職率は景気状況に大きく影響します。一方、大学院等への進学率は2004年からずっと緩やかに減少しています。これは大学教員の研究活動の低下や研究に対する公的資金の注入が減少してきた時期と一致しています。研究活動を行う時間の減少を学生が敏感に感知し、研究への興味を低下させていることに繋がっていることを否定はできないと思います。

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 そこで、大学院に進学し、修士号・博士号を取得した人材の割合を国別に比較してみます(下図)。 2020年の1月30日にノーベル賞受賞者の大隅教授もNHKのテレビで話しておりましたが、日本の博士号取得者は海外に比べて明らかに少ないことが分かります。しかも、企業に占める博士号取得者の割合は最低レベルです。知識基盤社会への変化が求められている時代に日本は明らかに乗り遅れていることが浮き彫りになっていると考えます。

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 そこで、高等教育機関に対する公財政支出の対GDP比を国別に比較してみます。その値は0.5%であり、OECD加盟国の中で最低です。これでは博士号取得者も増えませんし、知識基盤社会への対応も難しいと考えます。

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 しかし、日本の大学進学率は50%を超え、アメリカの64%に近づいています。理由は個人的な教育費負担でまかなっているからです。高等教育への公財政支出が他国に比較して大幅に少ないことを説明してきました。それでは、高等教育に投資をした場合にそのリターンとしてどのような社会的意義があるのでしょうか。

 確かめるために高等教育機関の私的・公的(財政的)内部収益率を諸外国と比較してみました。生涯の手取り総賃金を私的収益、生涯納める税金総額を財政的収益として高等教育の収益率を示したものです。 収益率は正ですので高等教育への投資は便益があるといえます。日本の高等教育は公的収益率が高く、私的利益率が低いことがわかります。つまり、日本では国家ではなく、各家庭が負担して高等教育を受ける機会を与え、納税額を増やすように高いレベルの人材を育てています。その結果国家が潤うことに繋がります。

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 従って、学費の高額な私立大学の方が国立大学よりも公的(財政的)収益率が高くなります。それでは、私立大学ばかりになると国の経済は尚更豊かになるのでしょうか。必ずしもそうではないはずです。国公立大学の大きな役割の一つは明治時代に設立された目的である研究機関としての新たな知識や技術を生み出すことです。その結果は社会全体に大きな利益を生み出します。同時に国立大学を選ぶ人は、経済的、社会的に不遇の人も数多く含まれます。どのような境遇の人でも成績が優秀で、向学心があれば進学できるという教育機会の平等性という意味で国公立大学の果たす役割は大きいといえます。

 1980年代、日本は全世界の中でも、最も裕福な国の一つでした。しかし、現在の日本は世界と比較して必ずしも豊かな国では無くなっています。GDPは世界第三位ですが、人口一人当たりのGDPは26位です。それにも関わらずPIAACでは日本は読解力と数的思考力が一位で、IT活用能力も好成績です(下図)。この数値は大学教育を受けたもののスキルレベルが、明らかに高いことが分かっています。従って、日本は各家庭の経済的犠牲によって国民全体として優秀な学術的能力を維持しているのが現状です。そこで、今後はもう少し高等教育に対する財政支出を強めていく必要があるものと考えます。

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 2019年の9月7日のYahooトップニュースに「大学の理系論文数20年間伸びず、競争原理の導入、奏功せず」という見出しが掲載されました。20年前に大きく切った舵は果たして適切であったのでしょうか。これ迄の話しの中で高等教育に財政支出を増加する必要があることが分かってきたのではないかと考えます。

 従って、日本の科学技術に対する財政投資の現状による科学立国としての地位の低下を危惧するために高等教育の在り方を財政的に見直す時期ではないかと考えます。

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補足・訂正

 特にありません。

編集者から

使用機材
 変更ありません。詳しくはこちらを参照してください。

編集してみた感想
 今回を含め、全6回でお送りした法人化を考えるシリーズですが、いかがでしたでしょうか?なかなかこういう機会は無いため、とても勉強になりました。全5回分を濃縮して動画1本にまとめているので、ぜひご覧ください!


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