新規事業に不可欠な仮説検証のプロセス

仮説検証の重要性

新規事業のプロセスについて、今回は仮説検証の方法について解説をしていきます。

前回のコラムでは、仮説立案の方法についてご紹介をしてきました。
仮説を立案したら、それが正しいのか検証をする必要があります。

仮説がそのまま顧客に受け入れられることもありますが、新規事業の場合は、立てた仮説がそのまま受け入れられるということはまれで、多くの場合は修正が必要となります。
新規事業は「1勝9敗」「成功確率5%」などといわれ、多くが失敗しています。これは、間違った仮説のまま突き進んでしまうケースが多いことが影響しているだろうと思います。

なお、少し古いデータとなりますが、「中小企業・小規模事業者の成長に向けた事業戦略等に関する調査」(中小企業庁の委託により、㈱野村総合研究所が実施)によると、成功確率は約27%と巷で言われるよりも高い結果が出ています。

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仮説が正しければ、成功確率は大幅に上げられます。
仮説の精度を上げるためのプロセスが今回ご紹介する「仮説検証」です。


新規事業の市場環境別の仮説検証の使い分け

新規事業といっても色々な新規事業がありますが、ここでは2つのタイプに区分けします。

①導入市場・成長(前期)市場に投入する新規事業
②成長(後期)市場、成熟市場に投入する新規事業

仮説検証を行ううえで、この2つの違いは、顧客ニーズや顧客にとっての付加価値がわかりやすいかどうか、具現化されているかどうか、という点です。

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成長(後期)市場、成熟市場に投入する新規事業の場合

まず、「②成長(後期)市場、成熟市場」の場合は、想定顧客が製品・サービスの内容をある程度理解しています。
また、競合企業も出そろっているため、どのような製品・サービスを提供すれば顧客ニーズが満たされるのかについて、立てた仮説を検証するまでもなく理解できることも多いです。
「一定の市場規模」ができていて、「競合企業を含めたプレーヤー」が出そろっているこの状況で重要なことは「差別化」です。
具体的には、下記のような内容です。

・競合企業と差別化する製品・サービスを提供できるのか
・そのための経営資源を保持しているのか
・差別化内容が顧客にとって価値があるのか
・中長期的視点で競争優位を確保できるのか

そもそも、話しの展開を覆してしまうかもしれませんが、「②成長(後期)市場、成熟市場」向けの製品・サービスの場合仮説検証はそこまで重要ではありません。

なぜなら、事前にある程度の想定や検証を踏んだ(市場調査を行った)うえで、仮説を立てていると思います。
また、顧客ニーズが具現化されているので、検証プロセスに時間やお金をそこまでかけなくても、想定した仮説案が正しい場合が一定数あります。
そのため、検証をすべきボリューム(時間やお金)はそこまで大きくならないことが多いです。

導入市場・成長(前期)市場に投入する新規事業の場合

続いて、「①導入市場・成長(前期)市場」向けの新規事業の場合です。
導入市場の場合に顕著ですが、投入予定の新規事業が市場でほぼ認知されておらず、市場規模がほぼ0に近い状態という特徴があります。

このケースにおいては、競合との差別化は重要ではありません。
それよりも、顧客からすると「見たことも聞いたこともない」新しい製品・サービスに当たるので、その「見たことも聞いたこともない」製品・サービスをどのように価値を見出してもらうのかが圧倒的に重要です。
(2021年1月から日本で流行り始めた、Clubhouseがまさにこの例に当てはまります。「音声SNS」、「ラジオの民主化」などと言われ、サービスの価値が分かりやすく表現されています。


一方で、マネタイズの方向性として、広告モデルで進むのか、D2Cで進むのか、見えない部分も多いです。)
価値を見出すかどうかを判断するうえでは、付加価値があると感じるかどうかです。
この、付加価値を理解してもらうというのが非常に難解です。
自分たちは、革命をもたらす素晴らしい新規事業だと思っても、顧客にとっては異なる受け取り方をしたりします。
したがって、自分たちの中では練りに練って自信をもって市場に投入したものの、進めてみると顧客の反応が想定通りではなく、結果として売れないということがよくあります。
その結果、大きく事業を軌道修正しなければならなかったり、撤退したりということも多いのではないでしょうか。
まず、付加価値を顧客に理解してもらわないと、なかなか話がすすまないのですが、付加価値が何なのかという点を定義するのも、これまた難しいです。

勘違いしてしまいがちなのが、「革命」をおこしたり、「革新性」が高い製品・サービスを生み出したりすればよいと思いがちなところです。
「革命」「革新性」があったとしても、それ自体が顧客にとっての付加価値に直結しない可能性があります。
なぜなら、「革命」「革新性」が高いほど、顧客にとってわかりにくく感じることがあるからです。

例えば、顧客から「確かに、すごい革命をもたらす可能性があるものの、難しくて自分では実現できるイメージがわかない」と言われるようなことが、これにあたります。
この、「革命をもたらす可能性があるものの、難しい」という点について、例えば、BtoBの営業支援システム(SFA)をイメージして考えてみます。


SFAの難点は、入力と更新の手間、他の関連するシステムとの整合性の確保などがあります。
ちゃんと運用できれば、効果は高いものの入力が面倒なので、運用しても、入力の工数ほどの効果が見いだせず、稼働がうまくいかないというケースをよく聞きます。
例として、面倒な入力作業を他のシステムと連携することにより自動で行ってくれるサービスを想定します。
そのためには、見積情報を管理するシステムやスケジュールや日報などを管理するグループウェアと連携することが必須となります。
連携の際には、連携上の要件があり、その要件を満たそうと思うと、見積や日報の入力がこれまで以上に大変な運用になることが想定されます。
これでは、「可能性としては面白いけど、わが社では運用できない」「直ぐに適用することは難しい」「上司や営業を説得できない」といわれかねません。

この「わが社では運用できない」が解決できればよいのですが、ここが簡単ではないので、なかなか事業として伸ばすのが難しかったりします。

こういった、革命をもたらす可能性があるものの理解をしてもらいにくい付加価値を「本質的な付加価値」とここでは定義します。
中長期的に事業を成長させようと思うと、この「本質的な付加価値」を持つことは非常に重要ですが、実際に製品・サービスを成長させようと思うと、この「本質的な付加価値」だけを見ていては最初につまずいてしまうということです。

この点を解決するためには、
・顧客にとって分かりやすく
・顧客にとって身近に感じ
・簡単に実現できそう
と思われるようないわゆる「表面的な付加価値」が非常に大事です。


これは本質ではないものの、「本質的な付加価値」を認識してもらうためにも、最初の接点段階で重要となります。
特に、付加価値が伝わりにくい領域の新規事業を行う上では、「表面的な付加価値」が合わせて必要となります。

表面的な付加価値と本質的な付加価値の話をしましたが、事前にこの2つの付加価値を設定したうえで仮説立案に臨んでいたとしても、そのままでうまくいくことはまれです。
なぜかというと自社にとっても顧客にとっても新しい部類の製品・サービスであるため、仮説を立てた段階では誰も正解がわからず、仮説のレベルがどうしても低い「憶測」になってしまうからです。

くりかえしになりますが、この「憶測」で立てた仮説の精度を少しでも上げるために仮説検証を重視する必要があります。
このプロセスを重視することで、新規事業の成功確率は大きく変わります。

少し脱線しますが、ここについては、新規事業を行う側、既にシェアを取っている大企業側の両方で、イノベーションのジレンマを意識する必要があります。詳しくは、今後の記事の中でご説明します。

市場別の仮説検証の仕方を簡単にまとめると以下の様になります。

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仮説検証を行うための4つの類型

仮説検証を行う手法として主に4つの方法があります。これは2つの軸で考えることができます。

1つ目の軸は、少数の相手に対して、濃い検証を行うのか、多数の相手に対して、絞った内容の検証を行うのかという「検証人数(1人当たりのさ)」です。
2つ目の軸は、想定しているターゲットを対象に検証するのか、それ以外の人に検証するのかという検証相手の「属性」です。

図にすると下記のような感じです。

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この中で、一番大事なのは、「想定顧客へのヒアリング」で間違いないでしょう。
実際に製品・サービスを利用するターゲット層の生の声なので、非常に重要です。
ただし、想定顧客を見つけるというのも難しく、簡単には進まないです。
特に、「①導入市場・成長(前期)市場に投入する新規事業」向けの製品・サービスの場合は、想定ターゲットだと判断したヒアリング相手が革新性がある新サービスの付加価値を理解できず、価値を感じてもらえないということがあります。


これを単純に、顧客ニーズに合わなかったととらえるのか、ヒアリングした相手が「価値観や知識レベル、改善意欲などが想定と異なり、「想定ターゲット」ではなかったと考えるのか非常に難しいところです。
このように、想定ターゲットだと思っていたとしても革新性が高い製品・サービスであればあるほど、「想定ターゲット」だと思っていた相手でも受入れられにくいということもあり、真の想定ターゲットを見つけるのは非常にハードルが高いものです。

「社内や知り合いへのヒアリング」は、社内の営業担当者やその他新規事業に関連しそうな部署の担当者、協業先など近しい相手へのヒアリングです。想定ターゲットほど気づかいをしてヒアリングをする必要がなく、本音で語れる相手へのヒアリングです。

「統計調査データの活用」は、民間の調査会社や国が実施している統計情報などを活用することです。
そのまま、利用できるというものはそれほど多くないかもしれませんが、利用できる部分もあったりしますので、こちらも利用します。
ただ、これは仮説立案の前段階ですでに利用していることが多いので、仮説検証の段階ではそれほど活用するケースは多くはないと思います。

「多数へのアンケート調査」は、既存事業の顧客で新規事業のターゲットとなりえる相手やリサーチ会社などを通じてターゲットと想定されるモニターを相手に調査を実施することです。

以上4つの検証方法について概要だけご紹介しました。
それぞれの特徴やメリット、デメリット、ヒアリングすべき内容、ヒアリング相手の探し方などについては別途の機会にまたご紹介をしていきたいと思います。


まとめ

今回は仮説検証についての解説をさせていただきました。
このフェーズを踏まなくても事業ローンチすることはできなくもないですが、やらなければかなりの確率で失敗をしてしまうので、本来必ずやらなければならないフェーズです。
ただし、新規事業の立ち上げのスキームをあまり理解されていない方が新規事業を起こす場合は、このフェーズを飛ばしがちです。
また、この仮説検証は、一度行って終わりというわけではなく、本来は何度も繰り返し行う必要があります。
仮説を立てて、検証して、仮説を練り直して、検証して・・・といった感じです。

ヒアリング作業など泥臭さも求められ、大変な作業だとは思いますが、非常に大事なので、面倒がらずに作業をすることが必要になります。

次回は、新規事業のステップ7の「具現化」についてご紹介していきます。

著:森本晃弘NS.CPA

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