新規事業を検討するうえでペルソナの設定は必要か?

新規事業を計画する際に、「誰に向けた製品・サービスを展開していくのか?」というターゲット設定はとても重要です。
そのため、このターゲット設定を、どこまで細かく行うべきかというのは新規事業開発をするうえで、一つの論点になります。

言い換えると、新規事業のターゲティングで「ペルソナ」の設定をすべきかどうかという議論です。


ターゲット設定の方法

ペルソナの設定が必要かどうかを考える前に、まずターゲット設定について説明していきます。

どんな、新規事業でもターゲットは必ずいますので、ターゲット設定は必要不可欠です。

ターゲット設定の方法について、下記のような感じで大きく3種類に分類出来ます。

図1

このうち、①属性ターゲティング(デモグラフィック変数と呼ばれることもあります)、②心理・行動ターゲティング(サイコグラフィック変数と呼ばれることもあります)は粒度が粗めのターゲット設定の手法です。対して③ペルソナ設定は、1人の人物像まで入り込んで細かくターゲット像をイメージする方法です。


1つ1つ解説します。

①属性ターゲティング
年齢や住んでいる地域など固定的な情報をもとにしたターゲット設定の方法をいいます。時の経過により内容が変動することはありますが、心理面や行動面といったその時々での価値観や感情などにより左右されない定量的な内容です。

この属性情報は、BtoCビジネスかBtoBビジネスかにより内容が大きく変わってきますが、例としては次のような内容が該当します。

画像2

②心理・行動ターゲティング
こちらは先ほどの属性ターゲティングと逆となりますが、心理面、行動面にフォーカスをしたターゲティングです。
属性情報のような固定された情報ではなく、価値観や感情面など内面の心理や行動といった定性的な情報を定義付けしたうえでターゲティングするものです。これは、業種業界により設定すべき内容が異なってきますが、飲食店をもとにした一例としては下記のような内容です。

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③ペルソナ設定
ペルソナは、ここまで記載したターゲティングからさらに踏み込んで、具体的な個人のイメージまでターゲット像を明確化する方法のことで、1人のターゲットをイメージして具現化していきます。

属性ターゲティングや行動ターゲティングで記載した内容をもっと細かく考えたうえで、新規事業の一番のターゲットとなる人物像を作り上げていきます。

例えば、下記のような感じです。

画像4

途中から記載を割愛しましたが、ターゲットがどのような人物かをイメージするために必要な情報を網羅的に記載していきます。どこまで細かく設定すべきかという点はケースバイケースですが、一般的にはどのような人物像かを具体的にイメージできるように、家族構成や趣味、悩みなど細かい情報をたくさん記載していきます。
なお、BtoCのイメージでペルソナの例を記載しましたが、BtoBでも似た様なイメージで設定します。
例えば、営業支援ツール(SFA)の新規事業を検討する時のペルソナ設定の例としては、「年商500億円程度のTier2企業の営業部の部長で、事業部の売上向上が課題だが、全社の営業情報(名刺や他の事業部の営業部員の人脈等)が共有されておらず、自分の事業部の商材のクロスセル・アップセルの提案可否が分からない」という様なイメージになります。


ペルソナ設定は必要かどうか?

ここまでが前置きでして、「今回のテーマは新規事業のターゲティングでペルソナは必要か?」です。

結論としては、ケースバイケースでかつ、ペルソナの細かさを柔軟に設定するのが良いと考えています。

まず、ペルソナを設定するメリットですが、下記の2つが考えられます。
(1)チーム(複数人)全体の認識・方向性を合わせる効果がある
チームなど複数人で新規事業を事業化する際に、ターゲット像が抽象的だと、各チームメンバーが考えているターゲット像にずれが生じ、とるべき戦略・戦術の考え方に相違が生まれたり、製品・サービスの完成イメージにずれが生じたりすることがあります。対して、ペルソナにより、ターゲット像を具体化することで、チーム内での認識のずれが起きにくくなるという大きなメリットがあります。

(2)製品・サービス検討の質が上がる可能性がある
新規事業は顧客の課題の解決をできるかどうかが重要です。そのため、具体的な人物像をイメージして、想定した人物が抱えている課題を具体的に検討する必要があります。その結果、解決策である製品・サービスの質を上げることが可能になります。

以上、ペルソナは製品・サービス設計をする際に有効に働く可能性があります。


対して、ペルソナを設定する弊害です。こちらは3つ考えられます。
(1)設定したペルソナが間違っている可能性
ペルソナは細かな情報までイメージを行ったうえで、人物像を具現化していきます。人物像を具現化していくうえでは、以下の2つの方法があります。
・架空の人物をイメージして設定する方法
・具体的にターゲットと考えられる実在の人物をもとにする方法
どちらの方法で行うにしても、PMF(プロダクトマーケットフィット)を行ううえで、最初に想定したペルソナが本質的なターゲットになっているかというとそうとは限りません。製品・サービス同様でターゲットも間違っていることを前提に適宜アップデートが必要となるため、ペルソナとして細かく人物像を設定しすぎると、ペルソナに固執しすぎてターゲットを誤ってしまう可能性があります。

(2)ペルソナ以外のターゲット層への販売にマイナスになる可能性
事業の内容に大きく左右されますが、製品やサービスはペルソナだけに売れればよいというわけではなく、もちろん他の層にも売れる必要があります。ターゲット層の代表であるペルソナの課題解決をイメージした製品・サービスが他のターゲットにも同じように売れればよいですが、必ずしもそうとは限りません。ペルソナにフォーカスしすぎることが全体最適の視点ではマイナスになる可能性があります。例えば、20歳~60歳までターゲットなのに、ペルソナを50歳にしてしまうと50歳ばかり意識し、20歳など他の年齢向けではマイナスになる可能性があるという意味です。

(3)単純にコストや工数がとられる
(2)に関係する部分ですが、ペルソナは必ず1人だけとは限りません。場合によっては、数人ペルソナを設定することがあります。複数人ペルソナを設定するのは時間がかかりますし、想定と異なっていた場合にはメンテナンスも必要です。単純にコストや工数がとられるという弊害があります。


以上、ペルソナを設定するメリットと弊害について記載いたしました。
図で表すと下記のような感じでしょうか。

図2

これらの弊害が起きないようにどうすべきかという視点でいくつかの工夫が必要となります。
(1)属性情報にこだわりすぎず、心理・行動情報を優先する
弊害の(2)でも書きましたが、属性情報にこだわりすぎるとマイナス面があるので、属性情報はこだわりすぎないということです。
女性限定としているネイルサロンやエステサロンなどの様に、明確にターゲットを女性と決めている製品・サービスの場合は、ターゲットの性別は女性であると定義する必要があります。ただし、そうでない場合は、属性情報を明確化する必要があるかどうかを疑う必要があります。例えば、年齢は39歳などペルソナでは明確に決めますが、これが38歳でも40歳でも大差ないと思います。あくまでも人物像をイメージするという点においては有益ですが、本来は38歳でも40歳でもターゲットなので、ここにこだわる必要はないだろうという意味です。逆に、20歳でも40歳でもターゲットになるので、ペルソナを40歳と設定してしまうと20歳向けではマイナスに働く可能性があります。
対して、心理・行動情報については、製品・サービスに全く関連しない心理・行動情報は除き、ターゲティングをするうえで有益となることが多いので、ある程度細かく設定することは有効です。

(2)ペルソナ設定が向いている製品・サービスかを意識する
たとえば、日本全国の1億人がターゲットと想定する製品・サービスを考える場合だと、1人のペルソナを設定すべきではありません。
たとえば、最近の例で言うと、電力・ガス自由化に伴い、電力・ガスの小売に新規参入を検討したケースが当てはまります。この様により多くの層に向けた製品・サービスであればあるほど人物像を1人ないし数人に絞り込むというのは困難です。そのため、1人ないし数人のペルソナ設定が多くのターゲットを網羅できるかどうかを意識し、網羅するのが難しそうであえばペルソナの設定にこだわらない方が良いと思います。

(3)製品・サービスをアップデートするのと同じようにペルソナもアップデートする
製品・サービスは検証を重ねてアップデートしていくというのが基本ですが、ペルソナについても当初の想定があっているとは限りません。製品・サービスの検証・アップデートと一緒にペルソナもアップデートしていき、真のターゲットとのずれを解消していく必要があります。

(4)ペルソナ設定の目的に立ち返る
ペルソナを設定することが目的なのではなく、顧客が抱えている課題を明確化しやすくし、製品・サービスが顧客の課題を解決することにつながるかどうかの検討を手助けするのがペルソナです。
ペルソナの設定が目的ではないので、不必要な内容に振り回されてないか、本当にペルソナ設定が必要かなどを考えて、場合によってはペルソナ設定をやめたり、ペルソナ設定を粗くしたりする必要があります。


まとめ

いろいろと書きましたが、我々としてはペルソナの必要可否は製品・サービス内容によるということと、細かすぎる必要はないというのが見解です。

一番大事なのは、心理・行動によるターゲティング、続いて属性ターゲティングです。これはマストで、ペルソナ設定は深すぎないレベルまでといった感じかなと思います。

ペルソナに対する考え方は人それぞれだと思いますが、今回は我々のペルソナに関する考え方・とらえ方についての記事を書きました。お読みいただいた方にとって、少しでもお役に立つ部分があると幸いです。

著:森本 晃弘NS.CPA

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