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競馬と実習と友人Y:名言からの四方山話①

競馬の名言から、学生時代にやった実習を思い出した。それらの実習から、友人Yを思い出した。(吉野賢一)

馬は血で走る:大川慶次郎氏(競馬の神様とも呼ばれた競馬評論家)の基本馬券学(1969年)の副題にもなっている名言。競走馬は血統が大切であるという意味。だから、競馬ファンは遺伝(血統)にこだわる。専門書を小脇に抱えた遺伝学の研究者よりも、競馬新聞を小脇に抱えた赤鉛筆の競馬ファンの方が遺伝(血統)にはうるさい。

畜産業界では:家畜の繁殖では人工授精が当たり前である。畜産農家から「ウシの花子が発情しました~」と連絡があると、凍結保存されていた精子をもった人工授精師が馳せ参じる。しかし、競走馬には人工授精が認められていない。育成牧場から「ウマの花子が発情しました~」と連絡があると、大切に飼育されていた種牡馬(種馬)が馳せ参じさせられ、自然交配が行われる。

畜産学科では:畜産では「産めよ増やせよ」が非常に重要なので、大学時代の講義や実習は生殖や繁殖に関するものが多かった。講義の内容は覚えていないが、実習での出来事はよく覚えている(内容は覚えていない)。

ウシの実習①:畜産農家から「発情しました~」と連絡を受けた人工授精師は、花子の発情を確認する必要がある。この発情を確認する実習があった。やたらと長い手袋で片腕をすっぽり覆い、ウシの肛門から腕を挿入する直腸検査法だ。20名いる畜産学科学生のうち2名が検査することになった。ウシの肛門に腕を突っ込みたいと思う学生はいない。じゃんけんで負けた二人が生贄になった。うち一人は友人Y。一人目が無事検査終了。二人目の友人Yも触診が終わり、無事検査終了と思われたのだが、肛門から引っこ抜いた友人Yの腕には手袋が無かった。手袋はウシの肛門内で大きく裂けていたのだ。どこをどう触って発情確認するのかは忘れたが、ウン(運?)がついた友人Yのことは鮮明に覚えている。肝心なことは忘れているくせに、どうでもいいことは覚えている私。模範的な学生だった。

ウシの実習②:肉牛のオスは悲惨な目に合う(ただし、乳牛のオスはもっと悲惨。すぐ天国)。種牛以外は去勢されるのだ。去勢は、肉質を良くする、あるいはオス同士の喧嘩を抑制する意味で行われる。この去勢の実習があった。とてつもなく大きなペンチのような道具(去勢鉗子)で、タマタマ袋(陰嚢)の付け根の部分(精索)をはさみ、血管を破壊してタマタマ(精巣)を壊死させる。これは教員が実施し、学生は観察するだけだった。教員の両手に力が入り、鉗子の先端が閉じたとき、ウシが力なく「モ~」と鳴(泣)いた。血管が破壊されると精巣はいったん膨れ上がるが、しばらくすると壊死するので非常に小さくなるという説明を教員から聴いた。友人Yと私は「お互い、ウシに生まれなくて良かったね」と実習後に語った。

ウシの実習③:九州歯科大学ではマウスの解剖や人体解剖の実習がある。畜産学科ではウシの解剖があった。大学敷地内の小屋のようなところで実習は行われた。実習初日、学生の目の前には1頭のホルスタインがいた。実習の目的は「肉」を観察すること。したがって血液は不要。深くない麻酔がかけられ、頸動脈に管が挿入された。血液がどんどんと小屋の溝に流れていく。「モ~」と鳴く声が次第に小さくなる。ウシは寝転がり、声が聞こえなくなった。さあ、解剖開始。数日間にわたって「ここが○○筋でヒレ、これは○○筋でハラミ」などと教員が説明してくれた。実習の最終日、学生の目はらんらんと輝いていた。目的は、山積みになった肉でのBBQ(バーベキュー)。とくに教員が「この部位は貴重な肉」と言ってポイっと置かれた肉にビンビン視線を送っていた。最終日には解剖した肉でBBQが行われると先輩たちから聞いていたからだ。ところがその年は違った。教員から「この牛の肉でのBBQはダメだからな。試薬等が使われている可能性があるからだ」と有難いお言葉をいただいた。実習終了、持参したビニール袋を肉でパンパンにした友人Yを含む学生は、教員の有難いお言葉を守ってBBQを断念し、各自で舌鼓を打った。実習が真冬に暖房も無い小屋で実施されることの意味を、教員のお言葉の真意を、よく理解できた学生たちだった。

友人Yとの会話:Y:朝起きたらトイレ行くやろ。 

私:うん。 

Y:力入れたら、ポコッと出るやん。 

私:えっ、うんこ? 

Y:いや、そうじゃなくて、肛門の内側から何かポコッと出るやん。 

私:は~っ? 

Y:それを、きゅって押し込むとき、痛くない? 

私:おまえ、病院行け! 

この会話の後、友人Yは病院に行き痔の手術をしました。本当に、ウン(運?)に恵まれた友人Yです。次回も登場します。


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