Sakura in Sparkling Water

 午前二時。布団に寝転んであいみょんを流していたけど、なかなか寝付けない。たぶん春の夜が生温いせいだ。夏の熱帯夜に比べれば大したことないが、冬を終えたばかりの私には異世界のように思える。
 突然炭酸水が飲みたくなった。あのシュワシュワっていう気泡が喉を刺す感覚。あれだ、あれが今一番欲しい。
 財布と鍵だけ持って家を出ると夜風がまとわりつく。春の生温い空気が苦しいのはあの人のせいなのだろう。

 春になり桜が咲き始めている。今日の昼も河原は花見の人で賑わっていた。人々は桜にどうしてああまでも群がるのだろう。桜が綺麗だとは私も思うけど、それが理由ならなぜ梅には同じことをしないのか。結局ミーハーってだけ?
 もういっそ桜が終わった頃に「花散っちゃったけど、花見しない?」って言われたい。あり得なかった二回目の春を。

 真っ暗な部屋で買った炭酸水を手探りで開け口に運ぶ。何も見えないせいかいつもより研ぎ澄まされている感覚に、刺激が一つ二つとほぼ連続して感じられる。そして一層感覚が鋭くなっていく。
 桜なんて散ってしまえ。あの人への感情だけが鮮明になっていく中で、そう思った。

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