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瞬時翻訳時代の科学英語力を考える:科学論文をスラスラ読むには①

 とにかくGoogle翻訳により海外webコンテンツがサクッと日本語で読めるようになって便利さを感じる今日この頃。仕事でも科学論文検索で1000件ヒットしてもGoogle翻訳で日本語にすれば、全部に目を通すことも不可能ではなくなってきた。しかし、利点も多いが欠点も見えてきたので、考察してみる。(小野堅太郎)

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科学はなぜ英語なのか

 自然科学は、日本で行われようと中国で行われようとアメリカで行われようと、どこでやっても同じ結果が出ることを前提としている。つまり、国境がない。多種多様な言語で情報交換していては「知の共有」に時間がかかるため、なんからの言語に統一した方が便利である。

 12世紀から長らくラテン語により世界共通に「科学知」を共有していた。19世紀にはラテン語教育は衰退し、母国語での科学論文記述が広がってくるが、20世紀には次第に「英語」を統一言語として使用するようになってきた。

 では、なぜドイツ語やフランス語ではなく英語になったかというと、他言語と比べて文法が容易で最も学習しやすかったからだろう。多民族国家であるアメリカ合衆国が最終的に英語を共通言語としたのは納得がいく。科学の世界だけでなく、工業化と情報化を英語圏の国がリードしたことからビジネスの世界でも英語が共通言語となっている。

 しかし、どいうわけかSOV(主語→目的語→述語)という特殊な文法を持つ日本語や韓国語の話者からすると、SVO(主語→述語→目的語)は「言語文法を習得する」以前に「思考法を改変する」という一段階上の修行も必要となる。言語がうまく使えなければ、相手に正確に自分の意図を伝えられないので、科学でもビジネスでも英語力がなければ障壁となってしまう。

翻訳の精度

 ドラえもんの未来道具として有名な「翻訳こんにゃく」は、異言語間ディスコミュニケーションを改善する。この夢の道具は、テキストベースの情報においてはGoogle翻訳によってある程度達成されてしまった。英語だろうが、フランス語だろうが、ドイツ語だろうが、スペイン語だろうが、ポルトガル語だろうが、一瞬で日本語に翻訳してくれる。以前は意味をくみ取れないレベルの翻訳だったが、現在はちゃんと読み取れるレベルである。

 逆に日本語から英語への翻訳は厳しく、英語論文の日本語訳を和文論文に使えるかと言われたら完全に「NO」である。同じように、日本語を英語に訳した文章は科学論文には使えない。つまり、情報のINPUTには使えるがOUTPUTには使えない。OUTPUTで使えるとすれば、メール文面や言い回しの参考にはなるぐらいである。

科学研究への利用

 Google翻訳は研究に使えるのか?答えははっきりしている。「情報収集にはGoogle翻訳を使え!ただし、情報の理解には使用するな!」である。

 科学論文が電子化されるにつれて、学術雑誌は急速に増え、Web検索なしでは興味ある論文を見つけられなくなってきた。研究分野の多様化や融合化も進んでいる。そのため、キーワード検索では無関係な論文がたくさん引っかかってくる。これは逆に「意外な論文の発見」に繋がる利点がある。そのためには、論文抄録をたくさん読むことが必要となり、大量の情報を捌くには翻訳された母国語でスクリーニングすることは時間短縮のメリットが大きい。同じく、論文の投稿規定や英文科学ニュースもGoogle翻訳で十分である。

 検索に時間をかけてはいけない。検索からピックアップできた研究論文への理解。ここに時間をかけなければならない。特に、英語に慣れていない大学院生・若手研究者は、重要な論文を自力で読んで「深い理解」を得る必要がある。ここにGoogle翻訳を使用してしまったら全く意味がない。情報取得には2段階あって、「知ること」の次に「利用(行動)すること」がある。情報は知っていても、使わなければ自分の利益に寄与しない。得た知識(情報)を自分の研究に反映させるには、自動翻訳ではそぎ落とされてしまう「行間」を読み取ることが必要になる。

英語論文を書く能力

 よく勘違いされているのは「たくさん読んだら書けるようになる」というアドバイスである。これは、典型的な「詰め込み型受験勉強」から生まれた神話である。たくさん読んでも英語論文を書けるようにはならない。話せるようになるにはたくさん話すしかないし、英語論文を書けるようになるには英語論文をたくさん書かなければならない

 大学院で1本論文を書いたところで、論文を書けるようにはならない。教員からすると、大学院生に「論文のお作法」を教えるのが精いっぱいである。たまに、一回書いただけで論文を書けるようになる院生がいるが、正直、大学院に来る前から論理的文章(つまり論文)を日本語で書けていた学生である。日本語で論文を書けない人は、英語で論文は書けない。当たり前である。

 では、日本語で論文が書けるのなら英語論文が書けるかというとそうではない。日本語の文章を英語で表現できず、「英語で書ける文章」に変更してしまって論理性や行間が失われてしまう。ここでようやく「たくさん読む」が重要になってくる。ちゃんとした会話能力がある人が「たくさん聴く」ことで英語スピーチ能力は上がる。つまり、先の神話は「国語」ができて初めて有用なアドバイスになる。国語力を磨いてこそ、英語力が上がる。これもまた当たり前である。英語圏出身の研究者でも「英文校正」を外注している人は多い。

 ここでさらにもう一つ勘違いしてはいけないのは、英単語と英文法の学習は当然必要で、日本の英語教育はこれに関しては優れていると思う(詰め込み型受験勉強の利点)。受験参考書は英文法の習得には最高のテキストである。英単語に関しては、研究領域によって様々であるので、自分で単語帳を作って勉強するのがよい。おススメの単語帳アプリでQuizletというのがあるので、試してみてください。

 さて、本シリーズの次回は、このQuizletを利用した科学論文の「英文抄読会」のやり方について説明します。大学院教育では、英語論文を読む、という教育は欠かせません。さんざん試行錯誤してきた中で、ようやく「これだ!」という方法を見つけたので、ご紹介します。

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