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娯楽にみる教養とマナビ

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教養のマナビは人生を豊かにする。味気ない物語も背景を知ると輝きだす。娯楽作品の中にあるマナビについて、他のクリエイターの皆さんの記事も含めてまとめています。今日から使えるちょっと…
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#科学

メタサイエンスと科学の限界: ソラリスの何が凄いのか③

 未だ原作通りには映画化されていないSF小説ソラリス。SF要素、ミステリー要素、ロマンス要素を取り除いても、傑作たりうる詩的哲学要素があることを前回解説した。締めくくりに、メタサイエンス要素について解説する。(小野堅太郎)  「メタ」という言葉は、最近、フェイスブック社が社名変更して報道されたことからご存知の方も多いと思う。これに合わせて「メタバース」もよく知られらることになった。小野は研究者なので「メタ」という言葉は「メタアナリシス」がはじめである。小説やアニメでは「メタ

科学的観点からみた存在の危うさ:ソラリスの何が凄いのか②

前記事でソラリスの映画が全く原作ソラリスとは異なることについて説明したが、じゃあ原作はどんな話なのよということを説明してみたい。(小野堅太郎)  レムによる原作ソラリスとタルコフスキー版映画である惑星ソラリスは共に傑作である。しかし、大まかなストーリー進行は同じであるものの、テーマが全く異なる。同じようなものとしてスティーブン・キングの原作小説シャイニングとスタンリー・キューブリックの映画シャイニングが挙げられる。主人公が思い悩んで徐々におかしくなっていく原作の恐怖とは違っ

レオナルド・ダ・ヴィンチの科学的興味

 世界で最も有名な芸術絵画といえば「モナ・リザ」だろう。静かな女性の佇まい、口元のかすかなほほえみ、不可思議な背景がみる者の興味を引く。これを題材とした小説・映画(ミステリー)の多さに加え、各種科学的分析による新発見のニュースも絶えない。その作家こそレオナルド・ダ・ヴィンチ。ルネッサンスを代表する芸術家の一人に対して、今回は科学的視点から解説してみる。(小野堅太郎)  レオナルド・ダ・ヴィンチは1452年にイタリア・フィレンツェ近郊のヴィンチ村で生まれています。そう、「ダ・

錬金術を終わらせた研究者、ラヴォアジェ:錬金術から学ぶ①

 noteを始めたばかりの時にオカルトの科学解説シリーズを書いたが、その時、唯一後回しにしたのが「錬金術」でした。というのも、Alchemist(錬金術)はオカルトではなく、古代から常に最先端の科学として君臨していたという長い歴史を持っているからです。とても、1記事でまとまるようなものではなったわけです。歯科医療の歴史シリーズでかなり背景をまとめることができたので、錬金術について考察してみる。(小野堅太郎)  錬金術というと「そこら辺のゴミのようなものを価値のある金に変える

マウスとラットの違い🐭

 日本では4つ足の有毛小動物を総じて「ネズミ」という。バイオ研究をしているとネズミにはマウスもいるし、ラットもいるし、ネズミではないのに○○ネズミと名のついた動物もいる。研究者としての経験からネズミについて思っていることを述べてみる。(小野堅太郎) 飼育上のマウスとラットの違い マウスと言ったら卵サイズのネズミですが、ラットはコブシ2個分の大きなネズミです(成体の場合)。マウスは多少乾燥したところでも元気ですが、ラットは「ドブネズミ」とも言われるように湿気を好む乾燥に弱いネ

コペルニクスから始まった現代科学

 「薔薇の名前」以後の14世紀半ばから15世紀半ばまで、ヨーロッパはイギリス王とフランス王との百年戦争に入る。この騒動の中でのペスト(黒死病)のパンデミックと農民の反乱。ようやく落ちついた1473年、ポーランドでニコラウス・コペルニクスが生まれる。「天動説から地動説」という科学の大きな転換期について概説する。(小野堅太郎)  街灯のない時代、夜は闇に包まれる。満点の星空を見上げて、眠れない古代の人々は星を見て夜を過ごした。それはまるで天空の壁が大地を覆うようであった。これは

情報はすべて知るべきか、そうでないか:ウンベルト・エーコ「薔薇の名前」から学ぶ③

 「薔薇の名前」シリーズ①は、実は「科学論文の抄録はどう描くべきか」を語っています。シリーズ②は、実は「科学論文をどう読み解くか」を書いています。さて、シリーズ③は、実は「科学とは何か」ということを書くつもりです。さて、書物における知恵と娯楽について、名著「薔薇の名前」の主人公ウィリアムと謎の老僧ホルヘとの対話について考察します。(小野堅太郎)  主人公「バスカビルのウィリアム」は、修道院で起きた連続殺人の調査のため、主要人物たちに聞き取りを行います。その中で、盲目の老僧「

なぜホタルは熱くならないの?:発光の不思議①

エネルギーが変換される際には熱が発生する。でも、化学的エネルギーを光エネルギーに変換するホタルは熱くならない。名は体を表す。でも、英名fireflyのホタルが燃えることはない。ホタルは生物発光しているから。(吉野賢一) エネルギー変換効率:あるエネルギー(入力エネルギー)を別のエネルギー(出力エネルギー)に変換するときの効率。基本的には「出力エネルギー÷入力エネルギー×100」%で表される。大まかにいうと、変換効率15%の太陽電池であれば「100の太陽エネルギー」を「15の

もっと光を、ガムテープを!:発光の不思議②

ガムテープを使って光を出す方法を知っていますか?やると子どもにウケますよ。「ここが犯行現場です」って告げる鑑識、彼らが使っている光を出す方法を知っていますか?やると犯人に迫れますよ。(吉野賢一) ガムテープで光を出す方法:使用するのは布ガムテープがお勧め。紙ガムテープでは難しい。20 cmほど切ったガムテープを、粘着面を内側にして貼り合わせる。それを持って押し入れなど真っ暗な所に行く。後は暗闇で貼り付いたガムテープを剥がすだけ。剥離される間、剥離面から出る一筋の青白い光を観

水遁の術を使用する際には:忍者ハットリくんへの注意喚起

昔の浴室には掃除で使用するホースがあった。これを口にくわえ水遁の術、浴槽に潜って忍者気分を味わうことができた。懐かしい水遁の術と死腔の話。(吉野賢一) 水遁の術:ハットリくんに限らず、忍者が身を隠すために水中に潜るのが水遁の術。呼吸のために竹筒などを口にくわえた。忍者の時代、さすがにホースは無かった。そして今、シャワーの普及で浴室からホースは消失した。現代の子どもたちは、どこで術の鍛錬をしているのだろうか? 死腔:呼吸の際、血液とのガス交換に関与し得ない容積(≒気道の容積

ターゲットはハートではなくブレイン:脳からみた恋愛術①

相手の胸をドキドキ、苦しくさせても恋愛は成就しない。恋愛は胸ではなく「脳」でするのだから。「ハートを射んと欲すれば先ずブレインを射よ」ですよ。(吉野賢一) 脳研究者100人に聞きました:脳は部位が違うと働きが違う(機能局在)。100人の脳研究者に「恋愛を司る脳の部位はどこですか?」と質問したら、99人は「恋愛を定義してください」「まだ解明されていません」「多くの部位が関与しています」などと回答する。部位は特定されない。確かに「ここが恋愛を司る部位です」なんて言えないし、言わ

ホルモン:ONE PIECEチョッパーと反芻動物

内分泌腺から出る化学物質ではなく、焼き肉屋でジュージュー焼くホルモンについて農学部畜産学科出身者が語ります。ホルモンのことを知れば、焼き肉屋での会話が弾むこと間違いなし。(吉野賢一) ホルモン:ホルモン焼きに使う動物の内臓。一般的なホルモンのイメージはウシやブタの消化管(胃、小腸、大腸)である。しかし、多くの動物の多くの内臓(とくに肝臓や心臓)もホルモンと呼ばれる。ここでは「ウシの消化管」をメインに解説する。 チョッパー:漫画ONE PIECE(説明の必要は無いだろう)に

世界の繋がりを感じるアジアの創造神話:神々の伝承から学ぶ②

 前記事では、西洋の創造神話で終わってしまったので、今回はアジア・日本の神話を紹介したいと思う。日本の神話はかなり面白いのだが、他国と違って日本では母国の神話を子供たちに教えないので、すごく寂しい。最終的に言いたいことは、次回記事になります。(小野堅太郎)  創造神話は基本的に口承で長年伝わり、時代と共にいろんな話が混ざり合い、書物に残ったとしても異伝が存在し、こうだ!、というわけではない。これから紹介するアジアの創造神話がエジプト神話、ギリシャ神話、聖書、北欧神話の後に説

創造神話と超ひも理論:神々の伝承から学ぶ③

 これまで2回にわたって世界の代表的な創造神話について概説してきた。当時の社会における自然現象の理解からすると、オカルト的な内容になるのは仕方のないことである。限られた情報の中で想像力を働かせて辻褄を合わせていったら、あのような創作になることに納得いく。では、現代科学ではどのように世界創造を捉えるのか。全くの素人だが、超ひも理論と創造神話を語ってみたい。(小野堅太郎)  超ひも理論は、学べば学ぶほど、ひもではなくて「弦」であるので超弦理論と呼ばれるべきものである。ビッグバン