「ほうれん草を育てながら哲学してみた」第3話〜正解はひとつじゃない〜
さて、プランターと土とスコップとじょうろを購入したら、いよいよ種を蒔く。種はあらかじめ2日ほど水に浸しておいた。こうした方が発芽率が良いらしい。
しかし調べてみると、種を水を浸すにしても、やり方がいろいろある。
「水に浸すのは1日だけ」とか、「2日間浸して、その後は冷蔵庫で発芽させる」とか……。さらに、もともと発芽しやすい処理がなされた種というのもあって、その場合は水に浸す必要はない、とか。
素人の僕にはどれが一番いいのか全く判断がつかない。こういう時は、得意のなりゆき戦法である。結局は2日間、種を水に浸したわけだが、それは狙ったというよりも、「水に浸してから2日後にプランターが揃った」というだけの話である。こんないいかげんなことで、この先大丈夫なのだろうか(笑)。
種を蒔く前に、YouTubeでほうれん草の育て方の動画をいろいろ見てみた。すると困ったことに、みんな全然違うことを言っているのである。もちろん多数派と少数派のやり方があるので、どれが王道でどれが異端なのかはだいたいわかる。だが、「本当に正しいやり方はどっちなのか?」というのはさっぱりわからない。
たとえば、種を埋める深さも人によって違うし、そのあと水をどれくらいやるのかも違う。ほとんどの動画では、「ある程度芽が出てきたら間引きをしろ」と言うのだが、一方で「間引きはするな!」という動画もある。「土をしっかり固めないと育たない」という人もいれば、「土のやわらかさが大事」という人もいる。オー、マイ、ガー、である。
一体どれが正解なのか。たぶん、全部正解なのだと思う。
野菜を育てるという行為の背景には、さまざまな条件、風土、思想、目的があって、それはその育てる人や場所によってさまざまなのである。だから、絶対的なひとつのやり方というのは存在しないのだろう。
「1+1」の答えは誰が計算しても「2」になるが、「ほうれん草の育て方」の答えは育てる人によって違ってくる。当たり前のことだが、これはやってみないと案外気付かないものかもしれない。
ただし、「なぜそのやり方を採用しているのか」という解説を聞いていると、どんどん植物や生物などの有機的な生態系の本質に迫っていくことになる。そしてそれを深いところまで突き詰めると、「実はみんな同じことを言っていた」ということに気付いたりする。
同じ本質から多様な作法が生まれてくる、というのは実におもしろい。まさに仏教でいう「一即多」の世界である。
それはともかく、じゃあ自分はどのやり方を採用するのか?
もちろん全てのやり方を網羅することはできないので、たまたま見た動画や本のやり方に従っていくことになるだろう。ここはもうご縁にかけるしかない。そしてご縁というのは面白いもので、「誰と出会うか」というご縁だけでなく、「いつ出会うか」というご縁もある。
そしてこのご縁こそ、正解・不正解を超越した世界である。僕は今回、この「いつ出会うか」のご縁でちょっと失敗してしまったような気がするのだが、それはまた次回に。
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