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天才不要!DXイノベーションを組織的に創発する手法とは?

DXの勝負はこれから

今は第4次産業革命の真っただ中にある。第4次産業革命の中核となるデジタル技術はIoT、ビックデータ、AI(人工知能)、ロボットなどだ。その中で最も価値を生んでいるのはビックデータとAIだろう。

世界時価総額ランキングを見ると、マイクロソフト、アップル、アマゾン、アルファベット(Googleの親会社)、アリババなどビックデータとAIのノウハウが強みの企業が並んでいる。

こうしたデジタル技術において、日本企業は周回遅れとなっており、現時点で劣勢であることは明らかだ。しかし、これで勝負が終わったわけではない。

シン・ニホン(安宅 和人 著)によると、産業革命には「新エネルギーと技術」、「高度な応用」、「エコシステム構築」の3段階があり、長い歴史の中で、日本は第1段階である「新エネルギーと技術」において勝者になったことは一度もなく、これから始まる第2段階「高度な応用」、第3段階「エコシステム構築」において真価を発揮し、勝者になっている。

確かに日本人は、新しいものにはすぐに飛びつかないが、一旦、価値を認めたら、それを応用しまくり、使い倒す民族のように思う。また、リーダーが明確な方向性、目標、やるべきことを示せば、日本人は個人の利益とは無関係に、一丸となって全体のために努力する。

であれば、デジタル技術の本格的な活用が始まるこれからが日本企業にとって本領を発揮できる時代になるのではないか。

勝敗がほぼ決まってしまったデジタルの基礎技術で真っ向勝負するよりも、実用段階に入った基礎技術を応用し、新たな製品やサービスを生み出すことに注力するほうが日本企業にとっては得策だ。そして、その中核に自社の得意分野を置き、競争力の確立を目指すのだ。

では、日本人がDXにおいて本領を発揮するために、リーダーは何をすればよいのだろうか。

アイディア創発を推進するマネジメントが成功の鍵

日本企業のDXが進まない原因は、トップマネジメントのリーダシップが弱いというのが定説になっている。しかし、それを嘆いてばかりいても、何も進まないし、それだけが原因ではない。

日本企業の多くは、組織的にDXを推進していく手法が確立していないため、社員やステークホルダーの課題認識を共有し、まとめることができていない。そのため、自社が解決すべき真の課題を発見し、それを解決するアイディアを複数のステークホルダーや社員がキャッチボールしながら醸成していく文化が育っていないのが大きな原因である。

だからPoCを繰り返しても、経営者、社員それぞれの思いが錯綜するだけで事業化にたどり着かない。

日本の大企業の場合、内部統制のため、社内には定型業務の手順やルールは沢山あるのだが、ビジネスアイディアを企画し、商品・サービス開発につなげるプロセスの手順やルールが殆ど存在せず、一部のクリエイティブ人材のやり方に依存している。このため、DXと言えるスケールのアイディアが生まれにくい。

DXはデジタル技術の知見だけでは実現できないし、ビジネス・ノウハウだけでも実現できない。これらを融合して初めてDXの実現が可能になる。そのためには顧客など社外のステークホルダーや社内の部門間の連携が必須である。これをスムーズに進めていくには、情報共有やアイディアを組織的にまとめ上げる手法を確立し、浸透させることが重要である。

JVCケンウッドのDX成功事例

デジタル技術の進歩により様々なIoT機器やクラウド上のシステムから発生するデータを瞬時に収集し、それを元にAIが難易度の高い課題について予測したり、自動で判断したりすることが可能になった。そして、その結果を役立つサービスとして様々なステークホルダーに提供することが可能になった。このデジタル基盤が確立したことにより、個々のユーザーだけでなく、社会やコミュニティー全体の課題を解決する様々なDXが生まれている。

JVCケンウッドの事例を紹介しよう。JVCケンウッドは、映像や音響の分野で長年積み重ねてきた技術を活用し、ドライブレコーダー市場に参入した。

同社のドライブレコーダーで特に強みとなっているのがビデオカメラ関連の技術だ。映像を処理するためのSoC(System on Chip)レンズ、イメージセンサー、ISP(Image Signal Processor)などビデオカメラを構成する要素部品の全てを自社開発しており、これらの技術をもとにした画像チューニングが同社のドライブレコーダーの強みとなっている。

同社のドライブレコーダーは自動車事故発生時の状況記録を目的に開発されたものだが、クラウドシステムと連携し、瞬時に現場の情報を共有することにより、テレマティクス保険という新たな金融サービスに発展させた。

テレマティクスとは、テレコミュニケーション(電気通信)とインフォマティクス(情報処理)を合成した造語である。テレマティクス保険はテレマティクスを活用した自動車保険である。

自動車に搭載したドライブレコーダー(IoT機器)が、保険契約した自動車やドライバーの運転情報をクラウドシステムに集め、保険会社と共有する。保険会社は運転データを分析して保険料率を計算し、ドライバーに保険料を請求するという仕組みである。ビッグデータの分析にはAIを活用して精度向上、自動化を図っている。

国内においては、大手保険会社であるMS&AD向けのドライブレコーダーが事業の中心になっており、2019年度第1四半期に順調に推移し、大きく売上が伸びている。その結果、コア営業利益も(前年同期比で)3億円のプラスになっており、DXが全体としての増収増益に貢献している。

このビジネスモデルは、長年培ってきた独自の優れたハードウェア技術の上に成り立っており、GAFAのようなデジタル・ディスラプターが簡単に真似できるものではない。ハードウェアの優れた技術を持つ日本の製造業にとって手本になる。

本事例はデジタル技術と自社の強みを融合することにより、新たな事業を創出し、業績向上につながったDXの成功事例と言える。

参考WEBサイト
JVCケンウッド×ゼンリン、業務用車両向け次世代テレマティクスサービス開発で協働 / レスポンス(response.jp)
ささえるNAVI・Bizセイフティ / あいおいニッセイ同和損害保険株式会社
JVCケンウッド、あいおいニッセイ同和損保の事故低減支援サービスに通信型ドライブレコーダーが採用 / 日本経済新聞
JVCケンウッド、1Qは増収増益 オートモーティブ分野が低迷も、DXビジネスの売上拡大が貢献 / 財経新聞
ドライブレコーダーからIoT機器市場に参入、JVCケンウッドの強みとは / MONOist

DXで新たな顧客を創造するには?

ケンウッドの事例では、ドライブレコーダーの情報をクラウド上で共有できるようにしたことで、保険会社という新たなステークホルダーが加わった。顧客もドライバーとしてだけでなく、保険契約者という新たな立場が加わった。

保険会社はドライバーの走行に関する生のデータを得ることで、ドライバーの運転技術を分析し、適正な保険料を計算することが可能になった。ドライバーは安全運転の意識が高まり、交通事故の抑制にも繋がる。

このようにクラウドにより情報共有が容易になると、情報によって新たな価値が生まれ、利益を得られるステークホルダーが増え、新たな顧客を創造することができる。

組織的にアイディアを創発する「システム思考法」

JVCケンウッドの事例のように、DX時代に競争力ある製品・サービスを企画するには、複数のステークホルダーにどのような利害関係があり、どのような課題が生じているかを俯瞰的に分析することが重要だ。それには「システム思考法」が役立つ。

システム思考とは、互いに影響しあう要素とその構造をひとつのシステムとして捉えて、それぞれの要素が与える影響や作用を図に表し、全体像を把握することにより、課題解決や施策を検討するための手法である。

クラウドで瞬時に情報共有し、その情報を使ってAIが自動で判断が行えるようになれば、ひとりのステークホルダーにつながる先が新たなステークホルダーとなって、何らかの価値を交換できるようになるかもしれない。また、ステークホルダー間の利害関係に何らかの課題があれば、それを解決することができるようになるかもしれない。

このような検討をシステム思考法の図表を使って共有し、既存のステークホルダー(顧客、提携先等)や、様々な知識・スキルを持った社内人材が、気づき、課題、アイディアなどを出し合えば、新たな顧客となるステークホルダーを発見したり、自社の強味を使って解決できる重要課題を発見することができるようになる。

システム思考法による製品・サービス企画は、以下のステップで進めていく。

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①ステークホルダー分析(ステークホルダー間の利害関係と課題の全体把握)
②要求分析(顧客の真の要求の把握)
③要件定義(要求を満たす最適な手段の定義)

(参考書籍)

 会社に天才がいないならば、ステークホルダーや組織を動かし、このステップを推進するスキルを持った人材を育てることがDX成功の鍵だ。これであれば手法を学び、改善を続けることにより、確実に前進する。


では、具体的にどう進めるとよいのか?

以下の記事では、システム思考法を使った製品・サービス企画の進め方について「キャッシュ・マネジメント・システム」(CMS)というソフトウェア・パッケージの企画プロセスをサンプルとして解説している。

CMSとは、子会社が複数ある企業グループの資金管理を効率化するためのシステムである。CMSは20年以上前に大手銀行と大企業が共同で開発したものであり、既に多くの企業が導入している。

よって新規性はないが、資金決済ネットワークやWEB技術を活用し、銀行と企業グループの親会社、子会社といった複数のステークホルダー間で価値交換を行う革新的なシステムであることから、DX実現のためのシステム思考法を解説する上で最適な例と言える。

また、拙著「DX時代を勝ち抜く戦略マネジメント」の第4章でも、同様にCMSを取り上げている。


 キャッシュ・マネジメント・システムについては拙著「CMS キャッシュマネジメントシステム入門」に詳しく解説しているので、興味がある方はご一読頂けたら幸いである。


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